裁判例

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離婚問題
婚姻費用⑤~夫婦関係が壊れている場合の生活費~(東京高等裁判所昭和57年12月27日決定)

事案の概要

夫婦には2人の子をもうけたが、いずれの子も未成年のうちに夫婦は別居するに至り、いずれの子も妻と居住している。

夫婦の年収(手取額)は、妻が約200万円、夫が約500万円である。

妻は、家庭裁判所に対し、婚姻費用の分担を求める調停、審判を求めた。

その結果、婚姻費用を1ヶ月10万円とする審判を得たが、妻はこれを不服とし、1ヶ月21万円の婚姻費用の支払いを求めて、高等裁判所に不服を申し立てた。

<争点>

婚姻関係の破綻は、婚姻費用(生活費)の金額に影響を与えるか

<決定の内容>

夫婦が別居している場合において、配偶者のうち他方当事者に比べて経済的に優位に立つ一方の当事者は、他方当事者に対し、自己の社会的地位、収入に相応した生活を保障するいわゆる生活保持の義務を負うというべきであるから、婚姻費用分担金の額を決定するに当たっては、飲食費、住居費のほか、文化的支出を含む多数の指標を設定してした生活実態調査に基づき、性、年齢、作業度等の各別に定められた労働科学研究所の総合消費単位による扶養料算定方式(以下「労研方式」という。)により試算して得た額を参考にして決するのが最も適当であると考えられる。

しかしながら、婚姻費用の分担義務は、本来婚姻継続のための夫婦の協力扶助義務を基礎とするものであるから、婚姻が破綻状態となって夫婦の協力関係を欠くに至り、双方に本来あるべき円満な夫婦の協力関係の回復への意欲がみられなくなっている場合には、その分担額をある程度軽減することも許されるものと解するのが相当である。

そして、右の破綻状態に至ったことについていずれの配偶者に責任があるかの点は、離婚に至った場合において離婚に伴う慰藉料及び財産分与の額を定めるにつきしんしやくすれば足りると考えられる。

そこで、労研方式により分担額を求めることにすると、月額では23万6519円となる。

以上により算定された金額を参考にし、当事者の婚姻関係の状況のほか、妻の主張額(月額21万円)、夫が家庭裁判所調査官に対して月額15万円の分担をする意思がある旨述べていること、夫の給与手取額は年間約580万円であるが、毎月きまって支給される給与手取額は約33万円であって、その余は夏期及び年末に支給される賞与であると認められること。

など諸般の事情を考慮すると、夫が妻に対して負担すべき婚姻費用の分担額は、1ヶ月金15万円、7月と12月の分(※夫の賞与月)として1ヶ月35万円の割合による金額と定めるのが相当である。

まとめ

婚姻関係の破綻は、婚姻費用(生活費)の金額に影響を与えます。

今日では婚姻費用算定表により、夫婦双方の収入を照らし合わせて、簡便に婚姻費用の金額を算出することができます。

本件当時には、婚姻費用算定表は存在しませんでしたので、本件では、労研方式と呼ばれる、家計の消費を基準とした算定方式を用いています。

本件の算定方式を参考にすることは適切ではありませんが、婚姻関係の破綻が別居中の夫婦の婚姻費用(生活費)の金額に与える影響を考えるにあたって、参考とすべき考え方が示されています。

本件は、籍が入っているだけの形式的な夫婦関係を重視することなく、実質的な夫婦関係に踏み込み、婚姻費用(生活費)を定めた裁判例といえます。

当事務所も、算定表のみならず、婚姻関係破綻の経緯などの個別のご事情を可能な限り斟酌した解決を目指しています。

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