裁判例
Precedent
事案の概要
夫は、生命保険会社との間で、契約者及び満期保険金受取人を自身に指定し、簡易生命保険契約を結んだ。その後、夫婦は離婚した。
生命保険会社は、上記簡易生命保険契約にかかる満期保険金合計851万円を妻に支払った。
夫は、これを知らず、生命保険会社に対し、満期保険金を請求したところ、生命保険会社は、夫の承諾の下、妻に支払済みであるとして支払いを拒絶した。
そのため、夫は、生命保険会社に対し、満期保険金合計851万円の支払いを求め、訴えを提起した。
<争点>
妻には、満期保険金の受領権限があったか否か
<判決の内容>
本件において、満期保険金の支払請求手続きにおいて妻が保険証書原本を持参したことは争いがないのであるから、夫が交付したと考える以外にない。
さらに、夫は、妻に対して運転免許証原本を貸与したことはなく、生命保険会社が提出した本人確認記録書は、改氏名請求手続きの際に作成された確認書の控えを流用したものである旨主張する。
しかしながら、本件において、生命保険会社従業員の対応は、多額の満期保険金を支払うにあたりずさんな対応ではあるものの、妻は満期保険金の支払請求手続きにおいて、夫から運転免許証原本を借り受けて持参したと推認される。
上記認定事実によれば、本件満期保険金の支払請求手続きの際、妻は、夫から交付された保険証書原本及び夫から借り受けた運転免許証原本を持参したこと、夫婦であると誤信した生命保険会社従業員が電話で夫の意思確認ができれば委任状の提出は必要ないと判断したこと夫が、妻に対する満期保険金の支払いを了承したことが認められるのであるから、夫は、妻が本件満期保険金の支払請求手続きをすることを了解し、妻が生命保険会社から満期保険金を受領する権限を付与していたと推認できる。
したがって、夫の請求には理由がない。
まとめ
離婚を考えたときに、生命保険のみならず、契約しているあらゆる保険金の支払いがどうなるか疑問に思われる方はたくさんいらっしゃいます。
まず、考えなければならないことは、契約者がどなたか、契約者は受取人をどなたに指定しているかということです。
本件は、受取人を自身に指定していたにもかかわらず、保険金をいざ請求したところ受け取ることができないとわかった夫が、生命保険会社に対して、訴えを提起しましたが、離婚の際にきちんと整理をしておけば、このような事態にはならなかったと考えられます。
すなわち、生命保険の保険金は、保険料の対価ですので、夫婦が保険料を共同して支払ってきたと評価できる場合は、解約をするか継続をするかは別として、別居時点の解約返戻金相当額が財産分与の対象となるのが通常です。
そのため、離婚の際に、解約返戻金相当額の分与をきちんとしていれば、生命保険会社との間で紛争に発展することもありませんでした。
離婚を考える際は、将来支払われるであろう保険金を想定して、各種保険の契約者、受取人を確認し、きちんと夫婦間で適切な取り決めが出来るよう準備をしましょう。