裁判例

Precedent

交通事故
下肢
12級
併合
素因減額
事故前の怪我の影響【後遺障害併合12級相当】

事案の概要

X(原告:32歳女性)が、交差点を歩行横断中、左後方から右折してきたY(被告)が運転する普通乗用自動車に衝突されて転倒し、腰椎捻挫、頚椎不安定症、外傷後梨状筋症候群坐骨神経痛等の傷害を負ったため、約2年1ヶ月入通院して自賠責併合12級後遺障害認定を受け、Yに対して訴えを提起した。

<主な争点>

① 本件事故の具体的態様と過失相殺の可否
② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容
③ 素因減額

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 480万5037円 628万5427円
入院雑費 2万5500円 2万5500円
入院看護費 10万2000円 0円
通院看護費 129万9000円 0円
通院交通費 84万8650円 84万8650円
文書料 53万7419円 50万5319円
装具購入費 30万5450円 0円
休業損害 769万8684円 384万9342円
後遺障害逸失利益 846万8701円 765万3645円
入通院慰謝料 380万0000円 260万0000円
後遺障害慰謝料 400万0000円 280万0000円
素因減額 ▲20%
過失相殺 ▲5%
既払金 ▲1609万7690円 ▲1760万円7812円
弁護士費用 158万0000円 10万0000円
合計 2663万5841円 116万3778円

<判断のポイント>

① 本件事故の具体的態様と過失相殺の可否

本件では、Yは、Xに20%の過失があると主張しているのに対して、Xは、道路横断前に左右の安全を確認し、かつ、左方の安全を確認した際には、左後方の一旦停止線を越えて進入してきている車両がないことを確認しており、必要十分な安全確認を行っているとして過失はないと主張していました。

この点につき裁判所は、Xにおいても、右折車が走行してくることは予測することができたのに、左方の状況を十分確認していたとは認められないから、本件事故の発生については、原告にも左方の状況を十分確認しなかった点で過失があるとし、本件では5%の過失相殺をするのが相当であると判示しました。

ここでは、原告が、現に衝突までYの運転する自動車の存在に気付いていないことが認定されてしまい、左方の安全確認が不十分であるとして5%の過失相殺がされてしまいました。

② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

Xは、上記の傷害結果を負い、左臀部から左下肢にかけての痛み等の症状が残存していることから、自賠責の認定通り後遺障害等級12級13号に該当すると主張しました。

これに対してYは、Xはもともと坐骨神経が梨状筋の中を通過するタイプDという坐骨神経痛が発症しやすい稀有な身体条件を備えていたこと、本件事故以前から坐骨神経痛を訴えていたことなどから、Xの罹患した梨状筋症候群は本件事故前からあったものであり、本件事故で発症したものではないとして、事故との因果関係は認められないと主張しました。

そもそも、梨状筋症候群とは、尾骨の上にある三角形の仙骨と大腿骨の付け根の大転子とをつなぐ梨状筋という筋肉(要はおしりの筋肉の1つです)が原因で生ずる鈍痛のことをいいます。

これは、骨盤から足にかけて伸びている神経(坐骨神経といいます)が梨状筋部で圧迫を受けることによって現れる痛みです。

そして、坐骨神経が骨盤から足に至る経路は4タイプあります。

その中にYが主張している坐骨神経が神経幹として梨状筋を貫通するタイプがあり、それは全体の約1%という割合と確かに稀有なタイプではあります。

しかし、裁判所は、ⅰ本件事故によりXは、衝突地点から約1,2メートル離れた地点で臀部や肘をついて転倒したと認定でき、このような事故態様からXに加わった衝撃は相当程度のものであったと推認できること

ⅱ通院していた整骨院で、本件事故前の施術録には記載されていなかった「左臀部利状M」との記載が本件事故の施術録にあること

ⅲ本件事故前から訴えていた痛みの範囲が本件事故により広がり、さらに痺れも訴えるようになっていること

から、本件事故とXの梨状筋症候群発症との間には相当因果関係が認められるとしました。

そして、頚椎捻挫・頚椎不安定症に伴う頚部から肩甲部にかけての疼痛等及び腰痛も認めたうえ、自賠責同様併合12級の後遺障害等級を認めました。

ただ、Yの主張した坐骨神経のタイプには結局触れずに、事故態様や施術録の記録、本人の自覚症状から後遺障害を認定しています。

このように、本人の自覚症状と客観的な記録が矛盾なく整合している場合には、後遺障害等級は認定されやすいことがわかります。

③ 素因減額

まず、「素因減額」とは、交通事故による損害の発生・拡大が、被害者自身の素因に原因がある場合に、賠償金を減額することをいいます。つまり、何らかの怪我や病気を抱えている人が交通事故に遭い、その怪我や病気がひどくなった場合には、全ての損害に対する補償を加害者に負担させることは公平性に欠けるということで、ひどくなった分の補償額部分が減額されることになります。

本件でも、Yから、本件事故の負荷の程度、発症時期、Xの身体的特徴を考えると、Xの症状に寄与した割合が圧倒的に大きいから、70%程度の減額を行うことが公平であると主張していました。

この点につき裁判所は、Xは本件事故前にも腰痛、左臀部痛、左坐骨神経痛という症状が出ており、左梨状筋を切除した後も後遺障害が残ったことに照らせば、Xの既往症(過去にかかった病気で現在は治癒しているものをいいます)が影響していると考えられると述べ、20%を同素因によるものとして減額するのが相当であると判示しています。

まとめ

本件のように、交通事故においては、過失割合や素因減額など様々な要素が考慮されて賠償額を確定することは少なくありません。

そして、訴訟においては、そのような要素を立証するために多くの事実を用いて裁判官を説得しなければなりません。

訴訟でなくても、保険会社と過失割合などについて話し合うためには、ある程度の法的知識が必要になってきます。

交通事故に遭い、保険会社から過失割合の話をされて、判断に困ってしまったら、是非当事務所の弁護士にご相談ください。

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