裁判例

Precedent

離婚問題
不貞行為の慰謝料請求①~肉体関係がなくとも「不貞」か~(東京地方裁判所平成17年11月15日判決)

事案の概要

夫は妻と婚姻し,長男をもうけた。

夫は、妻がアルバイト先のファミリーレストランで、大学生の男性Aと不貞行為しているのではないかと疑うようになった。

結局、男性Aは妻との結婚を望み、妻も男性Aと結婚を望んでいることが明らかになった。

また、妻は、家を出た後、男性Aの友人である男性B宅に宿泊するようになり、その期間、周辺を行き交う際に、妻と男性Bが仲良く体を密着させて手をつないでいたことが明らかとなった。

本件は、夫が甚大な精神的損害を被ったとして、男性A及び男性Bに対し、損害賠償を求めた事案である。

<争点>

慰謝料の支払義務が生じる「不貞」とは何か。

<判決の内容>

■男性Aについて
男性Aは,妻と肉体関係を結んだとまでは認められないものの,互いに結婚することを希望して交際したうえ,周囲の説得を排して,妻とともに,夫に対し,妻と結婚させてほしい旨懇願し続け,その結果,夫と妻とは別居し,まもなく夫と妻が離婚するに至ったものと認められるから,男性Aのこのような行為は,夫婦の婚姻生活を破壊したものとして違法の評価を免れず,不法行為を構成するものというべきである。

男性Aは,妻と肉体関係を結んだことが立証されてない以上,自身の行為について不法行為が成立する余地はない旨主張するけれども,婚姻関係にある配偶者と第三者との関わり合いが不法行為となるか否かは,一方配偶者の他方配偶者に対する守操請求権の保護というよりも,婚姻共同生活の平和の維持によってもたらされる配偶者の人格的利益を保護するという見地から検討されるべきであり,第三者が配偶者の相手配偶者との婚姻共同生活を破壊したと評価されれば違法たり得るのであって,第三者が相手配偶者と肉体関係を結んだことが違法性を認めるための絶対的要件とはいえないと解するのが相当であるから,男性Aの主張は採用することができない。

したがって、男性Aは、不法行為に基づき、夫の被った精神的損害を賠償すべき義務があるところ,慰謝料は男性Aにつき、70万円を下らないものというべきである。

■男性Bについて
男性Bは,妻と肉体関係を持つに至り,これを知った夫は,妻との婚姻関係は終わったものと認識し,夫婦は離婚に至ったものと認められるから,男性Bの上記行為が違法であることは明らかである。

男性Bは,妻との肉体関係はなかった旨主張し,証人及び男性B本人は,いずれもこれに沿う供述をするけれども,狭い一室に男女が数日間にわたり同宿し,戸外に出た際には体を密着させて手をつないで歩いていたこと等からして,男性Bと妻との間には肉体関係があったと認めるのが相当であり,証人及び男性B本人の各供述は採用することができない。

したがって、男性Bは、不法行為に基づき、夫の被った精神的損害を賠償すべき義務があるところ,慰謝料は男性Bにつき、70万円を下らないものというべきである。

まとめ

法律上、「不貞」とは、夫婦の離婚原因として規定されており民法770条1項1号)、不倫相手に対する慰謝料請求の場面で、「不貞」という法律上の規定があるわけではありません。

本件のように、不倫相手に対して慰謝料を求める民事裁判では、離婚原因としての「不貞」が認められるかという点は問題となりません。

むしろ、夫婦の婚姻生活を破壊する可能性のある加害行為があったかどうかという点が問題となります(民法709条)。

もちろん、夫婦間の離婚における「不貞」も、不倫相手に対する慰謝料請求における「不貞」も、男女の肉体関係をベースにして考えられます。

しかし、不倫相手に対する慰謝料請求の場面では、夫婦間の婚姻生活を破壊する不適切な行為があったか否かという視点から審理がなされるため、「不貞」の概念がやや広く考えられる傾向にあります。

本件で、夫は、妻と交友があった男性A及び男性Bのそれぞれに対し、慰謝料請求をしています。男性Aについて、夫は、妻と男性Aの肉体関係を立証することはできなかったものの、離婚をするよう懇願する男性Aの態度は、婚姻生活の破壊の原因となっているということが裁判所に認められました。

男性Bについても、夫は、男性Bと妻の肉体関係に関する立証を十分にできたわけではありませんが、裁判所は、“客観的に見て、妻と男性Bは肉体関係があっただろう”として、慰謝料請求を肯定しました。

このように、不倫相手に対する慰謝料請求の場面では、肉体関係の決定的な証拠がなくとも、婚姻生活の破壊の原因となる加害行為があれば、慰謝料請求が認められることが少なくありません。

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