裁判例
Precedent
事案の概要
女性は、内縁関係にあった男性との間に子をもうけ、男性はその子を認知する届出をした。
女性は、乾物屋などを営み、児童扶養手当の給付などを受けながら、男性の援助を受けることなく、子を一人で養育してきた。
しかし、成長した子に短大進学の希望が強く、経済的に余裕がないことから、男性に対し相応の援助を求めて、調停を申立てた。
男性は調停に一度も出頭せず、再三の出頭勧告や調査官の調査にも応じなかったため、調停は審判に移行した。
<争点>
夫の収入がわからない場合、どのように養育費を定めるか
<審判の内容>
女性は、自営業である。
女性の陳述等から、月々の具体的な生活に回る金額は月10万円程度と見られるので、女性の収入は10万円として算定する。
子は、短大に進学したが、女性による被扶養状態は続いているものである。
子の2年間の学費等の総計は月平均7万0925円であり、寮費は月2万0500円であるが、短大進学は子の自由意思に基づくものであること、子もアルバイトや奨学金などにより相当額の収入を得られると考えられることなどから、女性の負担額を算定するに当たっては、これらはすべて考慮しないこととする。
男性については、家族状況、職業、収入、支出などに関する資料が全く得られない。
そこで、家族については、住民票から6人家族同居と推定し、男性の子は全員成人しているので、父が扶養する必要はないものとする。
男性の職業は、女性の陳述によりダンフカー持込みの運転手と認める。
またその収入については、賃金センサス中の「営業用大型貨物自動車運転者(男)及び営業用普通・小型貨物自動車運転者(男)50~54歳」企業規模別及び都道府県別に拠ることとする。
そうすると男性の月額収入は、きまって支給する現金給与額の平均の36万5000円とするのが相当である。
持込み運転手であることを考慮して年間賞与などは含めないこととし、職業経費を30パーセント認め、結局男性の算定の基礎となる収入を、25万6000円とする。
その上で、子の養育費を算定するに、男性は女性に対し、子の養育費として、子が20歳に達する月まで毎月4万8000円を支払うべきである。
まとめ
養育費は、夫婦それぞれの収入を明らかにして、その金額が定められます。
しかし、本件では、養育費を支払うべき子の父親である男性が、協議や調停、審判に協力をしなかったため、男性の収入は明らかになりませんでした。
本件のような場合には、やむを得ず、賃金センサスという統計上のデータを参照し、年齢、学歴、職業により、収入を推定することになります。
相手方が働いているにもかかわらず、収入が明らかにならない場合、賃金センサスを用いた主張が可能であるかどうか、検討しましょう。