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交通事故
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外貌醜状
12級
逸失利益
右下腿瘢痕の痛みにつき17年間5%の労働能力の喪失を認めた裁判例【後遺障害12級】(金沢地方裁判所判決 平成29年1月20日)

事案の概要

駐車場内のX運転の原付自転車に、Y運転の普通乗用車が衝突したという交通事故により、右下腿打撲皮下血腫等の傷害を負ったXが、Yに対し損害賠償を求めた事案。

Xの右下腿に残存した瘢痕については、自賠責保険から、醜状障害として後遺障害12級の認定を受けていた。

<争点>

醜状障害及びそれに伴う痛みによる労働能力の喪失の有無

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 98万2493円 98万2493円
入院雑費 12万3000円 12万3000円
通院交通費 3920円 3920円
家屋改造費等 55万3350円 0円
文書料 12722円 12722円
休業損害 289万3800円 145万0897円
逸失利益 631万4657円 199万9574円
入通院慰謝料 150万0000円
後遺障害慰謝料 290万0000円
慰謝料 450万0000円
物損 3万5826円 3万5826円
小計 1531万9768円 910万8432円
損害の填補 ▲344万0000円 ▲344万0000円
弁護士費用 118万0000円 56万0000円
合計 1305万9768円 622万8432円

<判断のポイント>

(1)醜状障害の逸失利益について

事故によって外傷を負い、その傷痕が残ってしまった場合、その傷が残った部位や大きさ、長さなどによって、醜状障害として後遺障害が認められる場合があります。

たとえば、顔面部に鶏卵大面以上の瘢痕が残り、それが人目につく程度のものである場合は、「外貌に著しい醜状を残すもの」として、後遺障害等級第7級12号が認定されることになります。

また、外貌以外の上肢の露出面(上腕から指先まで)、下肢の露出面(大腿部から足の甲まで)に瘢痕などが残った場合も、その大きさによって、後遺障害等級第12級や第14級が認定されることがあります。

(2)逸失利益が認められるか否か

醜状障害については、直ちに身体の機能を制限するような後遺障害とはいえず、芸能人やモデルなど、容姿が重視される職業以外では、労働能力の喪失がないとして、逸失利益が否定されるのではないか、という問題があります。示談交渉段階では、相手方の保険会社は、基本的に醜状障害による逸失利益を否定しにかかってくることがほとんどです。

しかし、たとえ直接身体機能に制限が生じなくとも、醜状の存在によって、就職が不利になる、配置転換を強いられるなど直接的な影響が生じ得ます。

また、対人関係や対外的な活動に消極的となり、労働意欲、ひいては昇進にも響くなど間接的な影響が生じることも考えられます。そのため、醜状障害だからといって、一概に逸失利益が否定されるべきではありません。

過去の裁判例では、醜状障害による労働への影響はないとして、逸失利益を否定するものも相当数あります(そのような場合、後遺障害慰謝料の増額事由として考慮するというものが多いです)。

他方で、外貌醜状があるときは、職業を問わず、原則として等級に相応した労働能力の喪失があると判示した最近の裁判例もありますが(さいたま地裁平成27年4月16日判決)、実際の裁判では、被害者の年齢や性別、職業、醜状の程度、実際の仕事への具体的な影響などの様々な事情を考慮して、労働能力の喪失の有無や程度が認定されることになります。

まとめ

本件では、Xの右大腿部には、手のひらの大きさの3倍程度以上の瘢痕が残り、この瘢痕について、自賠責保険から醜状障害として後遺障害等級第12級の認定を受けたことや、醜状障害に加えて痛みなどの症状も残っているとして、Xは、12級の場合の目安である14%の労働能力喪失率を主張しました。

これに対して、Y側は、Xに認められた後遺障害が醜状障害のみでありXの仕事(家事労働や食品の委託販売業)には影響を及ぼさず、また、痛みについては後遺障害として認定されていない以上、労働能力の喪失はないと反論しました。

この点について、裁判所は、Xの右大腿部の瘢痕の醜状障害は、Xの家事や食品委託販売業の労働能力に直接影響するものではないとして、醜状障害そのものによる逸失利益は否定しました。

他方で、Xが事故後に歩行や長時間立っていると痛みを訴え、その症状が継続していることなどの事情から、瘢痕の残った右大腿部には、痛み等の神経症状が残存しているものと認められ、家事労働に一定の支障が生じているとして、5%の労働能力の喪失を認定しました。

また、労働能力の喪失期間については、Xの症状の残存状況や、痛みの原因が真皮組織等の欠損であることなどから、症状固定時点で53歳であったXの平均余命の2分の1である17年間と認定しました。

自賠責保険の認定では、Xの後遺障害は、醜状障害による後遺障害12級のみであり、神経症状については、14級9号すら認定されていませんでした。

そのため、本件は、基本的には、醜状障害による労働能力の喪失の有無だけが問題となり得る事件でした。

もっとも、本件では、Xが醜状障害のみならず、右大腿部に生じている痛みについても、後遺障害に当たると主張していました。

そのため、裁判所はその点も判断して、右大腿部の痛みを神経症状の後遺障害として認定しましたが、具体的な等級については明らかにしていません。

14級の目安である5%の労働能力喪失率を認定していることからすると、実質的には14級9号と認定したとも考えられます。

しかし、他方で、労働能力喪失期間については、12級13号の目安とされる10年を超える期間を認定しています。そのため、裁判所としては、どの等級が妥当なのかというところまでは、明確には踏み込んでは判断せずに、Xの症状が、12級の醜状障害といえるほどの瘢痕を残す傷によって生じていることを前提に、Xの家事労働に生じている具体的な支障等を考慮しつつ、逸失利益を認定したものと考えられます。

醜状障害について、これまでは、基本的には醜状そのものによる仕事への影響という側面で考えられてきましたが、この裁判例は、残存した醜状障害の程度を、神経症状による労働能力の喪失の有無や程度を認定するに当たっての考慮要素にしたものと考えられる点で、重要な意味を持つものといえます。

醜状障害による逸失利益の有無や程度については、これまで多くの裁判において争われてきた争点であり、しっかりとした主張立証を行わなければ、認められるものも認められなくなる可能性があります。

また、示談交渉段階でも、相手方をきちんと説得することができれば、逸失利益を認めさせることは可能ですが、そのためには、逸失利益に関する正確な知識や、それに基づく的確な説明が必要不可欠です。適切な賠償を受けられるようにするためにも、まずは弁護士にご相談ください。

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