裁判例
Precedent
事案の概要
X(原告:28歳男性)が、自動二輪車を運転して進行中、右前方を走行していたY運転の乗用車が左折をするためハンドルを左に切って衝突、転倒して右肩関節腱板炎、右上腕二頭筋長頭腱炎等の傷害を負い、約10ヶ月通院して、右肩関節痛等から12級13号後遺障害を残したとして、既払金288万9473円を控除して1935万7076円を求めて訴えを提起した。
<主な争点>
①Xの過失の程度と過失相殺の可否
② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容
<主張及び認定>
主張 | 認定 | |
---|---|---|
治療費 | 87万1885円 | 87万1885円 |
通院交通費 | 2万5046円 | 2万5046円 |
休業損害 | 278万5415円 | 154万8420円 |
通院慰謝料 | 146万5000円 | 89万0000円 |
後遺障害慰謝料 | 290万0000円 | 110万0000円 |
小計 | 2048万6815円 | 516万4317円 |
既払金 | ▲288万9473円 | ▲288万9473円 |
弁護士費用 | 175万9734円 | 22万0000円 |
合計 | 1935万7076円 | 249万4844円 |
<判断のポイント>
(1)Xの過失の程度と過失相殺の可否
本件では、Yが安全確認を怠ったまま直近で左折した著しい不注意があるとXが主張していたのに対し、Yは、Xの運転するバイクの右側前方で、左折の方向指示器を出した後に左折を開始したのであり突然左折したのではない、また、XはY車が左折することを予見し回避することができたことから過失があるとして争っていました。
まず、本件のような事故態様では、一般的には、自動二輪車の側が2割、自動車の側が8割の過失割合と考えられています。
ここで一般的とは、交差点の手前30mの地点で、自動二輪車に先行している自動車が左折の合図を出して左折を開始した場合が想定されています。
自動二輪車に2割の過失があるとされているのは、交差点の30m以内は追越しが禁止されているので(道路交通法38条3項)、先行する自動車がある場合には、その前に出ようとすることは許されないという考えがあるためです。前方に自動車があることをわかっているのだから、自動車が左折するなどの動きを見せるかもしれない、その場合には減速するなどして事故を回避しなさいというような注意義務が課せられているのです。
ただ、本件でXが主張するように、突然前方の自動車が左折して事故を回避できない場合には、過失割合が修正されて、自動二輪車に1割の過失だったり、過失なしの認定がなされたりします。
本件において裁判所は、Y車が左折方向指示器を出した地点と本件事故現場(約10m)との距離や、本件事故直前のY車のスピードから、Y車が左折指示器を出してから左にハンドルを切るまでに進んだ時間は2秒にも満たない時間であると認定しました。
そして、Yにそのような過失がある以上、Xには何らの過失もないとして過失相殺を認めませんでした。
本件において裁判所は、方向指示器を出して左折するまでの距離(10m)ではなく方向指示器を出して左折するまでの時間(2秒未満)を重視しているようです。
進路変更するにあたっては、その3秒前に合図を行う義務(道路交通法53条1項、同法施行例21条)があることはみなさんご存知かと思われます(もしかしたら忘れている方もいるかもしれませんが…)。
しかしながら、残念なことに、進路変更する直前に方向指示器を出される方もたまに見かけます。
近所の慣れている道路で、交通量の少ない道路であれば大丈夫と考えている方もいるでしょう。
ですが、仮にそれで事故を起こしてしまった場合、2割の過失相殺もされない可能性があるのです。
逆に、被害者となってしまった方は、もしかしたら警察などから一般的な基準を用いられて2割の過失はあるなどと言われるかもしれません。
しかし、警察の言うことは、最初の段階でまだ十分な検討がなされていない状況で判断されている場合も多いのです。
相手の保険会社から言われる場合も同様です。
そこであきらめず、実況見分調書などの客観的な資料に基づいて、事故を回避できないことを証明することによって、過失相殺などされず損害の全額が支払われることは十分にあります。
警察や相手方保険会社から言われた過失割合に納得できないときには、是非当事務所にご相談ください。
(2)Xの傷害、後遺障害の有無及び内容
本件では、Xの後遺障害逸失利益も争点となりました。
Xは、本件事故により、右肩関節痛などの症状が残存し、後遺障害等級表12級13号に該当すると主張し、Yはレントゲン検査やMRI検査で、外傷性の異常所見は認められていないとして全面的に否認しました。
確かに、後遺障害の認定には、画像所見や神経学的所見などの他覚所見が有効になります。
自覚症状だけでは、裁判所も後遺障害の認定には消極的と思われます。
しかし、画像所見や神経学的所見などの他覚所見が認められなくても、①事故態様が相当程度重いものであること、②当初から通院を継続(多数回あればなおよし)していること、③通院当初から症状が一貫していることなどから、後遺障害が認められることもあります。
本件において裁判所は、自動二輪車を運転していた際の転等による衝撃の程度も決して軽微とはいえないこと、事故当日ではないものの、通院の当初から右肩鎖関節部をはじめとする右肩痛を訴えていたことなどから、Xは、右上腕二頭筋長頭腱炎の傷害を負ったことが認められるとしました。
また、MRI検査の画像上、異常所見が確認されないのは、上関節上腕靭帯の断裂という軽度損傷である可能性があり、MRI検査が受傷から1ヶ月が経過していたためと考えられると述べています。
そして、12級13号は認められないが、以上の事実から14級9号の後遺障害を負ったものと認めるのが相当という判断をしました。
このように、画像所見や神経学所見など他覚所見がなくとも、後遺障害が認定されることは十分にあります。
MRIを撮って、医者から異常なところは見当たらないなどと言われてしまったとしてもあきらめてはいけません。
事故当初から、継続的に通院をし、症状を訴え続けることが大事です。
当事務所でも、MRI画像などの他覚所見がない方でも、事故当初からアドバイスをしていたことにより、後遺障害認定がされたケースはたくさんあります。
ただ、事故当初から、後遺障害が認定される見通しをつけるのは困難ですし、わからない方がほとんどだと重います。
しかし、これまで述べたように、事故直後の行動が大事になってきますので、もし事故に遭われてしまったら、後遺障害の有無や見通しについても相談に乗ることができますので、早い段階で当事務所にご相談いただければと思います。