裁判例
Precedent
事案の概要
歯科医師である夫は、妻ら家族とともに居住していたが、東日本大震災による津波で同歯科医院が損壊し、原子力発電所で発生した事故により警戒区域に指定された。
夫婦が別居するまで、夫は、妻に対し、合計36万4000円の生活費を手渡しで支払っていたが、夫は、歯科医院の営業損害について損害賠償請求ができる地位にあったことから、妻は、婚姻費用の算定の基礎となる夫の収入に、歯科医院の営業損害に相当する賠償請求権を含め、月額81~106万円の支払いを求めた。
<争点>
第三者に対する損害賠償請求権を婚姻費用の算定にあたって考慮することはできるか。
<審判の内容>
夫が第三者に損害賠償請求できる地位にあるとしても、その具体的な支払額及び支払時期が確定していない以上、これを夫の基礎収入に加算することは困難であるといわざるを得ない。
妻は、生活費として実際に月額60万円から70万円を支出しているのであるから、これに相当する婚姻費用を負担すべきであると主張するが、その額は、別居以前に夫から受領していた生活費相当額を大きく上回っているうえ、各支出項目及び支出額をみると、妻の主張額にできる限り近づくように様々な支出を積み上げたのではないかとの疑念を払拭することができず、妻が提出する支出に関する資料によって継続的に月額60万ないし70万円の婚姻費用を受領しなければ、妻及び長男の生活が困窮し、その生計が維持できないと認めることは困難である。
以上より、夫は、妻に対し、婚姻費用の分担として、妻と離婚又は別居状態の解消に至るまで月額28万円を毎月末日限り妻に支払うべきである。
まとめ
本件は、婚姻費用の算定を夫婦間の問題と確認した上で、第三者に対する金銭的な請求を婚姻費用の算定にあたって考慮すべきではないと判断した事例です。
本件のように、「受け取れるはずのものがあるのだから」という理由だけでは、婚姻費用の増額は見込めません。
婚姻費用に限らず、広く法律上の各分野に目を向けると、具体的な金額が定まっていなくとも、すでに発生していると判断されてしまうものもあります。税金については良い例です。
そのため、配偶者のどのような収入が、法律上発生しているものと考えられるか、また、どのような収入が婚姻費用の算定の基礎となるのか、個別にご相談をいただくことをお勧めいたします。