裁判例

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離婚問題
養育費③~大学生は子供なのか~(さいたま家庭裁判所越谷支部平成22年3月19日審判)

事案の概要

20年ほど連れ添った夫婦は、平成18年頃裁判により離婚した。

夫婦には未成年の子がいたため、子の親権者は妻と定められ、夫は妻に対して、子の養育費として20歳まで月11万5000円を支払うこととされた。

離婚後、夫は養育費の支払いを続けた。

子は、平成20年に大学に進学し、翌年成人した。

子は、アルバイトで月額2~3万円の給与を得るほか、親権者であった妻に生活費、教育費などを負担してもらっている。

子は、夫婦間の離婚訴訟においては、子が大学に入学することは確定していないとの理由で、養育費の支払は20歳までと定められたものであるから、実際に大学に入学した以上、大学卒業までの扶養料の負担を求めると主張した。

<争点>

養育費の支払いは20歳までか、大学卒業までか

<審判の内容>

一般に、未成年の子に対する親の扶養義務は、いわゆる生活保持義務(自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務)であるのに対し、子が成人した後は、親族間の扶養としての生活扶助義務(自分の生活を犠牲にしない限度で、被扶養者の最低限の生活扶助を行う義務)となるといわれている。

そして、通常、親が支出する子の大学教育のための費用は、本来、生活保持義務の範囲を超えているし、むしろ生計の資本の贈与としての性質を有すると考えられる。

しかしながら、成年に達した子であっても、親の意向や経済的援助を前提に4年制大学に進学したようなケースで、学業を続けるため生活時間を優先的に勉学に充てることは必要であり、その結果、学費、生活費に不足が生じた場合、親にその全部又は一部の負担をさせることが相当であるときは、生活扶助義務として、親に対する扶養料の請求を認めることはありうる。

これを本件についてみるに、子は、夫と別居してから、夫と全く没交渉であり、夫は子が大学に進学したことも知らずに、ただ離婚判決で命じられたとおりの養育費を妻に支払い続けてきた。

他方、離婚判決で子の親権者と指定された妻は、夫から支払われた1835万円余の財産分与金を元手にマンションを購入し、自らのパート収入と夫から支払われる養育費で、大学に進学した子及び私立高校生である子2の学費や生活費を賄いながら生活している。

夫は、年収が1500万円程度あるが、不動産は所有しておらず、再婚して再婚相手との間に子が産まれているほか、まだ(次女または長男の)養育費月額11万5000円の支払が残っており、今後、新しい家族と居住するための不動産を購入する可能性もあり、それほど余裕がある状態でもない。

以上のとおり、本件では、上記離婚判決以降、子と夫は、法的にも実際にも完全に分かれて生活してきており、子が夫の意向や経済的支援の約束のもとに大学に進学したということはない。

離婚判決で子の親権者とされた妻は、夫から1835万円余の財産分与金を受領したほか、子の養育費として毎月11万5000円を受領してきており、子を大学に進学させるために必要な資力は有しているものと評価できる。

妻がマンションを購入したことは、子の責任ではないにしても、そのために生じる妻ら家族の生活費ないし子の学費不足を、全く別家計の夫に転嫁することは相当でない。

夫が、離婚判決で命じられたとおりに成人に達するまで月額11万5000円の養育費を支払い続けてきたことにより、夫の子に対する生活保持義務としての扶養義務はすでに果たされている。

子が大学における学業を継続することが経済的に困難となってきているとしても、その対応は、妻及び成人に達した子においてなすべきであって、新しい家族とともに再出発を始めている夫に、生活扶助義務としての扶養料の支払を命じることは相当でない。

まとめ

養育費の支払期間を子が20歳になるまでとするか大学卒業時点までとするかという問題は、頻繁に生じる問題です。

子がまだ幼いうちは、大学に進学することすら想定できませんし、高校生であっても、希望する大学に入学するために浪人をすることもありますし、必ずしも22歳で卒業すると決め付けることはできません。そのため、大学卒業時までとの合意をすべきかどうかは、個別のケースに応じてその判断をしなければなりません。

本件では、すでに夫婦は別生計を営んでおり、親権者である妻に十分な経済力があることが重視され、養育費の支払いは20歳までとされました。

本件は、養育費を決する時点での夫婦の経済力が適切に評価された裁判例といえます。

本件のように、養育費を決する時点での夫婦の経済力や、子の年齢、就学状況により、養育費の支払いを大学卒業時点とするかは微妙な判断が求められます。

早期にご相談をいただければ、個別に対応策を協議させていただきます。

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