裁判例
Precedent
事案の概要
平成16年、夫婦は婚姻し長女をもうけた。
しかし、調停、裁判を経て、平成22年に夫婦の離婚が成立した。
夫は、平成23年、札幌家庭裁判所に対し、夫と長女が面会交流する時期及び方法等を定める旨の調停を申し立てたが、不成立となり、審判手続に移行した。
札幌家庭裁判所は、「妻は、夫に対し、面会交流することを許さなければならない」とする審判(以下「本件審判」という。)をし、本件審判は確定した。
その後、夫は、妻に対し、長女との面会交流を求めたが、妻は応じず、夫と長女の面会交流は実施されなかった。
また、夫からの長女の学校行事の日程についての問い合わせに対し、妻は何ら知らせることもしなかった。
そのため、夫は、面会交流の実現に向けて、裁判所からの強制を求めた。
<争点>
面会交流の不履行を強制することはできるか
<決定の内容>
本件審判は、面会交流の権利者、義務者、子、面会交流の日程、回数、場所及び時間、引渡の方法を含めての面会交流の方法など、夫の面会交流権について、内容を具体的に特定して定めたことから、妻は具体的内容が定められた夫による面会交流を許さなければならない義務を負い、また、権利者が参列できる行事を具体的に特定して定めたことから、妻は夫が行事に参列することを妨げてはならない義務を負うところ、妻が前記各義務を履行しない場合には、妻に対し、間接強制として、その義務の履行を確保するために相当と認める額の金銭を夫に支払うべき旨を命じることができる。
妻は、子が夫に対する強い拒否的感情を示すとともに断固として応じない態度に終始していて、現時点において面会交流を強制することは、子に情緒的混乱を生じさせ、その生活に悪影響を及ぼすと主張して、夫と子の面会交流は許さなければならないものではないとする。
しかしながら、妻が主張する事由は、請求異議の事由として主張しうるにとどまるものであり、また、本件審判後に生じたものであるならば、審判後に生じた新たな事情によって面会交流を行うことが子の福祉を害するものとして、事情変更による面会交流禁止を求める調停・審判の中で具体的に主張すべきものである。
また、妻は、子が夫に対する強い拒否的感情を示すのであるから、学校行事の日程を夫に知らせることは子との面会を容認することに等しいと主張していて、子の学校行事の日程は知らせることができないとする。
夫が学校行事に参列することが子との面会を容認することとなるものではないことは論を待たず、子の意思に反するというのであれば、請求異議事由あるいは審判後の変更事情として主張すべきものであるというほかないことは同様である。
本件にあっては、妻が夫と子との面会交流を許さない場合には、間接強制として、妻に一定の金銭給付を命じることは許されるものというほかない。
不履行に際して妻の支払うべき金額については、妻の置かれている経済的状況や面会交流が履行されなかった場合に夫に生じると予測される経済的損失などを中心として算定すべきところ、本件に現れた諸事情を総合考慮して、不履行1回につき5万円を限度として定めることが相当である。
まとめ
面会交流を実施すべきか、また、実施するとしてどのような条件とするかは、「子の福祉」を中心に考えて判断がなされます。
常に「子の福祉」を考えなければならないことから、子を強制的に連れ出したり、閉じ込めたりすることはできないのは当然です。
そのため、面会交流を定めたにも関わらず、その実施がなされない場合には、制裁金を課すという強制の手段が採られることになります。
この手段を「間接強制」といいます。
本件では、面会交流の不履行にあたって、間接強制をすることが決定され、その制裁金が5万円と判断されました。
本件とは異なり、面会交流の条件について、具体的に定めていなかったことから、制裁金が限定的にしか認められなかった裁判例もあります(東京高等裁判所平成26年3月13日決定)。
そのため、面会交流の条件は、後々の争いを生まないようできる限り具体的に定めておく必要があります。
定め方については、事前にご相談ください。