裁判例
Precedent
事案の概要
夫婦は、婚姻後、長男と二男をもうけ、夫の実家を増築した二世帯住宅で生活をしていた。
妻は、夫の親族と折り合いがうまくいかず、夫に何ら相談することなく、長男と二男を連れて、県外の実家に転居した。
小学生の長男は転校し、二男も妻の実家近くの幼稚園に通うようになった。
夫は、長男と二男を川越の自宅に連れ帰ることを計画して両親や親戚に協力を依頼し、車3台で妻の実家に赴き、妻やその父の抵抗を排除して、未成年者らを無理矢理車に乗せて連れ去った。
妻は、子の監護者を妻と仮に定め、長男と二男を引き渡すことを命ずる保全処分と同時に、親権者(監護者)の指定を裁判所に申立てた。
<争点>
子の連れ去りがあった場合の親権者(監護者)の指定
<審判の内容>
本件は、夫婦が離婚して親権者が指定されるか、妻と夫との別居が解消され、共同監護ができるようになるまでの間の未成年者らの監護をすべき者を定めるものである。
この場合、裁判所は、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
監護の継続性という視点に立った場合、未成年者らが川越で出生し、平成22年5月まで、夫の親族が回りにいる中で成長してきたものであり、現時点においても、川越に生活をしていることを考慮しなければならない。
しかし、主たる監護者である妻の下で継続的に養育され、県外での生活も平成22年5月から平成23年8月まで続き、安定していたことに照らすと、父である夫よりも母である妻の監護の継続性を優先させることが子の福祉に適うものとするのが相当である。
特に、現在の状態は、夫の違法な未成年者らの連れ去りによって作出されたものであり、当裁判所による審判前の保全処分が発令されたことに照らしても、未成年者が現在川越で生活していることを重視することはできない。
以上検討したところを総合勘案すると、当裁判所としては、未成年者らの監護者は、妻と定めるのが相当と判断する。
よって、未成年者らの監護者を妻と指定し、夫に対し、未成年者らを妻に引き渡すことを命ずることとし、主文のとおり審判する。
まとめ
裁判所が、親権者(監護者)を決めるにあたって、用いる判断基準は、「子の利益」です。「子の利益」を判断するにあたってのポイントは、子の意思の他に、成育環境の継続性や夫婦それぞれの経済状態、居住環境、心身の状態などさまざまな要素が挙げられます。
本件は、監護の継続性、言い換えると「成育環境の継続性」が問題となった事例といえます。
たしかに、成育環境の継続した期間だけみると、夫の親族との生活が長く、妻の実家での生活は短いものです。
さらに、夫の連れ去り行為により、長男と二男は夫の親族との生活に復帰しています。しかし、本件で裁判所は、夫の連れ去りによる成育環境の変化は、子の福祉に適うものではなく、妻の実家での成育環境も安定していたことを理由に、親権者(監護者)を妻とすることが相当だと判断しました。
本件のように、お子さんの生活環境を親の意思だけに基づいて変えたとしても、それが既成事実のように捉えられることはありません。
お子さんの成育環境の継続性を判断するにあたっては、個別の事情を考慮しなければなりませんので、親権者(監護者)を決めるにあたっての判断ポイントにつき、お早めにご相談いただくことをお勧めいたします。