裁判例
Precedent
事案の概要
妻は、夫に対し、自身の収入を偽って述べたり、自身は仕事を辞め、夫の収入から自身のお稽古ごとや友人との旅行などを継続したいとの要望を述べたりしたが、夫の経済状態からは妻の要望を叶えることはできなかった。
夫は、妻の無断外泊、虚言癖、ヒステリー等から、妻への愛情が急速に冷めていったため、離婚請求をした。
これに対し、妻は、夫の暴行があったことを主張し、慰謝料を請求した。
<争点>
離婚原因が性格の不一致にある場合、夫婦間の慰謝料請求は認められるか。
<判決の内容>
夫と妻との離婚原因は、主として、妻の現実的な婚姻生活を無視した行動により、夫が妻との婚姻生活に嫌気がさしたものと認められる。
したがって、離婚原因は、主として、妻の言動等が原因であると言わざるを得ない。他方、夫としても、婚姻前に妻の交際を通じて妻の期待している婚姻生活等を十分に把握しておくべきであったところがあり、婚姻前に婚姻すれば妻の性格が変化するだろうという甘い期待をしたところに問題がある。
その意味では、当初から夫と妻との性格の不一致が本質的な原因であるとも認められる。そうすると、離婚に伴い、相手方に対して認められる慰謝料については、夫から、妻に対し、50万円程度認めれば足りる。
まとめ
夫婦間の慰謝料を分類すると、①不貞やDVなどの個別的な行為により生じた精神的苦痛に対する賠償と、②離婚することそれ自体から生じる精神的苦痛に対する賠償に分けられます。
本件では、夫から妻に対して支払われる慰謝料が、①と②のいずれかであるか、裁判所は明言をしていません。
しかし、離婚原因を性格の不一致と判断していることを考えると、婚姻期間中の夫の軽微な暴行しか慰謝料の発生原因が見当たらないため、①の慰謝料について判断をしているものと思われます。
性格の不一致が離婚原因となる場合、双方痛みわけとして、②離婚することそれ自体から生じる慰謝料は生じないと判断される傾向にあります。
そのため、性格の不一致を離婚原因として、離婚を求める場合、夫婦間での慰謝料請求では、不貞やDVなどの個別的な行為により生じた精神的苦痛を主張することになります。