裁判例

Precedent

離婚問題
夫婦間の慰謝料②~暴力行為による苦痛と離婚による苦痛~(東京地方裁判所平成18年11月29日判決)

事案の概要

夫婦は、平成10年頃から、口論をすることが増え、口論の際に、夫が、妻に対し食器などを投げたりするようになった。

ある日、口論となり、夫が立腹したあげく、ハードカバーの本1冊を、妻に対して投げ、妻の左眼に当たった。妻は、出血しながら、自分で救急車を呼び、搬送後、入院して緊急手術を受け、3年半以上もの入通院期間を経て、左眼の視力低下や視野狭窄、心的外傷後ストレス障害が残ってしまった。

妻は、夫に対し、離婚請求と併せて、総額8,000万円以上の損害賠償を求めた。

<争点>

DVがある場合の慰謝料額はいくらか。

<審判の内容>

入通院慰謝料について、本件受傷に至る経緯、本件受傷の態様及び内容、その後の治療経過、3年半を超える長期の入院及び通院等の事情を総合考慮すれば、400万円と認めるのが相当である。

後遺障害による慰謝料について、妻の左眼の障害とPTSD(心的外傷後ストレス障害)は、後遺障害等級8級に相当するため、各後遺障害の内容及び程度のほか、妻の年齢、将来の就労への制約及びこれに対する無念な心情等を総合考慮すれば、800万円と認めるのが相当である。

家事就労に関する休業損害及び逸失利益と合わせて、不法行為による損害賠償は、3974万1072円とする。

また、婚姻関係が破綻するに至った経緯は、夫による暴行と本件受傷が破綻の原因であって、妻は、そのため、婚姻生活の解消を余儀なくされたものというべきところ、本件受傷そのものに関する慰謝料については、上記のとおり、入通院慰謝料を認めたことや、その他本件に現れた諸事情を総合考慮すれば、離婚に伴う慰謝料は、300万円と認めるのが相当である。

まとめ

離婚に伴う慰謝料額は、配偶者の有責行為の程度(本件でいえば「暴力行為及び傷害の程度」です。)や、婚姻破綻に至る経過等さまざまな事情をもって決められます。

本件では、妻に残ってしまった後遺障害の程度がとても重篤だったため、高額な慰謝料が認められるに至りました。

そして、特に目を引くのは、暴力行為により生じた慰謝料と、離婚に伴う慰謝料のいずれも認めている点です。

交通事故のような人身傷害に関する賠償請求であっても、後遺障害慰謝料は830万円程度になることが多いため、本件の裁判所の判断は、暴力行為により生じた慰謝料額を適正な範囲で認めつつも、離婚に伴う慰謝料額300万円を認める点で、とても画期的なものといえます。

また、本件のように、夫の暴力行為により、肉体的な障害のみならず、精神的な障害を負ってしまうケースは多々あり、そのような精神的な障害に関する慰謝料も離婚に伴う慰謝料とは別に認められることがあります。

配偶者の暴力行為にお悩みの方は、ご自身で抱え込まずに、適切な慰謝料を獲得するため、弁護士にご相談いただくことを強くお勧めいたします。

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