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職業を重視して認定された等級以上の労働能力喪失率を認めた裁判例【後遺障害併合12級】(大阪地裁 平成18年6月16日判決)

事案の概要

交差点の横断歩道上のX運転の自転車に、Y運転の普通乗用車が衝突したという交通事故により、右肩・肘・膝の打撲傷、右肩関節外傷後拘縮、右上肢不全麻痺等の傷害を負ったXがYに対し、損害賠償を求めた事案。

Xの職業は画家だったが、本件事故によって利き手の右手が思うように使えなくなる、絵が書けなくなるなど、主に右上肢に運動機能障害、脱力感、知覚障害などの自覚症状が生じていた。自賠責保険からは、右肩関節の運動機能障害につき後遺障害等級12級6号、右手指の神経症状につき後遺障害等級12級12号(現13号)に該当するとされ、後遺障害等級併合11級の認定を受けていた(他の右膝関節の症状については非該当)。

<主な争点>

①右肩関節の運動機能障害と右手指の神経症状の後遺障害等級
②右手指の神経症状による労働能力喪失率

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 69万7490円 69万7490円
休業損害 294万6904円 254万6005円
傷害慰謝料 80万0000円 80万0000円
逸失利益 5850万0726円 1814万6213円
生活介護費用 441万1025円 0円
後遺障害慰謝料 390万0000円 390万0000円
小計 7125万6145円 2608万9708円
損害の填補 ▲547万8722円 ▲547万8722円
弁護士費用 600万0000円 200万0000円
合計 7177万7423円 2261万0986円

<判断のポイント>

(1)Xの右肩関節の運動機能障害については、自賠責保険から、腱板損傷後の拘縮により、患側の右肩関節の可動域が健側の左肩関節の4分の3まで制限されているとして12級6号の後遺障害が認定されていました。

しかし、裁判所は、症状固定前の検査では健側の4分の3まで制限されていたものの、症状固定後、しばらく経過した後に行われた検査では、可動域が改善され、健側の4分の3までは可動域が制限されていなかったこと、また、可動域制限以外に他覚的所見が認められないことを認定し、右肩関節の症状については、局部の神経症状として14級10号(現9号)に該当すると判断しました。

自賠責保険の後遺障害等級認定は、症状固定日までの症状の経過や治療状況、検査結果を記載した診断書等の書面に基づいて審査され、その審査の結果、認定基準を満たすと判断されれば、後遺障害と認定されることになります。

そのため、本件の自賠責保険の認定は、あくまでも症状固定日までの検査結果に基づくものとして、一概に誤った判断とは言い難いと思います。

他方で、後遺障害は、形式的には症状がずっと残ることが前提となっているので、症状固定後に症状が改善したことにより、後遺障害等級の認定基準を満たさなくなったということであれば、それは後遺障害等級には該当しないと判断されるのもいわば当然であり、裁判所の判断は妥当なものといえるでしょう。

(2)右手指の神経症状については、裁判所は、神経学的所見として、筋力低下や知覚障害、筋電図の異常所見が見られること、事故の態様からすると右腕神経叢不全損傷の可能性も否定できないことから、局部の頑固な神経症状として12級12号に該当すると判断しました。

この点、後遺障害等級12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」として認定されるためには、他覚的所見によって、神経症状の存在が医学的に証明される必要があります。

たとえば、骨折後に生じた神経症状であれば、骨がうまくくっ付いていない(癒合不全)の状態であることが、レントゲン画像によってはっきり分かる場合には、神経症状の存在が医学的に証明されているものとして、12級が認定される可能性は高いです。

この事案で裁判所は、Xの右手指の症状の原因として認定した、右腕神経叢不全損傷について、画像所見等が存在しないことから、「可能性も否定できない」と直接的な表現は避けていますが、神経学的検査の結果、多数の異常所見が認められることや、事故態様などにより、間接的に証明されたものとして12級の後遺障害を認定したものと思われます。

画像所見のような直接的な証拠がなくても、間接的な証拠の積み重ねによって、神経症状の存在が証明されるという、X側の立証活動が功を奏した例といえるのではないでしょうか。

(1)前置きが少し長くなりましたが、今回の事案で着目すべきは、裁判所が認定したXの労働能力喪失率です。

上記のように、右肩関節の運動機能障害について14級の局部の神経症状として認定された結果、Xの後遺障害等級は、併合11級ではなく、併合12級と、自賠責保険の認定よりも下の等級が認定されました。
もっとも、Xの労働能力喪失率について、裁判所は、Xが画家としての能力を喪失していると認められること、Xの年齢(症状固定時61歳)や経歴、後遺障害の程度を考えると、Xが就くことができる職業がかなり限られることを考慮すると、労働能力の喪失の割合は、一般的な事例と比較して大きく評価するのが相当であるとの判断を示しました。

そして、後遺障害の部位が右手指と右肩のみで、身体全体の機能はかなりの割合で維持されているため、Xの主張していた100%の労働能力の喪失は認めなかったものの、50%という喪失率を認定しました。

(2)後遺障害等級12級の労働能力喪失率の目安は、14%とされており、裁判所も、この目安に従って喪失率を認定するのが通常です。

もっとも、この喪失率はあくまでも目安に過ぎないため、それ以上に労働能力が喪失していることが立証されれば、より高い喪失率が認定されることもあります(逆に低い喪失率が認定される場合もあります)。

今回は、Xが、本件事故当時、画家として絵画教室を行い、また、描いた絵画を展覧会に出品し、販売するなど、絵画のみで生計を立てていたこと、後遺障害により利き手である右手で絵を描くことができなくなったことなどの事実が認定されており、これに61歳という年齢や経歴から、他の職業に就くことが難しいという事情も考慮されて、目安の14%を大きく上回る50%という労働能力喪失率が認定されました。

労働能力喪失率は、仕事にどれだけ影響を及ぼすか、という点が大きいため、後遺障害の程度もさることながら、被害者の方の職業やその職業と後遺障害が残存した身体の部位との関係が重視されます。

たとえば、骨盤や右橈骨の骨折後の神経症状につき併合14級が認定されたダンスのインストラクターについて、神経症状によって身体の部位の可動域が制限され、指導ができなくなったことなどから、同様に50%の労働能力の喪失を認めた裁判例もあります(札幌地裁平成27年2月27日判決)。

神経症状の後遺障害で50%という喪失率が認定されるのは、かなりレアケースですが、裁判では様々な事情が考慮されて、事実認定や評価が行われるため、目安とされる喪失率を超える割合を認定した事案は、少なからず存在します。

しかし、目安よりも高い喪失率が認定されるためには、その根拠となる事情についてしっかりと主張立証することが必要でしょう。

目安とされる労働能力喪失率や喪失期間よりも実際の影響が大きいと考えられる職業の方でも、示談交渉において、相手方の任意保険会社が目安より高い喪失率や喪失期間を認めることはかなり少なく、逆に目安よりも低い提示さえしてくることも珍しくありません。

相手方の提示に納得が行かないという場合には、まずはご相談いただければと思います。

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