裁判例

Precedent

フランチャイズ
フランチャイザーがブランド価値維持義務を負っていると認められた事例(平成22年7月14日東京地裁判決)

事案の概要

被告は、洋菓子販売店のフランチャイズ事業を営んでおり、原告は、不動産業、総合建設業等を業とする株式会社である。

原告は、被告との間で、被告をフランチャイザー(本部)、原告をフランチャイジー(加盟店)とするフランチャイズ契約(以下、「本件契約」という。)を締結した。

契約締結から約3年後、被告が消費期限切れの原料を製品に使用していたことがマスコミに報道され、被告の食品安全衛生管理に関する問題が連日報道されたことから、Yの商品がデパート・スーパー等の大型店の店頭から撤去され、返品されるなどの事態を招くに至った(以下、「本件事件」という。)。

原告は、被告の要請で、約3か月間、営業を休止したが、その後、休業期間が経過しても営業を再開せず、営業の廃止を決定した。

原告は、本件事件にかかる被告の行為が債務不履行に当たるとして、損害賠償を請求した。

<判決の概要>

(1)被告は、原告に対し、その使用を許諾した商標、サービス・マーク等のブランド価値を自ら損なうことがないようにすべき信義則上の義務を負う。

(2)被告が消費期限切れの牛乳を使用したこと、そのことがマスコミで報道されたこと、その結果、被告の商品がデパート等の店頭から撤去され、返品されるなどの事態を招くに至ったことは、被告の商標、サービス・マーク等のブランド価値を自ら損なわないようにすべき義務の違反に当たる。

(3)原告がフランチャイズ店の営業を再開できなかったのは、被告によるブランド価値維持義務違反行為によるものとは認められず、義務違反と損害との因果関係が認められない。

まとめ

フランチャイズ契約においては、フランチャイザーが、フランチャイジーとの関係で、自らのブランドに対する信頼をどのように保護していくかが問題とされること多いですが、本事案では、フランチャイザー自身によるブランド価値の毀損の責任がフランチャイジーによって追及されました。

判決では、原告の主張した営業上の損害と、被告のブランド価値維持義務違反との因果関係は認められないとして、原告の請求を棄却しましたが、これは、原告の経営していたフランチャイズ店が、開店から休業に至るまでの3営業年度のいずれも赤字であったことなどが理由となっています。

したがって、本件とは異なり、仮に原告が経営していたフランチャイズ店が一定の利益を計上していたにもかかわらず、本件事件により売上の減少が生じたなどの事情があれば、原告の請求は認められていた可能性があります。

もっとも、本件のように、フランチャイザーが自身のブランド価値を毀損した場合、その結果減収したフランチャイジーであれば誰でもフランチャイザーの責任を追及できることになり、二次的な社会問題へと発展する可能性もあり、裁判所の認定が慎重になることは十分に考えられます。

そこで、対策としては、紛争予防の観点から、フランチャイザー自身によるブランド価値維持義務違反があった場合には、フランチャイザーの責任を合理的な範囲に限定する条項を設けることなどが考えられますが、すでに契約中の当事者間については、契約内容の変更、又は、次回の契約更新時での条項の付加などが必要となるでしょう。

いずれも専門的な知識を要する事項ですので、専門家である弁護士に相談してみることをお勧めします。

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