裁判例

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交通事故
下肢
脊柱・体幹
12級
過失割合
就活中の被害者の逸失利益を、事故前年収入の7割を基礎収入として計算した事例【後遺障害併合12級】(さいたま地裁 平成30年12月28日判決)

<事案の概要>

Xは、見通しの悪いカーブ地点で自動二輪車を運転走行中、対向車線のY運転の乗用車に衝突され、右肩甲骨骨折、右鎖骨遠位端骨折、左大腿骨転子部骨折等の傷害を負った。

Xは、自賠責保険より、右肩につき後遺障害等級12級6号に該当する関節機能障害、左大腿部痛につき14級9号に該当する神経症状が認定されたため、併合12級の後遺障害が残存したとして、Yに損害賠償を請求した。

<主な争点>

1 過失割合
2 逸失利益を算定するに当たっての基礎収入額

<請求額及び認定額>

<X1の損害>

主張 認定
治療費 232万7370円 232万7370円
入院雑費 12万0000円 12万0000円
通院交通費 6375円 6375円
休業損害 462万2950円 231万1475円
入通院慰謝料 230万0000円 230万0000円
逸失利益 754万8312円 528万3818円
後遺障害慰謝料 290万0000円 290万0000円
小計 1982万5007円 1524万9020円
高額療養費還付金 ▲100万4981円 ▲100万4981円
過失相殺(4割) ▲609万9608円
人身傷害補償保険金 ▲574万4606円 ▲4万6990円
物損 48万9602円 27万6392円
過失相殺(4割) ▲11万0557円
人損+物損 1356万5022円 866万5268円
弁護士費用 130万0000円 87万0000円
確定遅延損害金 29万4290円 29万4016円
合計 1515万9312円 982万29284円

<過失割合について>

本件事故は、見通しの悪いカーブ地点において、X運転の自動二輪車が道路中央部分を走行していたため、対向車線を走行していたY車に衝突したものです。

裁判所は、事故現場の道路は、中央線がない峠道で、右カーブで見通しの悪い状況にあったことから、Y車は道路左側を進行して、また、対向車両との衝突を回避する措置を採り得る適切な速度に減速して走行すべき義務を負っていたにもかかわらず、中央部分を若干はみ出し、また、十分に徐行していなかったとして、Yに上記の義務違反を認定しました。

他方、Xについても、本件道路の左側を走行すべき義務があるにもかかわらず道路中央部分を走行していた、また、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転すべき安全運転義務があったにもかかわらず、十分に減速することなく走行していたとして、注意義務違反を認定しました。

そして、本件事故の原因がX・Y双方が本件道路の中央部分を走行したことにあるとして、Xの過失割合を4割、Yの過失割合を6割としました。

道路交通法17条4項では、車両は、道路(車道)の中央から左の部分を通行しなければならない、と定められており、本件事故に関しては、X、Y双方とも道路の中央寄りを走行していたという点において、道交法違反が認められます。

この場合、どちらも同程度の過失が認められると考えられますが、Xのほうが自動二輪車で普通乗用車よりも優先して保護される立場にあったことから、Xに1割有利に考えてXを4割、Yを6割と過失割合を認定したのだと思われます。

<逸失利益を算定するに当たっての基礎収入額について>

本件においてもうひとつ争いとなったのが、Xの逸失利益を算定するに当たっての基礎収入の金額です。

Xは本件事故の約3か月前に前職を退職し、事故の前日に就職活動で会社の面接を受け、採用が決まりかけていたものの、本件事故が原因で就職がなくなったという事情がありました。

面接を受けた会社では、月額15万円の給与が予定されていたことから、裁判所は、本件事故によって生じた休業損害については、同額を基礎収入として算定しました。

一方、逸失利益については、Xが前職の会社で事故前年に得ていた収入が約420万円であったことから、裁判所は、基礎収入の金額を休業損害と同様に月額15万円(年額180万円)とするのは相当でないとし、少なくとも、前職の年収の7割に当たる約295万円収入を得られる蓋然性が認められるとして、これを基礎収入として逸失利益を算定しました。

逸失利益は、その算定の基礎とすべき収入に、後遺障害による労働能力喪失率と、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を乗じて計算します。

そして、通常は、事故前年の年収額を基礎収入とすることが多いのですが、事故当時に職に就いていない場合、事故前年に収入があっても、それをそのまま基礎収入とすることは困難です。

なぜなら、逸失利益は、あくまでも後遺障害によって将来にわたって得られるはずの収入が得られなくなったことに対する補償なので、事故当時に就職していなければ、事故前年と同様の収入額が得られるとは認められないからです。

もっとも、事故前年の年収額は、被害者が、事故当時、どれだけ収入を得る能力を有しているかを、一定程度示す指標となり得るため、全額は認められなくとも、ある程度事故前年の年収に寄せた金額を基礎収入とする手法は、よく用いられています。

本件でも、裁判所は、Xの事故前年の年収からすると、事故当時就職予定であった会社の当初収入では、Xの逸失利益を適切に算定することはできないと考えて、Xの事故前年の年収を基準に、その7割を基礎収入としたのです。

後遺障害による逸失利益は、基礎収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間のいずれもが適切な数値で計算されないと、認定される金額が大きく減ってしまう可能性があります。ご自身に生じた後遺障害の逸失利益はどれくらいが適正なのかとお悩みの方は、弁護士にご相談ください。

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