裁判例

Precedent

離婚問題
婚姻費用⑥~夫婦関係が壊れている場合の生活費~(長崎家庭裁判所昭和54年6月4日審判)

事案の概要

夫婦は婚姻し、2人の子をもうけたが、夫の女性Aとの不貞を原因として不和となり、離婚した。離婚後、妻は自らの健康に自信が持てず、かつ子供の将来にも不安を抱き、夫と復縁したいと考え、夫と再婚した。

夫は、妻との再婚後も女性Aとの交際を必ずしも完全に断ち切っていなかったことから、次第に夫婦仲は険悪となり、夫が家族のもとを飛び出して、別居するに至った。

妻は、夫が家を出たのは、女性Aとの不貞関係の維持を目的としたからであるとして夫に対する憎悪を募らせており、他方、夫も、このような妻の態度に接して、もはや共同生活を維持する気持を全く失った。

妻は、長女(高等学校2年在学中)、長男(中学校2年在学中)と生活し、夫からの月額3万円の仕送りのほか、貯金をおろすなどしてその生計を支えている。

なお、妻は、飲食店にアルバイトで勤めて1ヶ月7万8000円の収入を得た。

夫は、工場に勤務し、1ヶ月平均11万円程度の給与、年に2回の30万円程度の賞与を得ている。

妻は、夫に対し、婚姻費用の分担を求める調停・審判を申し立てた。

<争点>

婚姻関係の破綻は、婚姻費用(生活費)の金額に影響を与えるか

<審判の内容>

民法760条にいう「婚姻から生ずる費用」とは、夫婦と未成熟子を中心とする婚姻家族が、その財産、収入、社会的地位に応じて通常の生活を保持するに要する費用をいい、その内容は、当該配偶者自身の生活費及び未成熟子の養育費を中心として構成される。

しかして、右のうち、未成熟子の養育費に関する部分は、これが親の未成熟子に対する扶養義務の履行としての実質を帯有するものであるから、夫婦が事実上破綻している場合であっても、破綻の原因、程度等夫婦にまつわる事情如何に関わりなく、現に未成熟子を養育している者から他方に対し、その分担を請求することができるものというべきであるが、一方、配偶者自身の生活費に関する部分については、破綻の原因が専ら一方に存する等特段の事情があってその請求が社会通念上妥当性を欠き信義則に反し、もしくは権利濫用にわたる場合には、民法1条の法意に照らし、その者は他方に対し、これが分担の請求をなし得ないものというべく、また、これが右信義則違反、権利濫用にわたると認められない場合であっても、婚姻費用分担義務が、夫婦の婚姻共同生活を維持する上で必要な費用を分担することを旨とする点に鑑み、その破綻の程度に応じてその分担義務が軽減(縮少)されることがあり得るものと解すべきである。

これを本件についてみるのに、夫婦の破綻原因が専ら妻の側にあるということはできず、妻の本件婚姻費用分担請求が権利濫用、信義則違反にあたるとはいい難いものであるが、夫婦は共同生活を回復維持する意図は全くなく、その婚姻共同生活は完全に破綻していると認められるから、本来夫が負担すべき分担額のうち、妻の生活費に関する部分の5割は、その限度で縮小されるものというべきである。

結局、夫の負担すべき婚姻費用分担額は、毎月4万9820円(賞与月は13万4134円)となる。

まとめ

婚姻関係の破綻は、婚姻費用(生活費)の金額に影響を与えます。

本件は、子の生活費と、配偶者の生活費に分けて、より実態に合った婚姻費用を定めようとしている点が参考となります。

離婚自体は、子にも多大なる影響を与えますが、夫婦の問題として据えられています。

しかし、婚姻費用は、夫婦の問題でありながら、子の問題でもあるという複雑なものです。

未成年の子の生活を保持しつつも、配偶者の生活費については、夫婦関係の破綻の程度を加味することが、適切な婚姻費用(生活費)を決めるために必要なことと考えるべきです。

当事務所は、婚姻関係破綻の経緯などの個別のご事情を可能な限り斟酌した解決を目指しています。

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