裁判例
Precedent
事案の概要
大衆割烹店の2階で開かれた銀行の期末預金増強決起大会中に、飲酒した行員Xが、階段から降りる際に誤って足を滑らせ階下へ転落し、二日後に脳挫傷で死亡した。
そこで、Xの遺族が銀行を相手に損害賠償請求訴訟を提起した事例。
<争点>
本件事故は業務中に発生したものと認められるか。(業務災害該当性)(その他に、銀行の安全配慮義務違反の有無。)
<判決の内容>
判決は、本件決起大会が銀行の業務に関連したものであることは明白であり、右大会への出席は任意ではなく、事実上業務命令とも同視し得るものであり、したがって、Xは総務職員としてではあるが本件大会中は銀行の指揮監督下に置かれていたものというべきであるから、本件事故は業務中に発生したものと認められると判断した。
まとめ
業務災害として認められるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」を満たす必要があります。
「業務遂行性」とは、使用者の支配下にある状態であり、「業務起因性」とは、業務と災害の間に相当因果関係があることをいいます。
「業務遂行性」が認められれば、通常は、「業務起因性」も認められます。
したがって、本件でも、本件決起大会の出席者らは使用者たる銀行の支配下にあるといえるのか、本件決起大会は会社外での宴会であるため問題となりました。
本判決の判断の前提として、上記<事案の概要>の他に、特に以下の事実が認められています。
・決起大会は、期末、ボーナス時期等に定期的に行われるものであること。
・本件大会も決算月に業務拡大目標達成のために開催されたものであること。
・本件決起大会の費用は会社と支店長持ちであったこと。
・慰労の趣旨もあって大衆割烹店とされたこと。
・出席は、支店長の指示によるから、特別の事情のない限り出席をせざるを得ないものと各職員が考えていたこと。
等です。
これらの事実を総合的に考慮して、業務に関連し、事実上強制参加で業務命令ともいえると評価した上で、指揮監督下、すなわち使用者たる銀行の支配下にあったと認められました。
また、Xは、当時飲酒状態でした。もっとも、本件決起大会が一定の飲酒を当然に含むことや、業務との関連性が強く認められたことから、「業務起因性」が否定されることもなかったと考えられます。
本件のような行事中の災害であっても、業務災害として認められる場合があることを覚えておいてください。