裁判例
Precedent
事案の概要
X(加盟店)はA(本部)との間でコンビニのフランチャイズ契約(以下、「本件契約」という。)を締結する際、Aに対し、「儲かるのか」と質問したところ、「最初の2,3年は大変だ」という回答をされた。
本件契約締結から約4年後、店舗の経営不振を主たる原因として、XはAに対し本件契約の解約を申し入れ、合意解約に至った。
XはAの情報提供義務違反を理由に、Aを承継したYに対して不法行為に基づく損害賠償を請求した。
<判決の概要>
(1)AがXに対して説明した売上予測(以下、「本件売上予測」という。)はあくまで予測に過ぎず、結果には責任を負わないとのYの主張に対して、そのような無責任なデータであるならば、加盟店候補者に対してそのように説明すべきであり、「儲かるのか」との質問に対しては、「それは分からない。」、「売上予測等はあくまで予測であって、実際と異なることもある。」と明確に回答すべきであって、「最初の2,3年は大変だ」などという曖昧な回答(2,3年後には利益が期待できるかのような印象を与える。)をすべきではない。
Aは売上予測について、情報提供義務の前提として、客観的で合理的な方法に則り、周到な調査を行った上で、適正な数値を求める義務があったものというべきである。
(2)確度の高い売上予測をする上で当然考慮されるべき要素を考慮せず、慎重な検討もしないまま、加盟店候補者が契約を締結するか否かを判断する上で極めて重要な判断材料である売上予測をしたものと推認されるから,Aには、本件売上予測が適正でなかったことについて過失があったものというべきである。
(3)XがAに対して交付した預託金、保健所届出費用及び備品消耗品費用等にかかる金額は、AのXに対する情報提供義務違行為を内容とする不法行為による損害として、損害賠償請求権が認められる。
まとめ
フランチャイズ契約の締結過程において、フランチャイザー(本部)はフランチャイジー(加盟店)になろうとする者に対して自社のフランチャイズ・システムに関する情報提供義務を負います。
売上予測について、売上予測はあくまで将来の予測に過ぎませんし、店舗の業績は営業努力や運営方法に大きく左右されます。
したがって、実際の売上高が売上予測を下回ったからといって、直ちに情報提供義務違反が認められるわけでは有りません。
すなわち、フランチャイザーがフランチャイジーになろうとする者に対して売上予測に関する情報を提供する場合には、その情報が客観性を欠き、フランチャイジーになろうとする者の判断を誤らせるおそれの大きいものであるときに情報提供義務違反が認められることになります。
もっとも、加盟店開発というフランチャイザーの営業活動において、フランチャイジーになろうとする者に自社のフランチャイズ・システムを説明する際に一定程度の誇張表現を入れてしまうことは取引社会の駆け引きとして当然ともいえます。
そのため、このようなセールストークも、「通常の取引社会の駆け引きとして許容される範囲内」であれば許容されます(東京地判H1.11.6など)。
本判決では、「儲かるのか」とのフランチャイジーの質問に対して、「最初の2、3年は大変だ」などと答えたフランチャイザーの担当者のセールストークについて、「2.3年後には利益が期待できるかのような印象を与える」ものであると認定し、「『それは分からない。』、『売上予測等はあくまで予測であって、実際と異なることもある。』と明確に回答すべきであっ」たと判示しました。
とはいえ、売上予測についての情報提供義務の違反と認められるか否かは、亜セールストークの文言のみならず、様々な事情を考慮することになります。
本判決でも、上記のセールストークの文言のみを捉えて情報提供義務違反を認めているわけではなく、フランチャイザーには、売上予測に関する情報を提供する前提として、客観的で合理的な方法に則り、周到な調査を行った上で、適正な数値を求める義務があり、その義務に基づき、確度の高い売上予測をするべきであったとも判示するなど、多岐にわたる事情を考慮しています。
このように、フランチャイズ契約における加盟店開発に際しては、様々なセールストークを用いる場面もあるところ、その発言の内容によっては、情報提供義務違反を構成してしまうことがあります。義務違反となるか否かは専門的な法律知識に基づく判断が求められることになりますので、どのような説明であれば義務違反とならないかという判断にお悩みのフランチャイザーの方や、契約締結過程で受けた説明が情報提供義務の違反ではないかとお考えのフランチャイジーの方、これからフランチャイジーになることをお考えの方は、専門家に相談してみることをお勧めします。