裁判例
Precedent
事案の概要
夫は、MBA(経営管理学修士)等の資格を有し、勤務先を退職して、法人を設立した。
その後、夫は、ある株式会社のディレクターを務め、その子会社であるいくつかの会社を通じ、各種資格を取得するための研修コースを主催するなど、日本各地で仕事をしている。
女性Aは、上記研修コースのコーチ陣と企業その他の客の窓口を担っているが、夫が手がける研修コースへの参加をきっかけに、夫と親しくなった。
その後、夫と女性Aは、一緒に行動する機会が多くなった。
夫と女性Aは、石垣島や九州各県、栃木県などにワークショップに出向くなど、宿泊を伴う出張を重ね、時には仕事仲間も交え、現地の観光をすることもあった。
妻は女性Aに対し、夫と不貞行為をしたあるいは不貞行為と疑われるような行為をして、自身に精神的損害を与えたとして、慰謝料300万円の支払いを求めた。
<争点>
妻の女性Aに対する慰謝料請求は認められるか
<判決の内容>
妻は、女性Aが夫と不貞行為を行ったことを推認させる事実として種々の行為を主張するが、事実経過に照らすと、女性Aと夫は仕事を共通にしていて一緒に遠方に行くなど共同で活動する機会が多く、妻が主張する夫と女性Aの遠方に赴いた行動はいずれも仕事上の用事によるものであることが認められ、一緒に行動しているからといって当然に両者間の不貞行為や親密な交際を推認させるようなものではないというべきである。そこで、妻が主張する点について、更に進んで検討する。
妻は、女性Aが平成25年2月22日から同月26日にかけて夫と共に長崎に出張し同室に宿泊したと主張する。
しかしながら、事実経過及び証拠によれば、女性Aは平成25年2月に熊本に夫と共に出張したが、仕事仲間の九州を案内したいという申し出により長崎に観光に行ったこと、夫の発案で経費を節約し打合せの時間を多く取る目的で仕事仲間を含む3人で1部屋を利用する宿泊プランを使うことにしたこと、その3名で1室に2泊宿泊したこと、夫は帰宅した際妻に上記出張の内容や同行者を正直に話したことが認められる。
以上の事実に照らすと、上記認定の事実から女性Aと夫の不貞行為や親密な交際を推認することはできない。
妻の主張は裏付けがなく推測にすぎないから、これを採用することはできない。
よって、妻の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却する。
まとめ
不貞行為による慰謝料請求で問題となるのは、不貞行為自体もしくは不貞行為を疑われるような行為により、夫婦間の平穏な婚姻生活が害されたかどうかという点です。
ここでいう不貞行為とは肉体関係を指しますので、不貞相手に慰謝料請求をする場合、肉体関係があったと疑われるような行為を主張立証しなくてはなりません。
本件では、妻はたくさんの事情を主張立証していますが、裁判所は、同室に宿泊した事実を認めつつも、肉体関係があったと疑われるような行為にはあたらないとして、妻側の主張を退けました。
このように、肉体関係があったと疑われるほどの行為を主張立証することは困難を伴います。興信所に依頼し、同室への入室、宿泊が確認できたとしても、同様です。
早い段階からご相談をいただき、相手方の反論を予測した適切な主張立証の準備をすることがきわめて重要です。