裁判例

Precedent

離婚問題
夫婦間の慰謝料③~夫婦間でのお詫びなんて~(東京地方裁判所平成17年7月29日判決)

事案の概要

夫婦は婚姻後2人の子をもうけ、特段の問題なく生活していた。

夫は、その性格上、妻との議論を避ける傾向にあり、時折起きる夫婦げんかの際には、妻が一方的に自己の言い分を述べ、夫は、妻の気持ちがおさまるのを待つことが多かった。

夫婦げんかの際、夫は、妻の頭をかするようにして軽くぶったようなことは何回かあったが、その程度は、妻に怪我をさせるようなものではなかった。

その後、妻は、2人の子を連れて自身の実家に身を寄せ、夫婦は別居するようになった。

別居後、第三者立会いの下、話合いをした際、夫は、妻や子らに対する暴力や暴言、浪費等を認め、2度とこのような行為を繰り返すことをしないことを誓約する「詫状」に署名押印して妻に交付した。

この「詫状」は、妻が一方的に作成してきた書面であり、夫は、その内容を認めたわけではなかったが、妻が自身の下に戻ってくることを期待して署名押印したのであった。

その後、妻は婚姻費用分担の調停と審判を申立てた。

夫婦は、裁判所の勧告に従い、本件調停が続く間、5回にわたり直接面談して婚姻関係を回復する可能性を探ったものの、妻は、暴力について夫が謝罪することなどに固執し、一方で、夫は、暴力について身に覚えがなく謝罪に応じなかったことなどから、婚姻関係を回復する可能性を見いだすことはできなかった。

そこで、やむなく夫は離婚を求め、妻は夫に対し慰謝料の支払いを求めた。

<争点>

妻から夫に対する慰謝料請求は認められるか

<判決の内容>

夫婦の婚姻関係は、回復することが困難なほどに破たんしていることが明らかというべきである。

また、婚姻関係が破たんしているにもかかわらず、妻に著しい生活の困窮をもたらすなどの理由から婚姻の継続を相当と認めるべき事情も認められない。

妻は、夫による暴力や浪費等を主張するが、夫婦げんかの際に、妻の頭をかするようにして軽くぶった程度のことは何回か認められるが、それが婚姻関係破たんの原因となるものということはできない。

妻は、夫による暴力の結果自身が負傷したことの裏付けとして医師の診断書、診察券、「詫状」を提出するが、上記診断書等は、その内容や時期(いずれも別居後のものである。)に照らしても、夫による暴力による負傷の事実を裏付けるものではなく、上記診察券も、夫による暴力による負傷の事実を直ちに裏付けるものではないし、「詫状」は、その作成経緯から、夫による暴力や浪費等を裏付けるものとはいえない。

また、夫が「絶対に暴力をふるいません。」などと走り書きをしたメモもあるが、その体裁や夫の本人尋問の結果によれば、夫が、妻から強く言われると、議論を避けて妻の言い分を認めてしまう性格であると認められることに照らしても、夫による暴力を裏付けるものとはいえない。本件記録を精査しても、他に、妻の主張を認めるに足りる的確な証拠はない。

以上のとおり、夫婦間の婚姻関係破たんの原因は、両者間の性格の不一致によるところが大きく、夫が有責配偶者であるということもできないし、妻に対して慰謝料を支払わなければならないほどの有責性を認めることはできない。

まとめ

夫婦間の慰謝料は、①不貞やDVなどの個別的な行為により生じた精神的苦痛に対する賠償と、②離婚することそれ自体から生じる精神的苦痛に対する賠償に分けられます。

本件は、①及び②のいずれも認められないとした裁判例ですが、特筆すべき点は、慰謝料の発生原因となるDV事実の立証につき、「詫状」で夫がDVの事実を認めたとしても、その作成経緯からDVの存在を容認しないと裁判所が判断したことです。

裁判上は、それぞれの証拠のもつ価値が、中立に判断されることになりますので、不用意に証拠集めに奔走することは適切ではありません。

本件は、妻側から見ると、証拠の収集に固執することで、適切な解決時期を逸してしまった例といえるかと思います。

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