裁判例
Precedent
事案の概要
夫婦は、昭和58年に婚姻し、3人の子をもうけた。
夫は信用金庫に勤務し、妻は、婚姻後、週2日間のパートに出るようになった。
妻は、婚姻当初から、些細なことで怒り妻を無視する態度を繰り返す夫の態度に堪りかね、子らを巻き込んだ夫とのいさかいをきっかけに離婚することを真剣に考えるようになった。
妻は、離婚調停を経て、離婚訴訟を提起し、夫が得るであろう将来の退職金を含む財産分与などを求めた。
他方、夫は、婚姻関係の崩壊は、妻の両親が夫婦に干渉したこと及びそれに妻が同調したことによると考え、妻及び妻の両親に対して慰謝料の支払いを求める訴えを提起した。
子は、夫がこれまで世話になってきた妻の両親を訴えたことを知って憤り、夫に対して自宅を出るように迫り、警察官を呼ぶなどした上で夫に退去を迫った。
結局、夫は、自宅を出て、夫婦は別居するに至った。
<争点>
将来の退職金は財産分与の対象となるか
<審判の内容>
まず、財産分与の基準となる時期について検討するに,本件経緯及び本件に顕れた一切の事情に照らせば,夫が自宅を出て別居するに至った日の直前の月末を基準とするのが相当である。
次に、財産分与の可能な夫の管理する財産の有無、分与の方法、割合について検討するに、夫は信用金庫に30年以上勤務していることが認められ、夫が同金庫を退職した場合は退職金の支給を受ける蓋然性が高いということができる。
したがって、夫の受給する退職金は、財産分与の対象となる夫婦の共同財産に当たると解される。
そして、本件に顕れた一切の事情を総合するならば、妻及び夫は、婚姻後別居に至るまでの間、不仲になった時期があったものの、それぞれの役割を果たし、夫婦共同財産の維持をしてきたということができる。
したがって、本件においては、別居時に自己都合退職した場合の退職金額に夫婦の同居期間を乗じ、それを別居時までの在職期間で除し、更に50%の割合を乗じるのが相当と解される。
以上によるならば、夫は、妻に対し、信用金庫から退職金の支給を受けたときは、そのうちの399万4379円を分与すべきである。
まとめ
財産分与は、婚姻中に夫婦が協力し合って築いた財産を分けることをいいますので、一見、将来支給される退職金は、財産分与の対象にならないのではないかと疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、近年では、退職金が、賃金の後払いとしての性格を有することを理由に、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産の一部であると認めた裁判例が増えています。
将来受け取れる退職金の金額と、その金額に占める、夫婦が協力し合って築いたといえる部分を算出することになりますので、本件のように、将来の退職金の計算方法はとても複雑になります。
本件の計算方法は絶対のものではありません。
大きくは、①本件のように離婚時点で退職したとすれば支給されるであろう退職金の金額を基に計算する方法と、②将来の退職金の全額を基に離婚時点に計算する方法があります。
勤続年数や会社の定めによって、どのような計算方法によれば良いか異なってきます。お早めにご相談いただくようお願いいたします。