裁判例
Precedent
養育費②
(熊本家庭裁判所平成26年1月24日審判)
<事案の概要>
離婚した夫婦間で、夫が支払うべき、二人の子の養育費が調停により決定した。調停により決定した養育費は、一人当たり月額20万円であった。
その後、夫は、上記調停成立時には、夫が生活保持義務を負う対象として二人の子がいただけであるが、現在では、再婚し妻がいる他、養育すべき子が合計五人いることを理由に、前妻に対し、養育費の減額を申立てた。
<争点>
養育費の減額は認められるか。
<審判の内容>
養育費減額申立ては、夫と妻との間で養育費を一人当たり月額20万円とする調停が成立していることを前提としているから、減額が認められるためには、まず「事情に変更を生じた」(民法八八〇条)といえる場合でなければならない。
この点、同調停成立時には、夫が生活保持義務を負う対象としてAとBの二人がいただけであるが、現在では、同義務の対象として妻Dがいる他、養育すべき子が合計五人いるのであるから、「事情に変更を生じた」というべきである。
もっとも、民法八八〇条は「事情に変更を生じた」場合には直ちに協議内容を変更しなければならないとするものではなく、変更を「することができる。」としているのであるから、変更することが相当かどうかを検討する。
夫は、調停成立後約一年二か月で再婚及び養子縁組をし、約三年後に子をもうけた。予期しない収入の減少というのであればともかく、自らこのような状況を作り出すことにより、いったん成立した調停の効力を覆すのを認めることには慎重であるべきといえる。
さらに、高額所得者の場合、収入が貯蓄や資産形成に回る部分が大きくなり、その全てが生活に消費されるわけではないことを考慮して、基礎収入割合を〇・二七と相当低くしたのであるから、夫が調停での合意内容を維持するべく、貯蓄や資産形成に回る部分を少なくして養育費に充てることは可能なはずである。
これだけ高額であれば、夫が調停での合意内容を維持するべく、夫の生活費を少なくして養育費に充てることは可能なはずである。
したがって、本件では「事情に変更を生じた」(民法八八〇条)とはいえるが、調停で合意された一人当たり二〇万円という養育費は減額しないこととする。
まとめ
法律上、一度決定した養育費の金額を変更するためには、「事情の変更が生じた」ことが必要です。
「事情の変更が生じた」といえるためには、収入の減少に関する事情があることが重要であり、本件のように、扶養家族が増えたことのみをもって、前妻との間で決定した養育費の金額を減額することはできません。
もっとも、扶養家族の増加により、貯蓄や資産形成に充てられる収入が減り、前妻との間の子に対する養育費を減額せざるを得ない状況に陥ることがあります。
その場合、養育費の減額を主張するために、収入や支出の内訳を示し、協議に臨むことができますので、ご安心ください。
なお、仮に、前妻が再婚した場合、前妻の新たな夫が子との間で養子縁組を結んだときには、養育費が減額、免除されることがあります。