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交通事故
外貌醜状
逸失利益
過失割合
後遺障害には該当しない前額部線状痕について後遺障害慰謝料を認めた事例【後遺障害非該当】(大阪地方裁判所判決 平成28年10月28日)

事案の概要

美顔器具等の販売会社所長のX(原告:69歳女性)は、自転車痛効果の歩道を自転車で進行中、停車中のY(被告)所有の普通貨物自動車の助手席ドアを同乗のWが開けたため、顔面に直撃して、前額部挫創等の傷害を負い、約2年間通院し、右眉付近に約2センチメートルの線状痕を残したとして、既払金46万4882円を控除し664万6606円を求めて訴えを提起した。

<争点>

① Xの後遺障害の有無、程度
② Xの逸失利益の有無
③ Xの過失割合

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 51万2262円 51万2262円
通院交通費 1万3280円 1万3280円
休業損害 63万5946円 0円
通院慰謝料 206万円 120万円
後遺障害逸失利益 143万円 0円
後遺障害慰謝料 186万円 30万円
既払金 ▲46万4882円 ▲46万4882円
小計 604万6606円 156万0660円
弁護士費用 60万円 15円
合計 664万6606円 171万0660円

<判断のポイント>

本件事故により、Xは通院治療を終えたあとも、右眉付近に前額部挫創後の線状痕(約2センチメートル)が残存してしまいました。

自賠責保険に対する事前認定手続においては、前額部挫創後の瘢痕は、長さ3センチメートル以上の線状痕または10円銅貨大以上の瘢痕とは認められないため、自賠責保険における後遺障害には該当しないとの判断を受けていました。

そこで、裁判において前額部の線状痕は後遺障害に該当するかが争われました。

・外貌醜状について
「外貌」とは、頭部、顔面部、頚部など、上肢及び下肢以外の日常露出する部分をいいます。

そして、交通事故によって外貌に傷跡が残存した場合(これを「外貌醜状」といいます)、その傷跡の場所や大きさに応じて、3段階に区分された後遺障害等級が認定されます。

外貌醜状は、神経症状など目に見えにくい症状に比べて、外部から客観的に判断できるものであることから、基準がある程度明確に定められています。

*第7級の12:「外貌に著しい醜状を残すもの」
「著しい醜状」とは、以下のいずれかに該当する場合であって、人目につく程度以上のものをいいます。

ア 頭部にあっては、手のひら大(指は含まない)以上の瘢痕又は頭蓋骨の手のひら大以上の欠損
イ 顔面部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕又は10円銅貨大以上の組織陥没
ウ 頚部にあっては、手のひら大以上の瘢痕

*第9級の16:「外貌に相当程度の醜状を残すもの」
「相当程度の醜状」とは、顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度以上のものをいいます。

*第12級の14:「外貌に醜状を残すもの」
単なる「醜状」とは、以下のいずれかに該当する場合であって、人目につく程度以上のものをいいます。

ア 頭部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
イ 顔面部にあっては、10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3センチメートル以上の線状痕
ウ 頚部にあっては、鶏卵大面異常の瘢痕

※ここで、外貌醜状で注意しなければならないのは、「人目につく程度」という表現があることです。

顔面に線状痕があったとしても、眉毛や頭髪にかくれる部分は醜状として取り扱われません。

例えば、眉毛の走行に一致して3.5センチメートルの縫合創痕があり、そのうち1.5センチメートルが眉毛に隠れている場合は、顔面に残った線状痕は2センチメートルとなるので、外貌の醜状(12級の14)には該当しないことになります。

<X及びYの主張>

Xは、肌の手入れ等に特別に気を遣いながら長年コスメティック業界で働くなどしてきており、本件線状痕により精神的苦痛を感じていることから、後遺障害等級表12級の後遺障害慰謝料の3分の2に相当する金額が相当であると主張しました。

これに対してYは、本件線状痕は、長さは約2センチメートルであるが、眉に隠れる部分が相当程度あるほか、髪型によって隠れる場所に位置しており、後遺障害に該当するとは認められないと反論しました。

<裁判所の判断>

裁判所は、まず、本件線状痕は、傷の位置や長さ・大きさに照らすと、これが後遺障害等級表における後遺障害に相当するものとは認められないとしました。

上記の後遺障害の認定基準においても、12級の14が認められるためには、長さ3センチメートル以上の線状痕が必要とされることから、この判断は仕方のないところではあります。

しかし、顔面に2センチメートルの傷跡が残ってしまったことに対する精神的苦痛は生じているはずであり、特に普段仕事などで人前に立つ場合、その精神的苦痛は大きなものといえます。

3センチメートルの傷跡が残れば後遺障害が認められて慰謝料が支払われるのに、傷跡が2センチメートルの場合には慰謝料が支払われないとされるのは、あまりにも不均衡です。

そこで、裁判所も以下の事実を認定した上で、Xの線状痕は、後遺障害等級表における後遺障害には該当しないけれども、精神的苦痛が生じているとして慰謝料を認めました。

まず、Xは約20年間、美顔器具等の販売をする会社の営業所長として美顔器具や化粧品等の販売事業に携わり、美顔器具等の販売、営業所の販売員に対する指示・指導、その他の所長業務に従事してきたほか、芸能プロダクションに登録して広告やCMに出演するなどしてきたことが認められるとしました。

そして、Xが本件事故後もCM出演を継続していることを踏まえるなど、Xの職業や業務内容にも着目した上で、本件線状痕による精神的苦痛を慰謝するため、30万円の後遺障害慰謝料を認めました。

まず、逸失利益とは、後遺症が残存したことによる労働能力の低下の程度、収入の変化、将来の昇進・転職・失業等の不利益の可能性、日常生活上の不便等を考慮して算定される損害をいいます。
すなわち、後遺症によって仕事や日常生活に支障がきたすような場合でなければ逸失利益は認められないこととなります。

<X及びYの主張>

Xは、本件事故により、美顔器具や化粧品等の販売事業の廃業を余儀なくされており、少なくとも5年ほどは継続するつもりであったことから、女性平均月収(27万5100円)の10%相当の収入が、最低でも5年間失われたと主張しました。

これに対してYは、上記と同様、本件線状痕は約2センチメートルであり、眉に隠れる部分も相当程度あるとして後遺障害に該当しないから、逸失利益も認められないと反論しました。

裁判所は、本件線状痕は後遺障害には該当しないとし、さらに、Xは本件事故後に販売事業を廃業しているが、本件事故後の売上や所得の推移及びXの業務に本件線状痕が支障とならない業務も含まれていることなども考慮すると、廃業が本件事故によるものとまでは認められないから、後遺障害逸失利益を認めることはできないとしました。

外貌醜状の場合、後遺障害が認められたとしても、それが仕事や日常生活への支障に直結していなければ逸失利益は認められません。

上記のとおり、逸失利益とは、後遺症が残存したことによる労働能力の低下、日常生活上の不便等を考慮して算定される損害額だからです。

モデルやウエイターなどの接客業で、容姿が重視される職業に就いている場合には、ファンや客足が減るなど労働に直接影響を及ぼすおそれがある場合には、逸失利益が認められることになります。

Xは、美顔器具や化粧品等の販売事業を行っており、芸能プロダクションに登録して広告やCMに出演するなどしていたことから、ある程度容姿が重視される職業に就いていたと考えられます。

しかし、裁判所は、上記のように、Xの仕事には本件線状痕による支障はなかったとしてやや厳しい判断をしました。

Yは、Y車の停止位置の付近に設置された自動販売機があることにより歩道の幅員が1m弱と狭くなっていたことから、Xは、Y車から降車する者がありうることを予見し、Y車と自動販売機の間を進行する際には減速してY車の動静を注視すべきところ、これを怠った過失があるから、少なくとも1割の過失相殺をすべきである旨反論しました。

これに対してXは、本件事故は、Y車が停止した直後に発生したものではなく、Xが、Y車から降車する者の存在を予測することは不可能であり、本件事故は夜間に発生したものであること、WはXがY車のドア付近に差し掛かったタイミングでこれを開放したことも考慮すると、過失相殺はされるべきではないと主張しました。

<裁判所の判断>

裁判所は、以下のとおりの事実を認定し、Yの主張を排斥、すなわちXに過失は認められないとしました。

Wは、Y車のドアを開けるに際し、左後方の安全を確認すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠った過失があり、Wが衝突までXの存在を認識していないことなども踏まえると、その過失の程度は極めて大きいというべきである。

他方、Y車のドアの開放はXとの衝突の直前であり、Xがドアの開放を予見し、本件事故の発生を回避することができたとまで認めることは困難である。

したがって、本件事故についてXの過失は認め難いとしました。

まとめ

本件は、自賠責における後遺障害の認定基準には満たない外貌醜状に対して、後遺障害慰謝料を認めた事例です。

しかし、他方で後遺症による逸失利益は認められませんでした。

交通事故により生じた後遺障害にはさまざまなものがあり、外貌醜状のように後遺障害の認定基準がはっきりと定められているものがあります。

そして、認定基準に満たさず後遺障害が認定されなくとも、被害者の個別的事情から、精神的苦痛がある旨を主張することにより、適切な賠償額を得られることは十分に可能です。

また、本件では認められませんでしたが、現実に仕事に支障が生じている場合には、逸失利益も認められます。

もっとも、交通事故の怪我によってどのように精神的苦痛が生じており、仕事にどのように影響してどの程度の不利益を被ったかなどを、相手方に説明し、また、裁判で立証するということは1人ではなかなか困難です。

被害者の悩みを被害者に代わって、法的な主張として相手方と交渉し、また、裁判で立証するのが弁護士の仕事です。

交通事故に遭い、適切な賠償額が得られるのかお悩みの方がいましたら、是非当事務所にご相談いただければと思います。

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