裁判例
Precedent
事案の概要
XはY社従業員であって、Y1社の送迎バスに乗車中であった。
当時、同乗する同じくY1社従業員のY2が、バス走行中に車内通路を移動し、車両が揺れた拍子にバランスを崩し、着席していたXの頭部に倒れ掛かった。
Xは頭部及び顔面を窓ガラスに押し付けられ、頚部捻挫の傷害を負った。
そこで、Xは、Y2及びY1社に対して損害賠償請求訴訟を提起した。
<争点>
Y1社の安全配慮義務違反の有無、など
<判決の内容>
(X側の主張)
Y1社は、Y2が本件事故前から走行中の本件車両内でむやみに移動していたにもかかわらず、Y2に対し、走行中の移動を慎むよう適切に指導しなかった。
したがって、Y1社は、従業員の生命、身体等に危険が及ぶことのないよう、その安全に配慮する義務に違反しており、また、Y2の選任監督につき相当の注意をしていなかった。
(Y1社の主張)
Y1社の従業員である運転手のBは、本件事故前にY2が本件車両内を立ち歩いた際に立ち歩かないよう注意していた。
また、Y1社は、平成20年6月の道路交通法改正によりシートベルトの全席着用が義務づけられたことを受け、シートベルトの着用を促す文書を作成した上で、これを本件車両の利用者に交付してシートベルトを着用するよう指導を行い、また、本件車両内に当該文書及び「シートベルト着用」のステッカーを貼るなどして、シートベルトの着用を促していた。
したがって、Y1社は、従業員に対する安全配慮義務に違反しておらず、また、Y2の選任監督についても相当の注意をしていた。
(裁判所の判断)
安全配慮義務の有無
Y2は、本件事故までの7、8年の間に、走行中の本件車両内を複数回立ち歩いたことがあったこと、本件車両の運転手であるBは、本件事故前、Y2に対し、車両の走行中は立ち歩かないよう1、2回注意したことがあったが、Y2はこれを受け入れなかったこと、本件事故当時に本件工場の総務係長を務めていたJは、上記の事実を把握していなかったことが認められる。
このような場合、本件車両に搭乗する他の従業員の生命、身体等に危険が及ぶことのないよう、その安全に配慮すべき義務を負うY1社としては、本件事故前に、Y2を監督する立場にある者からY2に対して走行中の本件車両内で移動することのないように厳しく指導する義務を負っていたというべきである。
安全配慮義務違反の有無
Y1社は、このような指導をすることなく本件事故を発生させた。
したがって、本件事故の発生につき、上記の安全配慮義務違反がある。
また、Y1社が上記のような指導をしていなかったことに鑑みると、Y2の選任監督について相当の注意をしていたとは認め難い。
(結論)
Y1社は、安全配慮義務違反の債務不履行(及び民法715条1項)に基づいて、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任を負う。
(結論)
国の責任は認められない。
まとめ
本件は、Y2が危険なバス走行中にむやみに立ち歩いていたことが原因で発生した事故です。
バス走行中にそのような行動をすれば、自身の受傷だけでなく他の乗員乗客に対して危害が生じるおそれがあるため、Y2個人の責任が大きく、他に会社の責任は生じないようにも思われます。
それにもかかわらず、裁判所がY1社の義務違反を認めた理由は、Y2が何度も危険な行為を繰り返しており、注意にも従っていなかったことがあります。
このような従業員に対しては、特別に厳格な指導を行うべきであったとされたのです。
以上のとおり、本判例によれば、ルールを守らなかったりする従業員に対して、会社は一般的な注意をなすだけでは足らずさらに厳しい指導を行う責任が生じるといえます。
たとえそれが従業員が少し考えればわかるような場合であっても、免れないことがあります。
会社としては、細かな指導をしていく必要があるでしょう。
なお、本件では、Xには神経症状による後遺障害が残存したと認められ、後遺障害等級14級に相当する慰謝料額110万円が認定されています。
被害に遭った従業員の方は、後遺障害部分も含めて、適切に賠償を受けられるよう、弁護士にご相談されることをお勧めします。