裁判例
Precedent
事案の概要
信号機のある交差点を右折しようとしたY運転の中型貨物自動車に、対向方向から直進してきたX運転の自動二輪車が衝突。
Xは右膝打撲挫創等の傷害を負い、自賠責保険から、右膝に残った約14センチメートルの縫合創とV字の挫創痕創縫合痕については後遺障害等級14級5号、右膝から下腿外側にかけての疼痛やしびれ、しゃがんで起立する際の疼痛等の症状については後遺障害等級14級9号に該当するとして後遺障害等級併合14級の認定を受けた。
<主な争点>
逸失利益の金額(労働能力喪失率・期間)
<主張及び認定>
主張 | 認定 | |
---|---|---|
治療費 | 37万5680円 | 37万5680円 |
入院雑費 | 1万5000円 | 1万5000円 |
通院交通費 | 13万0370円 | 13万0370円 |
休業損害 | 74万0663円 | 74万0663円 |
逸失利益 | 1251万8312円 | 136万7700円 |
傷害慰謝料 | 164万円 | 142万円 |
後遺障害慰謝料 | 110万円 | 110万円 |
物件損害 | 10万4190円 | 10万4190円 |
弁護士費用 | 146万1763円 | 24万円 |
過失相殺 | ▲78万8040円 | |
損害のてん補 | ▲200万6583円 |
<判断のポイント>
①労働能力喪失率・期間
②過失相殺
後遺障害が残ってしまうと、痛みや動かしにくさなどのせいで、思うように働くことができなくなってしまいます。
この“働きにくさ”を「労働能力喪失率」と呼び、“働きにくさ”が残ってしまう期間を「労働能力喪失期間」と呼びます。
そして、「逸失利益」とは、“後遺障害がなかったら、(もっと)稼げたはずの収入”のことをいい、おおざっぱに説明すると、事故前の収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間で計算できます。
Xは、事故前、美容室勤務に加え、焼肉店とファミレスでのフロア係のアルバイトを掛け持ちしていました。
X側は、美容師としての美容室勤務については労働能力喪失率5%だが、焼肉点とファミレスでのアルバイトについては以下の通り労働能力喪失率100%だと主張しました。
X側は、①しゃがんで起立する際に強く痛むため、フロア係のアルバイトを辞めざるをえなかったこと、②本件事故の後遺障害により,美容師として立ち仕事をすると足が非常にむくむようになり、夜間にアルバイトをすることが難しくなってしまったこと、③Xは、症状固定時52歳の女性であり、長年にわたり美容師として稼働してきたので、立ち仕事以外のアルバイトで雇用されることは難しいことから、Xは現実にアルバイトの収入を失い、今後も原告がアルバイト収入を得られる可能性はほとんどないといえるとして、アルバイトとしての稼働分についての労働能力喪失率は100%とすべきと主張したのです。
また、いずれの仕事に関する逸失利益についても、労働能力喪失期間は16年と主張したことから、X側の主張する逸失利益は極めて高額となりました。
これに対して裁判所は、①いずれの仕事も立ち仕事や膝を曲げる必要がある業務が中心で、膝や下腿への負担が大きい業務であって、Xは美容室の勤務には復帰できたものの焼肉店やファミレスでのアルバイトには復帰できないまま退職したのだから、Xに残った痛みやしびれの症状が労務へ及ぼす影響を軽視することはできないこと、②Xは事故から2年近くが経過した裁判の時点でも、しびれや痛み、むくみ等の症状が続き、整骨院の通院を続けていて、現段階で直ちに症状が緩解する傾向にあるとは認められないことから、Xの労働能力喪失率は5%、労働能力喪失期間は7年間と判断しました。
また、X側が主張した「立ち仕事以外のアルバイトには就けないだろうから、アルバイトに関して労働能力喪失率100%だ!」という主張に対して、Xの後遺障害は右膝から右下腿外側に限られた症状であり、この後遺障害の部位・程度に照らせば、アルバイトとして稼働することが不可能になったとは認められず、アルバイトとしての稼働分も含めて労働能力喪失率を5%と認めるのが相当と判断したのです。
本来、後遺障害は、“もう治らない”として認定されるものですが、一般的に後遺障害の中では軽症とされる14条9号などの場合は、労働能力喪失期間も5年などと短期でしか認められない傾向があります。
もちろん、具体的な事情によってもっと長く認定されたり、逆に短く認定されるものもあります。
この事件の場合は、事故から2年近くも経っているのに症状が続いていて整骨院にも通っていることから、普通より少し長い7年の労働能力喪失期間が認定されていますが、このような事情だけからすぐに他の事案でも長めで認められるとは限りません。
それぞれの事案の特徴や固有の事情なども考慮して慎重に判断しなければならないものなのです。
また、この事件では、Xの過失が15%として、15%分賠償額が差し引かれました。
この事件では、過失割合についてXとYで争いがなく、X側も15%分差し引かれることは分かっていたので、それほど問題はなかったかもしれません。
しかし、過失割合は、お客様の得られる賠償額に大きく影響してくるものです。当事務所にも、「保険会社が提示してくる過失割合が妥当か」、「どうして自分に過失があるのか分からない」など過失割合について多くのご相談が寄せられます。
まとめ
過失割合は、法律の専門家である弁護士でも、被害者の方や目撃者の方にから事故状況についてよくよく伺った上で、場合によっては警察・検察から捜査記録を取寄せる等しなければ判断できない難しいものです。
ぜひ、一度当事務所にご相談ください。
みなさまが適正な損害賠償を受けられるためのお手伝いをさせていただければと思っております。