裁判例
Precedent
事案の概要
X(46歳女性、兼業主婦)は、普通乗用自動車に乗車し、赤色信号規制に従い停止していたところ、Yの運転する普通乗用車がX車の後部に追突。
Xは、頚椎以下の両上下肢の知覚鈍磨・異常感覚・筋力低下、肩・肘・手・股・膝・足・足趾の関節機能障害、膀胱直腸障害等を訴え、損害保険料率算出機構へ後遺障害の申請をしたが、いずれも非該当と判断された。
異議申立をしても結果が変わらなかったことから、Xは残存している障害は後遺障害等級併合1級に該当するとして、Y及びYの勤務先に対して損害賠償の請求をした。
<争点>
Xに後遺障害が認められるかが主な争点となりました。
具体的には、Xに残存している症状の内容・程度と、事故との因果関係の有無が問題となりました。
<請求額及び認定額>
主張 | 認定 | |
---|---|---|
後遺障害等級 | 併合1級 | 14級9号 |
入院付添費 | 46万8000円 | 46万8000円 |
休業損害 | 1546万8050円 | 262万6650円 |
逸失利益 | 3948万3802円 | 75万5562円 |
入通院慰謝料 | 600万0000円 | 210万0000円 |
退院後付添費及び介護費 | 6726万6268円 | 0円 |
損害のてん補 | ▲163万5900円 | |
弁護士費用 | 1500万0000円 | 54万0000円 |
請求額(一部請求) | 9821万5952円 | |
合計 | 595万4312円 |
※治療費については、既に任意保険会社より支払いを受けており、争いなし。
<判断のポイント>
本件では、原告側が併合1級の後遺障害の主張をしていたのに対して、裁判所は頚部痛について14級9号の「局部に神経症状を残すもの」に該当するとのみ判断し、それ以外の後遺障害を認めませんでした。
一般的な傾向としては、損害保険料率算出機構での結果を裁判で覆すのは難しいと言われますが、本判決では、単に損害保険料率算出機構の結論を追認するのではなく、症状の発症時期、内容、その後の推移等を、医師の診断書や看護師の看護記録等から丹念に認定していった上で、結論付けています。
本件は、事故直後に知覚障害・運動障害が認められ頚髄損傷の診断を受け、その後知覚障害等は順調に軽快しましたが、事故から約5ヶ月後に一転して体のしびれ等を訴え始め、意識消失や膀胱障害も見られるようになっています。
これらについて、裁判所は、そのような症状の存在自体は認めたうえで、一般的な頚髄損傷の経過と異なる点(突然悪化することはない)、Xのような症状が引き起こされる頚髄損傷であれば見られるはずのMRI画像所見が見られない点等から、Xの症状は本件事故に起因するものではなく、Xの心因的な要因に基づいて発症したものであるとし、事故との因果関係を認めませんでした。
もっとも、頚部の残存疼痛については、本件事故態様からかなり大きな衝撃がXの身体に加わったといえること、それまでの診療経緯から、「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害14級9号に該当すると認めました。
まとめ
本件ではまず「今どういう症状があるか」ということが問題になりました。
仮に診断書上「脊髄損傷」と記載があるとしても、実際のところはどうなのか、どのような症状があるのか、ということが争いになりえます。
これについては、それまでの診療記録や看護記録、適時実施された画像検査結果や意見書の内容などを利用し、具体的で詳細な主張立証をしていく必要があります。
そのためには、適切に入通院をし、きちんと自覚症状を医師または看護師に伝えていくことが重要になります。
また、本件ではそのほかに、「それが交通事故と因果関係があるか」ということも問題となりました。
ここにいう「因果関係」というものは、法律上加害者に責任を負わせるべきか否か、という価値判断を含むものなので、一般的に使われる「因果関係」とは異なります。
たとえば医学的に見れば、事故に遭ったことを契機として、精神に負荷がかかりそのような症状を発症しているといういみで「因果関係がある」と言えるのかもしれませんが、法律上は必ずしもその判断と同じにはならないのです。
この法律上の因果関係の有無はかなり専門的な判断になります。
いずれの点についても、「診断書に書いてあるんだから」「裁判官はきっと分かってくれるはずだ」との過信は禁物です。
自身の損害について適切に賠償を受けることをお考えの方は、なるべく早いうちに、当事務所の弁護士までご相談ください。