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離婚問題
養育費④~養育費と教育費~(東京高等裁判所平成22年7月30日決定)

事案の概要

夫婦の離婚後、妻は、子A及び子Bの生活基盤の安定を図るため、夫から財産分与として受け取った離婚給付金を元手に、マンションの一室を購入した。妻、子A及び子Bの1か月の生活費は、子Aの学費等を除いて30万円強であった。

子Aは、自身の大学進学に伴う学費の増大もあって、夫(子Aにとっては父)に対し、扶養料(養育費)の支払いを求めた。

<争点>

教育費は、扶養料(養育費)に含まれるか

<決定の内容>

一般に、成年に達した子は、その心身の状況に格別の問題がない限り、自助を旨として自活すべきものであり、また、成年に達した子に対する親の扶養義務は、生活扶助義務にとどまるものであって、生活扶助義務としてはもとより生活保持義務としても、親が成年に達した子が受ける大学教育のための費用を負担すべきであるとは直ちにはいいがたい。

もっとも、現在、男女を問わず、4年制大学への進学率が相当に高まっており、こうした現状の下においては、子が4年制大学に進学した上、勉学を優先し、その反面として学費や生活費が不足することを余儀なくされる場合に、学費や生活費の不足をどのように解消・軽減すべきかに関して、親子間で扶養義務の分担の割合、すなわち、扶養の程度又は方法を協議するに当たっては、上記のような不足が生じた経緯、不足する額、奨学金の種類、額及び受領方法、子のアルバイトによる収入の有無及び金額、子が大学教育を受けるについての子自身の意向及び親の意向、親の資力、さらに、本件のように親が離婚していた場合には親自身の再婚の有無、その家族の状況その他諸般の事情を考慮すべきである。

子Aの1年間当たりの学費関係費用は、次の各金員の合計約65万円である(前記認定事実、一件記録)。

(ア) 学費     53万5800円
(イ) 交通費    8万2320円
(ウ) テキスト代  3万円

一方、子Aが受領している奨学金は、1か月当たり4万5000円(年額54万円)であり、年額11万円(1か月当たり9166円(1円未満切捨て))が不足する。

他方、学費関係費用を除く生活費等の不足分については、子Aが妻及び子Bと同居しているため、子A単独の分を算出することは困難であるが、便宜、従前の養育費(1か月当たり11万5000円)を基準とし、養育費算定に当たり学校教育費として考慮されたものと認められる学校教育費(15歳以上の子につき年額33万3844円)を控除すれば、上記不足分は、次の計算式により5万7179円である。

(計算式)
11万5000円(月額養育費)-33万3844円(年額学校教育費)÷12か月
-3万円(子Aの月額アルバイト収入)=5万7179円(1円未満切捨て)

よって、当裁判所は、夫に対し、子Aの扶養料として、子Aが原審裁判所に本件審判の申立てをして扶養料の支払を求める意思を明確にした日の属する月から1か月当たり3万円を子Aに支払うよう命ずることとする。

まとめ

本件では、大学の学費に主眼があります。

もっとも、幼稚園、小学校、中学校、高校といずれの教育費も、離婚までの婚姻費用もしくは離婚後の養育費に含まれるか問題になり得ます。

婚姻費用や養育費は、いわゆる簡易算定表に基づき決まることが多いのですが、この簡易算定表には、公立の学校にかかる費用が含まれると考えられています。

そのため、私立の幼稚園、小学校、中学校、高校に進学しているケースでは、公立の学校にかかる教育費との差額分の負担が問題になります。

また、本件のような、大学生のケースでは、成人に達するため学費を子どもが自己負担すべきでないかという点が問題となります。

ちなみに、統計データによると、私立と公立で、中学校では年間約80万円、高校では年間約45万円の差額が生じているとされています。

婚姻費用や養育費については、簡易算定表に基づいて、収入のある方がない方へ支払うと単純にお考えの方も多くいらっしゃいます。

簡易査定表は、早期に公平な金額を定められるので、皆様の利益に適う解決を図ることができ、とても有用です。

しかし、これだけでは解決しない問題もあります。

当事務所は、簡易査定表の根底にある考え方に遡って、個別のご事情に即した解決法をご提案できるよう努めてまいります。

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