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交通事故
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過失割合
連鎖事故~解けた冷凍チキン~(東京地判 平成26年2月21日)

事案の概要

同一交差点付近で、Yの従業員Bの運転する事業用大型貨物自動車(Y車)の運転が引き金となって発生した第1事故から第4事故まで連続する多重衝突事故の中で、Xの従業員Aの運転する事業用中型貨物自動車(X車)と、Y車との間で発生した衝突事故により、冷凍チキンを運送していたX車に損害が生じた事件。

<主な争点>

①X車の時価額
②自動車重量税
③積載物の損害
④過失割合

<主張及び認定>

主張 認定
X車の時価額 640万0000円 500万0000円
残存車検費用(自動車重量税) 5040円 0円
レッカー代 19万1211円 19万1211円
積載物に係る損害 131万2401円 131万2401円
過失相殺 80%
弁護士費用 79万0865円 13万0000円

<判断のポイント>

(1)X車の時価額~レッドブック~

交通事故で破損した自動車について、修理すればまた使えるようになるけれども、修理代が高額な場合、加害者に何を請求できるのか?

シンプルにいえば、自動車の「時価額」と「修理代」とで安いほうを相手方に賠償請求することができます。

本件も、X車の時価額が、壊れたX車を修理する修理代よりも安かった(「経済的全損」といいます)ので、X車の時価額が損害として認められる金額となる場合でした。

この「時価額」というものが曲者で、“何をもって算定するのか”本来は非常に難しいものなのです。

なぜなら、「時価額」とは要するに“事故に遭った自動車が、事故に遭っていなかったらいくらの値が付いたか”を考えるものですが、既に事故に遭ってしまった自動車を前にして、そんなことは誰も分からないはずだからです。

しかし、そんなことを言っていたら、誰も賠償請求なんてできませんし、裁判所も賠償責任を認めることができません。

そこで、裁判所は、時価額について、原則として、事故に遭った自動車と「同一の車種や型・年式・同程度の使用状態・同程度の走行距離などの自動車を、中古車市場によって取得するために必要な価額」によって定めることとしています。

事故に遭った自動車と「同じ物」は存在しないので、「同一の車種・型・年式、同程度の使用状態・走行距離」等の自動車の値段を、事故に遭った自動車の「時価額」としているのです。

ここで「同一の車種・型・年式、同程度の使用状態・走行距離等の自動車の値段」の資料として、裁判所からもかなり重視されているのが通称「レッドブック」と呼ばれる雑誌です。

この「レッドブック」とは、有限会社オートガイドというところが毎月発行しているもので、様々な自動車の価格が、年式や車種や型に分けられ、下取価格・卸価格・小売価格の3つの点から掲載されていて、走行距離や車検の残り期間による修正要素も設定されています。

かなり抽象化された価格なので、地域的な価格差が反映されていなかったり、インターネット上で取引されている金額に比べるとかなり低額だったりするので、不満を持たれる被害者の方も多いですが、抽象化されているからこそ裁判所は基準として使いやすいのかもしれませんね。

裁判所は基本的にこのレッドブックを基準に時価額を認定するといっても過言ではありません。

裁判所に、このレッドブック以上の金額で時価額を認定させるためには、被害者側で資料を集めて裁判所に提出する必要があります。

本件でも、Xは、X車の時価額は640万円であるとして、640万円と714万円で売り出されているX車と同程度の中古車2件の広告を提出しました。

しかし、裁判所は、その中古車2件のいずれも、初度登録がX車より後の年だったり、走行距離がX車より少ない車両だったので、これら2件の広告だけで640万円がX車と同程度の自動車の平均価格であると認められないと判断しました。

(2)自動車重量税~還付制度~

また、X車はまだ車検期間が残っている自動車だったので、Xは、残存車検費用として、車検の際に支払った自動車重量税のうち5040円を車検の未経過分として損害賠償請求しました。

要するに、事故によって廃車となってしまうため、車検のときに払った自動車重量税のうち一部は“払い過ぎた”ことになるということですね。

この「“払い過ぎた”分が損害になる」という理屈事態は、裁判所も認めるところであり、少し前まで自動車重量税の未経過分は損害として賠償請求できることになっていました。

しかし、本件で、裁判所は、事故に遭った自動車の「自動車重量税の未経過分は、使用済自動車の再資源化等に関する法律により適正に解体され、永久抹消登録すれば、還付されるものである」という理屈で、自動車重量税の未経過分については損害として認められないとしたのです。

この「還付制度がある」という理屈は他にも、自動車税や自賠責保険料等の諸費用についても使われており、やはり損害として認められません。

(3)積載物の損害~相当因果関係~

そして、本件では、X車が冷凍チキンを運ぶトラックだったことから、Xは、その冷凍チキンを配送先に届けることは食品衛生上不可能であるため、破棄することとなり、代替商品を手配した上で、配送先に対し、別途用意した車両によって運送することになったとして、①運送中であった商品の代金相当額99万8976円、②運送中であった商品の破棄処分に要した費用相当額13万4925円、③代車による運送代相当額17万8500円の合計131万2401円の損害を被ったと主張しました。

これに対して、裁判所はXの主張をそのまま認め、①~③の合計131万2401円を本件事故と「相当因果関係のある損害」として認めました。

事故によって発生した損害については、「事故のせいでこんな出費やあんな損が生じた!」と拡大していくため、どこまでを加害者に“賠償させるべき”損害とするか、一定のところで区切る必要があります。

その区切りに使われるのが「相当因果関係」という概念です。

(4)過失割合~事故態様~

さらに、本件はY車の不注意で生じた第1事故が連鎖的に次々と別の事故につながり第4事故まで発生したものですが、X車とY車の事故は第3事故にあたります。

この第3事故は、Y車が対向車線の別の自動車に衝突し(第2事故)、対向車線をふさぐような形で止まっていたところに、後ろから対向車線を走ってきたX車が衝突してしまったというものです。

Xは、Y車を運転していたBの過失のみ主張していましたが、裁判所は、X車を運転していたAが前方注視を怠ったために、Y車等が停止していることに気付くのが遅れ、X車をY車に衝突させた過失が認められ、他方で、Y車を運転していたBが安全運転義務に違反して第2事故を発生させたことが、本件第3事故発生の原因の一つとなっていることからBにも本件事故発生に関する過失が認められるとして、Aの過失が80%、Bの過失が20%としました。

まとめ

今回は論点がたくさんありましたね。

どういう資料があれば、レッドブック以上の時価額を裁判所に認めてもらえるのか、時価額以外にどんな費用が損害として認められるのか、どこまでの損害に「相当因果関係」が認められるのか、特殊で複雑な事故態様の場合に過失割合はどうなるのか。

いずれも、実際には裁判をしてみなければ分からないことが多いものですが、論点がたくさんあるものほどチャレンジのしがいがありますし、見通しのポイントとなる点はいくつもあります。

ひとつひとつのポイントを丁寧に検討し、みなさまが適正な賠償を得られるように全力でサポートさせていただきます。

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