裁判例
Precedent
事案の概要
X(加盟店)は、労働者派遣事業を展開していたY(本部)とフランチャイズ契約を締結し、2期(6年間)の契約期間満了後、脱退した。
Xは、Yフランチャイズからの脱退と同時に、A社に吸収合併され、A社はXが行っていた労働者派遣事業を継続した。
XとYとのフランチャイズ契約には、契約終了後2年間、XがYと類似の事業を行うことを禁止する競業避止義務を定めた条項があった。
そこで、Yは、Xの事業を承継していたAに対して損害賠償請求をした。
<争点>
フランチャイズ契約終了後の競業避止義務条項の有効性
<判決の内容>
「フランチャイズ契約における競業避止規定については、①競業避止規定による制限の範囲(禁止の対象となる期間、地域・場所、営業の種類)が制限目的との関係で合理的といえるか、②競業避止規定の実効性を担保するための手段の有無・態様(違約金・損害賠償の予定、フランチャイザーの先買権など)、③競業に至った背景(契約の終了の原因に対する帰責の有無)等を総合的に考慮し、競業禁止により保護されるフランチャイザーの利益が、競業禁止によって被る旧フランチャイジーの不利益との対比において、社会通念上是認しがたい場合には、民法90条により無効と解すべきである。」
Yには、①Xが労働者派遣事業を営んでいた地区でYの商圏が成立していたとはいえないこと、②YがXに提供した営業ノウハウは、遅くとも契約終了時点では秘密性及び有用性を欠き、保護に値する程度がごく僅かであったこと、③他方、本件競業避止規定によりXには廃業以外の選択肢がなく、しかも、本件契約終了当時のYの態度に照らし、その時点で、廃業(Yへの営業の承継)に伴う対価を得られる見込みがなかったこと、④契約終了に至った原因について、フランチャイジーの全国展開計画の頓挫、フランチャイジーにとって有益なソフト開発の放棄など、Y側の事情が多分に寄与していることからすると、本件競業避止規定の制限内容は、競業禁止により保護されるフランチャイザーの利益が、競業禁止によって被る旧フランチャイジーお不利益との対比において、社会通念上是認し難い程度に達しているというべきであり、公序良俗に違反して無効である。
まとめ
フランチャイズ契約において、契約終了後の競業避止義務を定める条項が見受けられます。
もっとも、旧フランチャイジーが、フランチャイズ契約終了後、フランチャイジーが営む事業と類似する事業を行うことを禁止する競業避止義務条項が常に有効であるとは限りません。
なぜならば、競業避止義務は、旧フランチャイジーの職業選択や営業の自由を大幅に制限するものであり、それゆえ、公序良俗に反して無効とされる場合があるからです。
競業避止義務条項の有効性は、競業を禁止する①場所的範囲、②時間的範囲、③業務範囲の3点により、どれほど旧フランチャイジーの営業の自由が制限されているかが重要になります(①から③のいずれも禁止する範囲が大きいほど、旧フランチャイジーの営業の自由が制限されるため、競業避止義務条項は無効と判断されやすくなります)。
また、本事例で検討されているように、これらの3要素に加え、フランチャイザーの経営ノウハウがどれだけ保護に値するものであったか、フランチャイズ契約が終了した原因がフランチャイザーとフランチャイジーのどちら側の事情であったかといった要素も、競業避止義務条項の有効性の判断を左右します。