裁判例
Precedent
事案の概要
夫婦は、昭和37年に婚姻し、約50年に及ぶ婚姻期間を過ごした。
夫は、婚姻当時から、貿易会社に勤務しており、その後、平成7年に退職するまで勤務を継続した。
妻は、婚姻当初から主として専業主婦として生活していたが、平成2年頃からは非常勤教員として私立学校に勤務するようになり、さらには、平成11年からは専任教員として勤務するようになった。
夫婦は調停により離婚の合意に達した。
その後、妻は、夫が昭和59年ころには約1900万円近い負債を負っていたこと、退職金について妻に金額及び入金の事実を知らせていないこと、平成6年には妻が夫に200万円を貸し付け、夫は妻に対し今後キャッシングをしないとの誓約書を差し入れたがこれを遵守しなかったこと、平成7年に夫が入院した際には妻が入院費111万7998円を立て替えて支払ったこと及び妻が自宅建物の住宅ローンを返済していること等を主張して、妻のみ加入する私学共済年金制度において、夫との関係で、年金分割の按分割合を認めるべきでない旨主張した。
<争点>
年金分割の按分割合を0~0.5のいずれとすべきか
<審判の内容>
年金分割は、被用者年金が夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的機能を有する制度であるから、対象期間中の保険料納付に対する寄与の程度は、特別の事情がない限り、互いに同等とみて、年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当であるところ、その趣旨は、夫婦の一方が被扶養配偶者である場合についての厚生年金保険法七八条の一三(いわゆる三号分割)に現れているのであって、そうでない場合であっても、基本的には変わるものではないと解すべきである。
そして、上記特別の事情については、上記年金分割の制度趣旨に照らせば、保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合に限られるというべきである。
そこで、前記の保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情があるか否かについて見るに、本件においては、夫が1000万円単位の負債を負ったり、妻から借入れをしたり、入院により経費がかかったりしており、妻が家計のやりくりに苦労したであろうことが認められること、また、平成7年に夫が貿易会社を退職した後は、不定額の生活費を負担していたものの、それのみで家計を維持するには不足しており、平成2年から家事を負担しながら非常勤教員として勤務するようになった妻が、同11年からは専任教員として勤務するようになり、同年以降は妻の収入を主として家計が維持されていたことの各事実は認められるものの、夫は結婚当時から平成7年まで婚姻中の33年間、一部上場企業である貿易会社に勤続して、相当額の収入を得ており、昭和59年当時の借入金も大部分は退職金で返済したこと、そして、妻は、昭和37年に婚姻した後、婚姻期間約50年間のうち、平成2年に非常勤教員として勤務するまでの約30年近くは概ね専業主婦として生活していたから、その間の家族の生計は、夫の給与収入により維持されていたと認められること、退職金額については、妻も夫も共に他方に対して明らかにしていないこと、前件離婚調停では、妻自身の判断で、自宅建物の夫持分を、財産分与を原因として取得して離婚後は妻の負担で住宅ローン残額を返済する内容に合意しており、他方で、同調停では、双方名義の預金等のその余の財産については分与の対象としていないこと、その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば、妻の給与から支払われていた私学共済年金の保険料納付に対する夫婦の寄与を同等の50%とみることは相当でないとは認められるが、婚姻生活における夫の妻に対する寄与をゼロとして夫について年金分割を認めないこととするまでの特段の事情があるとはいえず、その寄与割合については、夫婦の婚姻期間50年と、そのうち、主として夫の収入で家計が維持されていた30年との比例的な関係を対応させて、夫の年金分割の按分割合を30%と認めるのが相当であるというべきである。
zよって、夫婦間の別紙記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.3と定めるのが相当であるから、主文のとおり審判する。
まとめ
年金分割は、ほとんどの場合その按分割合を0.5とする判断が下されます。
これは、「婚姻期間中に夫婦のどちらか一方が収めた保険料は、他方の配偶者の助けがあったからこそ収めることができたものである」という発想が一般的に認められるからです。
その意味では、本件は例外的な事案であるといえます。
0.5以外の按分割合を求める場合、本件のように、一方配偶者が借金をしていたり、家計を担うのも家事の分担も一方配偶者が担っていたりと、ごく例外的な事情を逐一主張立証する必要があります。
年金分割の按分割合は、決して機械的に定められるわけではありませんので、適宜その例外的な事情をご相談いただくことをお勧めいたします。