裁判例

Precedent

フランチャイズ
事業の承継の対象とならなかった加盟店と事業を承継した会社との関係(平成22年7月9日東京地裁判決)

事案の概要

X(加盟店)は、飲食業のフランチャイズ・システムを営んでいた旧本部とフランチャイズ契約を締結した。

Xは、フランチャイズ店舗(本件店舗)を開店するにあたり、開店費用を旧本部の紹介する各金融業者から借り入れた。

その後、Xと旧本部はフランチャイズ契約を合意解約し、Xは旧本部に店舗を無償で譲渡する代わり、Xが各金融業者から借り入れた金銭の返済金を旧本部が負担することを合意した(本件合意)。

その後、旧本部は会社分割を行い、新会社に飲食業に属する事業を承継し、上記店舗に関する債務は承継しないという内容で新会社Yを設立した。

そこで、Xは、Yに対し、会社法22条1項に基づき、本件合意によるXが借り入れた金銭の返済金を支払うよう求めた。

※会社法22条1項
「事業を譲り受けた会社…が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う。」

<判決の概要>

①分割会社が経営する店舗の名称をその事業主体を表示するものとして用いた場合において、②会社分割に伴い当該店舗の事業が新設会社に承継され、③新設会社が当該店舗の名称を引き続き使用しているときは、④新設会社は、会社分割後遅滞なく債権者に債務引き受けをしない旨通知したなど免責を認めるべき特段の事情がない限り、会社法22条1項の類推適用により、分割会社が債権者に対して同事業により負担する債務を弁済する責任を負うと解される(最高裁平成20年6月10日判決参照)。

本件については、本件店舗がYらの直営店であり開店時から閉店時まで一貫して同じ名称で営業していたこと、Yがホームページ上でも本件店舗をYのチェーン店として広告していること、Yの商号と本件店舗の名称及びYの商号の類似性が認められること、旧本部とYの代表取締役が同じ人物であること、旧本部とYとの実質的連続性を強調するホームページ上の記載等も併せて考慮すれば、Yは、直営する本件店舗の名称をその事業主体を表示するものとし用い、Yも会社分割に伴い本件店舗の事業を承継した際にその店舗名を引き続き事業主体を表す名称として使用してきたと認められる。

したがって、Yは、会社法22条1項の類推適用により、Yが債権者に対して同事業により負担する債務を連帯して弁済すべき責任を負う。

まとめ

本部が事業譲渡を行う場合、どの権利関係(契約関係)を譲渡するかどうか、選択することができます。

そのため、ある加盟店との権利関係は承継しないという形で事業譲渡をすることができます。

この場合、権利関係が承継されなかった加盟店と事業の譲渡を受けた会社とは、何らの契約関係もありませんから、通常、この加盟店は、事業を譲り受けた会社に対して、フランチャイズ契約や旧本部との契約に基づく権利を主張することは難しくなります。

もっとも、新しく事業を承継した会社が旧本部の商号を使用し続けるなど、旧本部と同一と勘違いされるような外見を作り出した場合には、旧本部が負っていた債務の責任を負う場合があります(会社法22条1項)。

本裁判例は、会社分割という形態での事業の承継の事案ではありますが、会社分割によって事業は承継されたものの、旧加盟店と旧本部との間の権利関係(借り入れた金銭の返済金の支払い)については承継がなされなかったという事案です。

このような場合、事業の承継を受けた会社に対しては、旧本部との間の権利関係を主張することはできないのが通常です。

しかし、本件においては、事業の承継を受けた会社が、旧本部が運営していた店舗を自らのチェーン店として、名称を変えずに運営していたこと等から、上記会社法22条1項を使い、事業の承継を受けた会社も、旧本部との間の権利関係に基づく責任を負うことを認めました。

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