裁判例
Precedent
事案の概要
Xは、一等航海士としてY所有の砂利運搬船上で、クレーンによって船倉から石材を持ち上げ海中へ投棄する作業に従事していた。
Xが持ち場を離れていたところ、旋回するクレーンのクレーンハウスと船舶のハッチコーミング(船倉の壁のような部位)の間に挟まれてしまい、Xは呼吸不全によって死亡した。
Xは、Y社に対して、損害賠償請求訴訟を提起した。
<争点>
Yらの責任及びX責任の有無とその程度。
<判決の内容>
(Yらの責任)
・Y船長は、投石作業中、各部署に就いていた乗組員四名をすべて見渡すことのできる位置にいた。
・クレーンの操作による投石作業が行われる際には、常にクレーンハウスの旋回運動による危険性が生じていた。
・二時間に及ぶ作業時間中には、乗組員が折を見て持ち場を離れることもあり得た。
具体的注意義務の内容
→乗組員の安全を図るため各乗組員の動静にも注意を払い、乗組員が持ち場を離れて危険な行為に出ようとしたときには、事故の未然防止措置を講ずべき義務。
注意義務違反の内容
→Y船長は、乗組員が投石作業中にあえてクレーンハウスの旋回範囲に立ち入るようなことはあるまいと考えて、Xの動静には監視の目を向けていなかつた。
また、同じ理由から、設備は備えていたのに必要はないものと考え、旋回範囲を立入禁止とするロープを使用していなかつた。
Y船長が、前記のように乗組員が投石作業中にクレーンハウスの旋回範囲に立ち入ることはあるまいと認識していたことは、少しばかり安易であつたものと見るのが相当である。
Y船長が、Xの動静に注意を払っていたとすれば、本件事故の発生を防止することができたのであるから、Y船長には、本件事故の発生について過失が認められる。
したがって、Y船長、Y船舶所有者らには損害賠償責任がある。
(Xの責任)
具体的注意義務違反の内容
Xが、作業が開始された後、そのまま船首楼の持場を離れず待機していたとすれば、本件事故は発生しなかったものということができる。
また、Xが、持場を離れて、船首部上甲板に下りようとした際に、同じく船首楼に待機していたAに対し、その旨を告げていたとすれば、本件事故の発生を防止する措置が講じられて、本件事故の発生を避けることができたかも知れない。
それなのに、Xは、一等航海士という立場にありながら、誰にも告げずに持場を離れた上、旋回運動を続けていたクレーンハウスの施回範囲に立ち入った。
→Xには、本件事故の発生について大きな過失があった。
(結論)
Xの過失の程度は、Y船長の過失の程度と対比して、75%と認められる。
まとめ
本件では、被災者に7割5分の過失割合が認められ、被災者の過失が大きく認められています。
その理由は、十分に危険を承知していながら持ち場を離れるという軽率な行動をした上、同僚に一声かけるだけでいいのにそれすら怠ったことによります。
自分の安全を守るための行動を選択することに大きな支障も無いのに、軽率な判断を重ねた点は認めざるを得ないでしょう。
もっとも、そうであっても、本件の作業は危険が大きく伴うことから、管理者側の責任も認められています。
その責任の内容からすると、ある程度抽象的な義務が認められていると感じます。
そのため、後々義務違反を追及されないためには、危険な作業の管理者側には細部まで慎重な注意が必要となるでしょう。
本件では、管理者も、安易な思い込みで事故防止措置をしなかったことが挙げられています。出来ることは全てやっておくことが望ましいです。
自らの不注意が主原因で事故に遭われた方でも、損害賠償請求できる余地はないか、ご相談下さい。