裁判例
Precedent
事案の概要
夫婦は平成19年に婚姻し、同じ年に子をもうけた。
子の出生後、妻は育児休暇を取得し、子の世話を続けた。
一方、夫も、ミルクを飲ませたり、おむつ交換、寝かしつけ、入浴、幼稚園の送迎をしたりと、子の監護に積極的に関わっていた。
その後夫婦は別居に至り、夫は、離婚等を求める調停を申立てた。
この離婚調停において、子の監護を原則として夫婦が一週間毎に交替して行うこと(交代監護)の取決めがされた。交替監護が開始した後、夫婦は、子の運動会等の行事に二人で参加するなど、互いに子の監護に努めた。家庭裁判所における監護状況の調査においても、夫婦は、甲乙つけ難いほど、ほぼ十分な監護環境が提供されていることが確認された。
離婚調停において、夫は、離婚の条件として、親権と監護権とを分属させ、親権を夫に帰属させることを希望するが、十分な面会交流が確保されるのであれば、親権についても妻に譲歩するとの意向を伝えた。
そして、離婚調停の期日において、①子の監護者を当分の間妻と定めること、②面会交流を毎月3回実施すること、③交替監護を取りやめることを内容とする暫定的な合意に至った。
しかし、妻は、その後、東日本大震災の影響から東京での生活に不安を感じ、夫に相談なく福岡に転居し、毎月3回の夫と子の面会交流は事実上不可能となった。
その後、妻は夫を拒絶するような言動を続け、子は、夫を強く拒絶するようになったため、夫は親権者を自身と定めるよう求めた。
<争点>
監護者(離婚まで子を養育する親)と親権者(離婚後に子を養育する親)は一致させるべきか
<審判の内容>
当裁判所としては、子の福祉の観点から、親権者を妻から夫に変更し、監護権者として妻を指定すべきであると考えるところ、その理由は次のとおりである。
双方の親と愛着を形成することが子の健全な発達にとって重要であり、非監護親(本件では夫をいう。)との面会交流は、非監護親との別離を余儀なくされた子が非監護親との関係を形成する重要な機会であるから、監護親(本件では妻をいう。)はできるだけ子と非監護親との面会交流に応じなければならならず、面会交流を拒否・制限しうるのは、面会交流の実施自体が子の福祉を害するといえる「面会交流を禁止、制限すべき特段の事情」がある場合に限られると解されている。
そして、本件において、かかる特段の事情が認められないことは明らかであるところ、夫と子との関係が良好であったことに照らせば、妻の態度変化を促し、子の夫に対する拒否的な感情を取り除き、円滑な面会交流の再開にこぎ着けることが子の福祉にかなうというべきである。
また、暫定合意及び前件調停の内容及びそれに至る経緯に照らせば、夫が、妻を監護者ないし親権者と指定することに同意したのは、妻が面会交流の確保を約束したことが主たる理由であったと認められる。
妻の言動により子が面会交流に応じない事態となっており、妻を親権者として指定した前提が損なわれていると評価せざるを得ない。
したがって、本件においては、親権と監護権とを分属させ、当事者双方が子の養育のために協力すべき枠組みを設定することにより、妻の態度変化を促すとともに、子を葛藤状態から解放する必要があること、夫には、親権者として子の監護養育の一端を担う十分な実績と能力があること、子の監護を妻から夫に移すことを躊躇すべき事情が認められることからすると、親権と監護権とを分属させることが子の福祉にかなうといえる特段の事情が認められ、親権と監護権とを分属させる積極的な意義があると評価できる。
以上のとおり、妻が親権者と指定された前提が崩れていること、親権者変更以外に現状を改善する手段が見当たらないこと、親権と監護権とを分属させる積極的な意義が認められることを考慮すると、監護者を妻に指定することを前提として、子の福祉の観点から、親権者を妻から夫に変更する必要が認められる。
まとめ
裁判所は、「子の利益」を考慮し、監護者ないし親権者を定めます。
そして、「子の利益」に適うとされる親は、監護者(離婚まで子を養育する親)を定めるにあたっても、親権者(離婚後に子を養育する親)を定めるにあたっても、一致することが通常です。
そのため、ほとんどの場合、監護者と親権者は一致します。
しかし、本件では、面会交流の条件を一方的に反故したり、子に対し夫を必要以上に拒絶する態度を示したりする妻の態度から、監護者と親権者が別々に定められました。
ごく稀に、監護者や親権者について、本件のような例外的な判断が下ることがありますので、夫婦のいずれも子の養育に対し積極的に関与し続けることが重要です。
また、本件のように、場合によっては離婚調停の中で、暫定的な合意を結ぶこともできますので、当事務所では、終局的な解決に向けて、継続的に尽力いたします。