裁判例
Precedent
事案の概要
Xは、とび職として、建設会社に従事していた。
事故当時は、ある工事のため、自宅から離れた寮に単身赴任していた。
もっとも、週末は、休日を利用して自宅へ帰宅し、仕事の前日に寮へ戻り、翌日に寮から工事現場へ赴き就業していた。
ある日、工事がある事故により中止となり、Xらは休日を取ることとなった。
そのため、Xは寮から自宅へ帰宅し、就業前日に同僚とともに車で自宅から寮へ向かっていた。
その際、路面凍結によるスリップを原因として事故を起こし、Xらは死亡した。
<争点>
本件事故の通勤災害該当性。
具体的には、本件において、労災法7条の、「就業に関し」、「住居」、「就業の場所」に該当するものはなにか。
<判決の内容>
・「就業の場所」について
本件の工事現場が、業務を行う場所としての「就業の場所」となる。
対して、本件寮は「就業の場所」には当たらない。
・「住居」について
休日等を利用して「就業の場所」と家族らの住む自宅との間を反復、継続して往復している週末帰省型通勤の場合は、寮だけでなく、帰省先の自宅も「住居」に当たる。
・週末帰宅型通勤の判断基準としては
「就業の場所」と自宅との間の往復行為に反復・継続性があると認められる限り、右の行為は週末帰宅型通勤に該当するものというべきである。
そうすると、「就業の場所」には当たらない寮に向かって帰任する行為が、「就業の場所」に向かう行為と同視し得るとすれば、週末帰宅型通勤をしていたものということができる。
・「就業の場所」に向かう行為と同視することができるか否かの判断基準
寮が工事現場と一体となった付帯施設である場合は、同視することができる。
・「就業に関して」について
週末帰宅型通勤の場合は、長時間にわたる遠距離の通勤が前提となっているため、業務に密接に関連するか実態に即して判断すべきである。
本件では、Xらは、とび職という危険な業務に備えて、前日から本件寮に向かっていた。また、会社は、就労日の前日には本件寮に戻り、十分な睡眠をとった上で就労するよう、常日頃から従業員を教育していた。そのため、Xらは、まさに、就業に不可欠な行動として、就労日の前日に移動していたものというべきである。
したがって、業務に密接に関連するというべきでる。
以上より、本件事故を、通勤災害と認めた。
まとめ
本件のXらの週末の行動は、仕事を終え寮から自宅へ帰り、休日を自宅で過ごし、就業の前日には帰寮し、翌朝から工事現場で就業する
という流れであった。
本件では、休日に自宅から帰寮する道中で交通事故により死亡してしまいました。
・「就業の場所」について
本件工事現場が業務を行う場所であるのは明らかで、「就業の場所」にあたることは問題ありません。
対して、本件寮は、寮内で特に業務に関する予定があるわけではなかったので、本件寮は「就業の場所」には当たらないとされました。
これも一般的な感覚にも沿うものでしょう。
・「住居」について
ここでいう「住居」とは、日常生活をするために住んでいて、労働者の就業のための拠点となるものです。
本件では、週末帰省型通勤の場合は、帰省先の自宅も「住居」に当たるとされました。
つまり、週末規制型通勤の場合は、帰省先の自宅も就業のための拠点と認められました。
これは、寮が就業場所と一体となった付帯施設と判断され、自宅から寮への移動も「就業場所」への移動と同視できると考えられたためです。
では、なぜ寮が就業場所と一体となった付帯施設と判断されたのでしょうか。本判決は、工事現場と工事現場に付帯する宿舎の関係は機能的に同一であることに着目し、そうであるならば、寮と工事現場が若干離れていることを理由に、「就業の場所」に向かう行為とは異なるとするのは、余りにも形式的であるとしました。
そこで、個別具体的に検討したのです。
そして、普段寮に住む工事現場の従業員らが真に自由な生活を営み得るのはそれぞれの自宅であるとし、他の一般の単身赴任者とは異なった重い意味があるとしました。
そのため、自宅から工事現場と一体となった付帯施設である本件寮に向かう行為は、まさに「就業の場所」に向かうのと質的に異なるところがないと認めたのです。
・「就業に関して」について
本判決は、これについても、実態に即し前日の帰寮は業務に密接に関連しているとの判断をしました。
ここでは就業のために前日に寮へ戻ることが実質的に要求されていたことが重視されています。
以上のように、本判決に従うと、週末に帰省されている方の労災認定の大前提としては、その帰省が反復継続しているか、帰任することが業務に密接に関連するかという点が重視されることとなります。