裁判例

Precedent

交通事故
下肢
11級
併合
事故後に発症した右半月板損傷について右膝関節外側痛を認めた事例 【後遺障害12級相当】

事案の概要

X(原告:44歳男性)が、自動二輪車を運転して片側2車線道路の左側車線を進行中、右側車線から左側車線に車線変更したY運転の自動二輪車に接触し転倒、右足挫滅創、右足関節内骨折及び右母趾屈筋腱障害等の傷害を負い、また、二次性のものとして右膝半月板を損傷し、12級右母基部底側痛の他、12級右膝関節機能障害があり、後遺障害等級併合11級に相当するとして、既払金484万5508円を除いた2905万0623円を求めて訴えを提起した。

<主な争点>

①Xの傷害、後遺障害の有無、逸失利益
②Xの過失の程度と過失相殺の可否

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 307万5061円 307万3061円
雑費 1万1587円 3152円
休業損害 228万8466円 228万8466円
後遺障害逸失利益 1970万3736円 1379万2615円
通院慰謝料 200万0000円 200万0000円
後遺障害慰謝料 400万0000円 350万0000円
物損 1万3000円 6500円
装具費等 18万7186円 18万7186円
小計 3109万1850円 2485万0980円
過失相殺 ▲5%
既払金 ▲484万5508円 ▲484万5508円
弁護士費用 260万0000円 188万0000円
合計 2884万6342円 2064万2923円

<判断のポイント>

① Xの傷害、後遺障害の有無、逸失利益

(本件事故と右膝半月板損傷の因果関係)
本件において、Xは、本件事故により、右足挫滅創、右足関節内骨折、右母趾屈筋腱障害の他、右膝半月板を損傷したと主張したのに対し、Yは、右膝半月板損傷については、本件事故発生時には認められず、本件事故から3年以上経過して初めて同傷害の診断がなされているので、因果関係が認められないと主張しました。

因果関係は、その事故が原因でその傷害が生じたことが相当であるといえる場合に認められるものです。

交通事故事件においては、通常は、事故によって直接発症した傷害について因果関係が認められます。

もっとも、本件において裁判所は、Xは、本件事故によって走行中の自動二輪車から路上に転倒したことにより、ほぼ全身に及ぶ挫創、挫傷の傷害を負ったが、特に右足については、右足挫滅創、右距骨骨挫傷、右母趾屈筋腱損傷の傷害を負い、そのため、長期間にわたり右足をかばって歩くなどしたことから、右膝に負担がかかり、右膝半月板損傷が生じるに至ったものと認められるとしています。

すなわち、右膝半月板損傷は、本件事故によって直接発症した傷害ではないものの、本件事故が原因で右足をかばって歩くことになりその結果生じたものであるとして、本件事故との間の因果関係を認めています。

<後遺障害の有無>

また、Xは、右母趾屈筋腱の損傷癒着により、右母趾関節の運動が制限され、歩行時に右母趾基部の底側に激しい痛みが生じている、また、右膝に痛みと運動制限があるとして、右母趾及び右膝の各後遺障害は12級13号に該当し、併合して後遺障害11級に相当すると主張しました。

これに対して裁判所は、後遺障害として、右膝関節外側の痛みのほか、右母趾基部底側の痛み、右母趾のMP関節及びIP関節の屈曲が困難であるなどの関節可動域制限が残存したものと認められると判断しました。

すなわち、交通事故との因果関係が認められた右膝半月板損傷が、右膝関節外側の痛みとして後遺障害まで認められたことになります。

また、ここで、MP関節や屈曲という言葉が出て来たので、その説明ついでに足の母趾関節にどのくらいの可動域制限が認められれば後遺障害が認められるのか確認します。

足の母趾関節については、医学的には、指先に近い方からIP関節、MP関節といいます。

そして、いずれかの関節の正常可動域の合計値が3分の1以下に制限された場合、「足指の用を廃した」といい、1足の母趾の用を廃したときには、12級11号の後遺障害等級が認定されます。

IP関節では、60°曲げる(屈曲といいます)ことができれば正常とされていることから、その3分の1である30°以下の屈曲しか認められないのであれば用廃が認められます。

また、MP関節では、35°曲げることができ、60°反らす(伸展といいます)ことができれば正常とされていることから、その合計値である95°の3分の1以下の屈曲及び伸展しか認められないのであれば用廃が認められます。

本件に戻りますが、裁判所は明確に後遺障害等級について言及はしなかったものの、後遺障害慰謝料として350万円を認めました。

Xがどのような仕事や日常生活をしておりどのくらいの苦痛が生じているかによっても慰謝料は左右されますが、後遺障害等級12級が290万円であることから、裁判所は少なくともXの後遺障害について12級相当は認めていると判断したと考えられます。

<逸失利益について>

Xは、後遺障害等級併合11級を前提に、労働能力喪失率を20%、労働能力喪失期間を就労可能年数の19年と主張したのに対し、Yは、労働能力喪失率は5%、労働能力喪失期間は最大でも3年間であると主張しました。

裁判所は、上で述べたように、右膝関節外側の痛みなどを後遺障害と認めており、これらを前提に、労働能力喪失率は14%、労働能力喪失率はXの主張のとおり19年と認めました。

なお、後遺障害等級12級の場合、通常、労働能力喪失率は14%とされることから、この点についても、裁判所はXの後遺障害を12級相当と認めていると考えられます。

ここでも、右膝半月板損傷が、交通事故によって生じた傷害と判断され、後遺障害も認められたことによって、逸失利益の判断においても考慮されています。

② Xの過失の程度と過失相殺の可否

左側車線を走行していたXは、Yが右折の指示器を出したまま走行していたにもかかわらず、突然、左側車線に進入しXの進路方向に入ってきたことから、急ブレーキをかけ右方向に避けようとしたものの間に合わず、接触し転倒したと主張しました。

これに対してYは、右折の指示器は出しておらず左折の指示器を出して、後方を確認した上で左側車線に進入したと反論しました。

本件では、Yが左側車線進入の直前に右折指示器を出していたかどうかが争われています。

裁判所は、尋問において、Yが左側の方向指示器を点灯させたか否か記憶があいまいであるどころか、右側の方向指示器を点灯させた可能性まであることも述べるなど、あいまいな供述をしており、Yの主張は認められないとしました。

一方で、Xについても、Y車両を左方から追い抜くにあたって、その動静について十分慎重に確認していたならば、本件事故を回避し得た可能性があったとは否定し難いとして、5%の過失を認めています。

まとめ

本件では、右足挫滅創等を負ったXが事故時に発症していなかった右膝半月板損傷について、右足をかばって歩くなどしたことから負担がかかって生じたとして事故との因果関係を認めたことが注目されます。

そして、母趾関節の可動域制限などを障害と認め、それらを前提に、後遺障害等級12級相当である14%の労働能力喪失率を認めています。

仮に、右膝半月板損傷について、本件事故との間の因果関係を否定されていたら、後遺障害慰謝料や逸失利益の額に大きな差が生じていたでしょう。

交通事故には、因果関係や後遺障害の有無、逸失利益の算定、過失割合など、難しい法的判断が伴うものもあり、個人で適切な賠償額を請求するのは困難な場合があります。

適切な賠償額を請求するためにも、是非当事務所にご相談いただければと思います。

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