裁判例
Precedent
事案の概要
Xは、定年退職後、社団法人のシルバー人材センターに登録し、定年退職後も同じ会社の工場で定年退職前と同様の作業を行っていた。
同シルバー人材センターと元勤務先会社(以下、会社といいます)との間には、Xの就労条件について、時間制報酬の定め以外に細かな取り決めはしておらず、請負契約などもなく、同シルバー人材センターが具体的作業内容の記載の無い「受注票」を作成していただけであった。
そんなある日、Xが、作業中にプレス機で指を挟まれ切断するという事故が起きた。
Xは、労働基準監督署に、療養補償給付及び休業補償給付の支給を求めて申請したが、同署長は、Xは労働保険法上の労働者に該当しないとして不支給決定処分を下した。
Xは、本件処分について不服申立てをしたが、いずれも棄却された。
そこで、労働基準監督署長に対して行政訴訟を提起した。
<争点>
労災保険法上の労働者にXは該当するか。(労働者の判断基準)
<判決の内容>
判決は、労災保険法上の労働者は、労基法9条に定める労働者と同義であること、その上で、労働者であるかどうかは、使用者の指揮監督の下に労務を提供し,使用者からその労務の対償としての報酬が支払われている者として,使用従属関係にあるといえるかを基準として判断すべきであるとした。
使用従属関係にあるか否かについては、①業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、②業務遂行上の指揮監督の有無、③勤務場所・時間が指定され管理されているかどうか、④労務提供につき代替性の有無等の事情を総合的に考慮して実質的に判断されるべきとした。
そのため、会社とXの間に雇用契約がなく、会社が同シルバー人材センターに注文した仕事をXが同シルバー人材センターとの間の請負契約に基づいて仕事を行うことになっていることのみから、形式的にXの労働者性が否定されるものではないとした。
本件では、Xは定年後も会社から仕事の指示を受け、それをこなすため残業や休日出勤までして対応していたことから、Xには、①業務に対し諾否の自由はないとした。
また、就労場所は会社の工場に限定され、他の従業員と同じく出退勤記録をつけており、②就業時間場所について管理を受けていた。
さらに、定年退職前から、Xは担当部門のチーフ的立場で業務を行っていたため、③代替性は無いとされた。
そして、Xが就労した時間を基準として、定めに応じた金額が同シルバー人材センターから支払われていた。
これは、実質上は、④労務対価たる賃金であるとした。
以上から、総合的にみて、Xは使用従属関係にある労働者と認められた。
まとめ
労災保険法上の労働者について、契約関係などのみから形式的に判断するのではなく、個別具体的諸事情を勘案して、実質的に判断することを示した裁判例です。
この判断基準は、最高裁の判示から一般的に認められているものです
そして、本件でも、上記のとおり、実質的な判断のもとで労働者性が認定されました。
このように、お金の支払元や仕事先との形式的な関係が、雇用等ではなくても、労災法上の労働者として認められる余地があり、労災事故に遭った時に、労災給付を受けられる可能性があることはぜひ覚えておいてください。