裁判例
Precedent
事案の概要
Y運転の自動車が、赤信号で停車中のX運転の自動車(新車引渡し後20分のベンツ、X所有)の後部に衝突した交通事故で、X車が損傷したので、XがYに対し損害賠償を求めた事案。
<主な争点>
損害額の算定
<主張及び認定>
①主意的請求
主張 | 認定 | |
---|---|---|
新車購入費用 | 813万6100円 | 0円 |
代車費用 | 280万3500円 | 0円 |
弁護士費用 | 100万0000円 | 0円 |
②予備的請求
主張 | 認定 | |
---|---|---|
修理費 | 405万7160円 | 339万2392円 |
評価損 | 202万8580円 | 135万0000円 |
代車費用 | 282万7650円 | 87万4000円 |
諸費用 | 54万9850円 | 0円 |
弁護士費用 | 90万0000円 | 70万0000円 |
<判断のポイント>
(1)事故車の車両時価額と修理費のどちらが高額か
交通事故で、自動車が損傷した場合、いくら請求できるか?
別の裁判例解説(物的損害 連鎖事故~解けた冷凍チキン~)でもお話しましたが、「自動車の『時価額』と『修理代』とで安いほう」を請求することができます。
本件でも、X側は主意的請求として「時価額」での賠償を求めましたが、裁判所は「時価額」と「修理代」とで安価な方で損害額を決定すべきであるとして、X自身の主張によっても、「修理代」の方が「時価額」に比べて安価であることは明らかであるとして、X側の主張を退けました。
もっとも、X側は予備的請求として、「修理代」バージョンも請求していました。
そこで主張されたのが「評価損」です。
「評価損」とは、“格落ち損”とも呼ばれ、「十分に修理しても、修理後の車両価格が、事故前の価格を下回る」場合に認められます。
評価損が認められる理由は、①修理技術にも限界があるため、自動車の性能や概観等が、事故前に下がってしまうこと、②事故の衝撃で、車体、各種部品等に負担がかかり、修理後まもなくは不具合がなくても何年も経つと不具合の発生が起こりやすくなること、③修理の後も隠れた損傷があるかもしれないという心配が残ること、④事故に遭ったということで縁起が悪いと嫌われる傾向にあること等のポイントから、中古車市場において、事故歴のない自動車より減価されることにあります。
そのため、評価損は、初年度登録からの期間、走行距離、修理の程度、車種等を考慮して認定されます。
具体的には、初年度登録から日が浅く、走行距離も短いうえ、車体の損傷が激しく構造部分の修理も必要であり、外国産の高級車であった場合などは、評価損が認められやすくなります。
本件でも、購入したばかりの新車ベンツ(購入引渡し後20分)で、エンジン不調が疑われるなど事故の衝撃が中枢部まで影響していることが危惧されたこと等の事情があり、裁判所は評価損を認めました。
(2)評価損はいくらか
では、評価損として“いくら”請求できるのでしょうか?
本件において、原告は、修理費の50%の金額が評価損として認められるべきと主張しました。
これに対して裁判所は、新車納車直後であったこと、X車の新車価格が722万5000円であるのに対し、修理したと仮定した場合(本件では、Xが修理せずに売ってしまっていたため)の査定価格が401万6000円であること、X車の受けた衝撃がX車の中枢部への影響を危惧される程度のものであったこと等を考慮すると、修理費の約40%の金額を評価損として認めるのが相当と判断しました。
実は、評価損の算定方法は、これと決まったものがありません。
裁判例においても、本件のように「修理費のO%」という形で算定するものや、購入時の価格を基準にするもの、一般財団法人日本自動車査定協会が作成した「事故減価額証明書」等の査定価格で認定したもの、ストレートに結果の金額だけ示したものとその算定方法は様々です。
また、「修理費の○%」という算定方法によった場合でも、被害車両それぞれの事情(初年度登録からの期間、走行距離、修理の程度、車種等)によってパーセントの部分は上下します。
そして、本件のように40%も認められるケースは稀です。
交通事故に遭ってしまい、自動車が損傷してしまった。
評価損を請求できるのか?いくら請求できるのか?
ご事情をお伺いしながら、お答えさせていただきますので、お気軽にご相談ください。