裁判例
Precedent
事案の概要
被告Y(本部)は、コンビニエンスストアのフランチャイズシステムを展開する会社である。
原告X(加盟店)は、Yとの間でコンビニエンスストアのフランチャイズ契約(以下、「本件契約」といいます。)を締結し、昭和63年3月から平成21年9月まで、コンビニエンスストア(以下、「本件店舗」といいます。)を経営していた。
Xとのフランチャイズ契約における商品の仕入れの仕組みは、以下のとおりであった。
①加盟店が、Yの提供する発注システムを用いて、Yが推薦する仕入業者(以下、「推薦仕入先」といいます。)に対して仕入れの発注を行い、加盟店と推薦仕入先との間で仕入契約を締結する。
②加盟店は、Yに仕入代金の支払いを委託し、Yは、加盟店に代行して推薦仕入先に仕入代金を支払う。
Yは、推薦仕入先から、仕入割戻金(リベート)を受領していた。本件契約には、Yが推薦仕入先から受領する金員に関する規定は置かれていなかった。
Yは、Xとの契約期間中、毎月のXとの損益計算に、上記のリベートをYの独自の基準に従って配分した金額を「仕入値引」として計上していた。
本件店舗の閉店後、YはXの求めに応じて、仕入割戻金の受領日、受領金額についての資料を開示した。
Xは、概ね次のように主張してYを被告として提訴した。
「本件契約上、XY間には、XがYに対して、推薦仕入先との仕入価格交渉の代行事務を委託する法律上の関係(以下、「本件委託関係」といいます。)が存在した。
仕入割戻金(リベート)は、推薦仕入先に対して仕入れを依頼する主体である加盟店に帰属すべき金員であり、各加盟店は、すべての加盟店による総仕入金額に対する自己の店舗の仕入金額の割合に応じて按分した金額を受領する権利を有する。本件契約期間中のXに帰属すべき仕入れ割戻金の金額から、『仕入値引』として計上されていた金額を控除した残額を支払え。」
また、Xは、同訴訟において、「Yは、リベートの取得に関して、加盟店に説明を行い、その取得につき加盟店の承諾を得る義務がある(にもかかわらずこれを怠った義務違反があり、債務不履行又は不法行為が成立する)」とも主張していた。
<判決の概要>
(1)本件委託関係の存否について
本件契約書上、仕入代金の支払いの代行につき加盟店が本部に委託する旨の規定はあるのに対して、仕入価格の交渉を委託する旨の規定はない。
本部は、フランチャイズチェーンを展開する者として、そのシステムの統一性を維持するため、加盟店に対し、仕入先及び仕入商品を推薦する契約上の義務を負っている。
推薦仕入先からの仕入価格の交渉は、このような本部が自らのために行う事務であり、加盟店から委託を受けて、加盟店のために仕入価格交渉を行っているものとは認められないから、本件委託関係は認められない。
(2)Yに義務違反が認められるか
Yが自己の事務を行う中で、推薦仕入先との合意に基づいて金員を受領することは、特に契約等により禁止されていない限り、本来、商人であるYが自由に行うことができる。
Yが自らの義務であるフランチャイズシステムを構築するに当たり発生する利益や経費は、Yの内部の問題であって、これをYがXに開示すべき信義則上の義務があると解することはできない。
さらに、仕入割戻金は、Yと推薦仕入先との合意により発生するものであり、推薦仕入先となる業者がこのような合意をするのは、フランチャイズシステムにおける推薦仕入先となることで、大量の発注を一括して受けることが可能な立場になることが動機となっていることが多いと考えられる。Xが個人商店として仕入業者と交渉した場合において、Yが得たような仕入割戻金を取得できる立場にあるわけではない。
したがって、YはXに対して仕入割戻金の取得に関して加盟店に説明を行い、その取得につき加盟店の承諾を得る義務があると認めることはできない。
まとめ
本判決では、本部が仕入先から受け取っていたリベートに対する権利の帰属が問題となりましたが、加盟店であるXの主張は認められず、その権利は、本部に帰属するとの考えが示されました。
本件では、Xは、仕入価格の交渉を本部に委託していたとする、本件委託関係の存在を主張していました。仮にこれが認められた場合、民法646条1項、同656条により、本部が受け取ったリベートは、「委任事務を処理するに当たって受け取った金銭」として加盟店に引き渡す義務が生じる可能性がありました。
しかし、裁判所は、仕入価格の交渉は、フランチャイズシステムを維持する上での本部自身の事務であるとして、本件委託関係の存在を否定しました。
さらに、Xは、上記のような委託関係が無かったとしても、本部は、リベートの取得に関し、加盟店に対して、信義則上の説明義務や、加盟店の承諾を受ける義務を負っていたのに、これらの義務に違反したと主張したが、裁判所はこれも否定しました。
本件において両当事者間で対立があったのは、そもそもリベートはどちらに帰属する金員なのか、という点だと思われます。
加盟店側としては、リベートとは、発注者が、その仕入先から、発注行為そのものに対する謝礼や仕入価格の割り戻しとしての趣旨で受取る金員であるとの認識があったように思われます。
そのため、仕入価格交渉事務の委託とか、本部の信義則上の義務といった考え方に至ったのだと考えられます。
他方で、本部としては、リベートを受け取れるのは、本部が多数の加盟店からの発注をとりまとめ、一括発注を可能なシステムを構築しているためであると考えるでしょうから、その謝礼又は仕入価格の割り戻しとして受け取る金員は、当然、本部の営業努力の対価としての意義を有し、本部に帰属すると考えることになります。
本件の裁判所においても、「推薦仕入先となる業者がこのような合意をするのは、フランチャイズシステムにおける推薦仕入先となることで、大量の発注を一括して受けることが可能な立場になることが動機となっていることが多いと考えられる」と、本件フランチャイズシステムにとってのリベートの意義を具体的に適示して、リベートが本来Yに帰属すべき金員であるとの考え方を示しています。
本件での、Xのリベートに対する考え方は、通常の商取引における発注者と仕入先を前提にした、やや形式的な考え方に寄っていると思われますが、このほか、Xの主張の前提となったのは、仙台高裁平成21年3月24日決定の存在も影響したものと考えられます。
同決定は、本件と同様に本部が受け取っていたリベートに対する加盟店の権利が問題となった事例における、加盟店から本部への、受け取ったリベートに関する資料の開示を求める文書提出命令の申立てについての高裁決定です。同決定では、「リベートの分配基準及び計算方法が書かれた文書」「本部が得たリベート収入額が記載された文書」について、文書提出命令の申立てを却下した地裁決定を覆し、命令を認める判断がされていました。
そして、同決定の理由中の判断において、コンビニ本部が仕入先より一括して受領したリベートの処理につき、本部の自由裁量ではなく、これを適正な分配基準にしたがって加盟店に適正に配分すべきFC契約上の義務を認定していました。
それでは、本判決は、上記高裁決定と実質的に異なる判断をしたといえるでしょうか。
たしかに、本判決は、リベートの取得は原則として本部の自由としていますから、上記高裁決定と相反する判断をしているとも思えますが、上記高裁決定においても、受領したリベートを適正に配分すべき義務があると述べているに過ぎず、受領そのものに何らかの規制を加えているとまで読み込むことはできません。
さらに、本件では、Yは、「仕入値引」として、毎月、受け取ったリベートの内の一定額を加盟店に配分していたのであり、しかもそのことは、総勘定元帳によって加盟店も確認が可能でした。
これらの事実関係からすれば、上記高裁決定を前提にしても、本件Xには、Yに対して何らの義務違反も行っておらず、Xの損害賠償請求を認める余地はなかったと評価することができます。
以上のように、フランチャイズ契約において、本部が仕入先から受け取るリベートに対する権利の帰属はしばしば争われることがありますが、その権利の帰属主体は、基本的には契約上の規定の有無により、規定がない場合には、そのリベートの実質的な意義などの具体的事情から判断されることになると考えられます。
このような判断は、契約の文言解釈や、様々な事情を総合的に判断するための、高度に専門的な知識が必要となるため、リベートの取得や、その権利の帰属に関して、後々の紛争を予防したい、あるいは、現時点で既に紛争を抱えてしまっているフランチャイズ関係者の方は、ぜひ一度、法律の専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。