裁判例
Precedent
事案の概要
たこ焼き店を展開していたフランチャイザー(Y)とフランチャイズ契約をしたX(フランチャイジー)が、フランチャイズ契約締結前にYが適切な情報を開示・提供しなかったこと、経営指導を怠ったために損害が発生したとして、損害賠償請求をした事案。これに対し、YもXに対して未払のロイヤリティ及び違約金の支払を求めた。
<争点>
経営指導義務違反の有無
<判決の内容>
(1)フランチャイザーが行った研修について
XがYから受けた研修は、連日午前9時ころから翌午前2時ころまで、店舗でたこ焼きを焼く実地研修を受けながら、空き時間に仕材等の原価表を暗記してそのテストを受ける他、毎日の終了時に役員の面接を受けるというものであった。この研修は1か月を超えるものであったにもかかわらず、休日は与えられなかった。
このような研修は、初めてたこ焼き屋の業務を学ぼうとするXの精神的肉体的な緊張や負担にYが配慮していたとはうかがえず、客観的にみるならば、研修の処遇や条件そのものについて、適切さを欠いていたとの指摘は免れない。
また、研修内容についても、自営業経験のないXにとって、実技と同程度に重視されるべき経営や営業に関する事項の研修については、単に仕材等の原価表を暗記させ、その正答率を高めさせることに終始しており、原価率以外に営業に際して不可避的に発生するロス(商品の廃棄)について、それをどのように収益に考慮し以後の経営に反映させていくかなどについて指導がなされた形跡が全くうかがえない。
上記の研修の処遇、条件、内容に照らすと、Yが店舗開店を間近に控えたXに対して実施した研修は不十分であったと言わざるを得ない。
(2)店舗に発生したトラブルに対する対応ついて
Xが開店した店舗については、開店前後から倉庫が水浸しになる漏水事故や、店舗外の電気プラグが屋内用であったことが判明する、提灯が発火する等のトラブルが頻発し、その都度XはYに連絡をして対処を求めた。
しかし、Yが対応したのは漏水事故だけで、しかもその対応も補修資材をXに渡したのみであった。
このようなトラブルが開店の前後という経営が軌道に乗らない時期に頻発している以上、Yは各トラブルについて調査、対処をすべきであったにもかかわらずその責務を果たしていない。
(3)割引券の配布について
Yは、使用対象も個数も制限ない割引券を1万枚用意し、何らの事前の客観的な調査や予測もすることなく、かつ、Xに事前に説明してその了承もすることなく、Xにこの割引券を配布するよう指導している。
この指導姿勢は、Xの店舗の収益について極めて無責任であると言わざるを得ず、適切にXに経営の指導をしたとは到底評価することができない。
まとめ
(1)経営指導義務について
フランチャイジーは、フランチャイザーとは独立した事業者として店舗の経営をし、その事業に伴うリスクを自ら負担します。
したがって、フランチャイザーは、フランチャイジーに対して、業務態様に応じた経営や営業に関するノウハウを提供して適切な経営指導を行うとともに、研修等の教育・訓練を行う義務を有しています。
このような経営ノウハウや研修を受けて営業を行える点がフランチャイジーにとってのメリットになります。
ただし、フランチャイザーが具体的にどのような経営指導義務を負担するかの判断には困難を伴います。
これは、経営指導というものが、一定の結果を約束するものではなく、一定の結果を実現させるために努力するというものであり、どこまでの指導をすべきなのかという見極めが困難であるところに起因していると思われます。
そのため、多くの裁判例では、フランチャイザーが経営指導義務に違反したという認定に消極的です。
すなわち、一応の合理的な経営指導をすれば経営指導義務を果たしたことになり、著しく不十分と認められるほどの義務違反がない限り、経営指導義務違反にはならない、という判断がされる傾向にあります。
本事例では、フランチャイザー側の行った研修、経営指導、トラブルに対する対応が相当不十分、杜撰なものであったため、裁判所も、経営指導義務違反を認定したものと考えられます。
そのため、フランチャイジー側は、開店直後にフランチャイザーから1人しか人員を派遣されなかったことも経営指導義務違反の根拠として主張しているが、この点について裁判所は、人材派遣をすることは集客確保等に有益とは考えられるが、それが契約上必須のものであったとは認められないとして、人員を派遣しなかったことについては、経営指導義務に反しているわけではないとしています。
本裁判例のように、経営指導義務に反するとした裁判例もありますが、その多くは経営指導義務違反を否定しており、経営指導や研修内容が相当杜撰でない限り、フランチャイザーの経営指導義務違反が認められることは少ないと考えられます。