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婚姻費用の審判①~夫からの搾取を考えた妻~

婚姻費用の審判①

(大阪家庭裁判所堺支部平成25年6月13日審判)

<事案の概要>

別居と同居を繰り返した夫婦で、妻のほうから、夫に対し、婚姻費用の支払いを求めた。

別居と再同居を繰り返していたことから、再同居の合意により夫婦関係を修復した時点で、夫の婚姻費用分担義務は月いくらの範囲で生じるかという点が争われた事案である。

再同居後の妻は、夫の預金から無断で出金したり、旅行を繰り返したりした事情があり、妻の金銭感覚が原因の一端となり、再別居に至ったとの経緯がある。

<争点>

再同居により夫婦関係を修復した場合の婚姻費用分担義務の範囲及び再別居にあたっての婚姻費用分担義務の範囲

<審判の内容>

裁判所は、再同居の合意により夫婦関係を修復した時点で、夫には婚姻費用分担義務が回復するが、再同居後の妻は、相手方の預金を1000万円近く出金したり、旅行を繰り返すなどしたうえ、夫の財産(申立人が管理)を枯渇させるなどしたため再別居に至ったもので、信義則上、本件婚姻関係に基づく費用分担義務は、通常の半額程度の月3万円とすることが相当であるとされた事例。

まとめ

婚姻費用は、婚姻期間中の相互の扶養義務に基づき、義務者(収入の多い方)から権利者(収入の低い方)に対して、支払われる生活費のことをいいます。

本件の審判でも述べられていますが、婚姻費用の分担額は、通常、収入に応じた統計的な生活費から算定することが一般的です。

本件では、標準算定表に基づく婚姻費用額が月6万円程度であったにもかかわらず、その半額の月3万円とする審判がなされたことが特徴的です。

本件では、夫婦双方の不貞行為や夫の暴力行為、夫の病気等、別居や再同居に至る原因となる事実が双方から複数主張されましたが、最終的に裁判所が認定した事実は、「再別居にいたる原因が妻の浪費行為にある」ということでした。そのため、再別居に至る原因を作出したのは妻であり、再別居後から夫に、通常の半額の婚姻費用分担義務が生じるとの判断がなされました。

婚姻費用分担額の定め方は、夫婦の収入に応じて、算定表から簡単に割り出されるものと思われがちですが、本件のように別居に至る経緯等の事情から婚姻費用分担額が制限されることがあります。

また、別居や再同居の時期、請求時期によって、婚姻費用分担義務の生じる時期が変化し、相手方に請求できる婚姻費用の総額が変わることもあります。

どのような事情により婚姻費用の分担額が変化するか、個別の事情とその立証方法を検討する必要があります。

なお、本件では、婚姻費用の分担額についてのみ審判がなされていますが、夫婦の年齢を考えると、妻は離婚に応じ、年金分割の請求をした方が得られる金銭は大きくなった可能性があります。

出来る限りの婚姻費用を受け取るために離婚に応じないという態度を固持することは、結果的に、権利者に不利な結論を招くこともありますので、注意が必要です。

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