裁判例
Precedent
事案の概要
妻が、夫に対し、民法770条1項1号(不貞行為)及び5号(婚姻関係を継続し難い重大な事由)の離婚原因があると主張し、離婚することを求めた。
妻が「婚姻を継続し難い重大な事由」として主張した夫側の事情としては、義母に対する暴行や、就労意欲がないこと、消費者金融からの借入れなどである。
<争点>
婚姻を継続し難い重大な事由があるか否か
<判決の内容>
裁判所は、不貞行為を認めるに足る客観的な証拠はなく、不貞行為の存在は認めなかった。
婚姻を継続し難い重大な事由について、不貞を疑われる夫の言動があった時点から、10年以上格別な問題もなく婚姻関係が継続しており、義母に対する暴行も特異な状況下で起きたことで、転職もいたずらに転々とした態様ではないし、就労意欲にも特段問題はなく、大きな収入減もなく配偶者に将来の不安を抱かせるようなものであったとは言えない。
キャッシングも浪費ではなく、すでに完済しており、1年8か月の別居も性格や価値観の相違が大きな要因と言うべきで、主として夫の責任とは言えない。
夫は婚姻関係の継続を強く望み、問題点の改善を誓っており、別居期間を過大に評価するのは相当ではなく、一般的、客観的に婚姻関係が深刻に破綻し、回復見込みがないと認めるのは困難であるとして、婚姻を継続し難い重大な事由は存在しないとの判断を下した。
まとめ
本件は、婚姻期間13年に比較して、別居期間が1年8ヶ月であることを考えると、別居期間は短いものといえます。
そのため、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとの判決を得るため、妻側は、夫の暴行の事実、就労意欲がないこと及び浪費行為など、多岐に渡る事情を主張したものと思われます。
裁判所は、不貞行為についても、それ自体はなかったとしながら、不貞を疑わせる夫の言動を「婚姻を継続し難い重大な事由」の判断の一要素としています。
一方で、義母への暴行については、その程度が比較的軽微であったことから、夫婦関係の破綻に至るほど重大な事由にはあたらないとの判断を下しています。
夫の生活面や金銭面の感覚に、妻が漫然と不満をかかえ続けていたことはあったとしても、妻が一方的に離婚を決意し、話合いの機会も持たないまま別居を開始したこと等、別居に至る経緯を考慮し、同居期間中に妻の夫に対する不満は表面化していなかったと判断されました。
本件において最も重視されたのは、女性問題や義母に対する暴力、転職を繰り返すこと及び消費者金融からの借入れなど、夫がそのすべての原因を作ったにもかかわらず、夫自身がこれらの問題を解消し、夫婦関係を改善するべく相応の努力を重ねていたということです。
このように、一度夫婦関係を損なうような行為をしたとしても、問題を解消すべく努力した経過が認められ、夫婦関係は修復可能として、「婚姻を継続し難い重大な事由」の存在が否定されることがあります。