交通事故による改造車の車両損害とは?弁護士が近時の裁判例から解説

執筆者 中越 琢人 弁護士

所属 第二東京弁護士会

弁護士は、スーパーマンではありませんが、他人が抱える紛争の解決のため、お手伝いをすることができます。私は、一件一件丁寧で誠実な対応を心がけ、問題解決のためにできることはやり尽くすという姿勢でおります。皆様の不安が解消され、平穏な生活を送ることができるようになるまで、紛争解決のお手伝いを致します。

「改造車両で走行中に交通事故に遭ってしまった」
「改造車両が交通事故によって損傷した場合、改造部分も賠償してもらえる?」

ご自身の改造車を走行中に交通事故に遭われた方の中には、このような悩みや疑問をお持ちの方もいるでしょう。

趣味のためやドレスアップ、業務上の目的等、様々な理由で自動車を改造するユーザーがいらっしゃいます。

車を運転していて改造車を目にすることは珍しくないため、改造車が事故にあうことも特別なケースとはいえないでしょう。

以下でご説明しますとおり、事故によって車両が損傷した場合、修理費若しくは事故車両の時価額(正確には買替差額)が損害となり、相手に請求することができます。

しかし、①改造部分についても損害として認定されるのか、②損害として認定されるとしても、改造費用の内どの程度の金額が損害として認定されるのかについては統一的な考え方が定着しているとは言えません。

そのため、実務上では損害の認定や算定方法について争いとなる場合が少なくありません。

この記事では、改造車の修理費用及び車両価格について、上記のとおり、実務上統一的な考えた方が定着していないことを前提として、近時の裁判例の傾向をご説明します。

1.交通事故による車両損害(標準車について)

交通事故による自動車の毀損の場合、修理が可能な場合には、修理費用が損害になるとされます。

では、どのような場合に修理が可能であるといえるのでしょうか。

この点、最高裁判例(最高裁昭和49年4月15日第二小法廷判決)は、以下の3つの場合を、修理不能と判断しています。

①物理的に修理が不能な場合(物理的全損)
②経済的に修理が不能な場合(経済的全損)
③車体の本質的構造部分に重大な損傷があることが客観的に明らかである場合

したがって、上記①~③の場合でなければ、修理が可能であるといえます。

注意が必要なのは、修理費用のうち、損害として認定されるのは、必要かつ相当な範囲に限られるという点です。

交通事故の前から損傷していた箇所を併せて修理した場合(便乗修理)や高額な部品に交換した、修理が必要でない箇所を修理する等した場合(過剰修理)の修理費用は、必要かつ相当な修理費用とは言えません。

そのため、これらに要した費用は交通事故による損害として認定されません。

あくまでも、必要かつ相当な範囲である修理費用が損害として認定されることになります。

次に、①から③に該当する場合(修理が不能な場合)の損害についてご説明します。

①は字義通りで、②の「経済的全損」とは、修理費用が事故車両の事故当時の車両価格(時価額)に買替諸費用を加えた金額を超える場合をいいます(東京地裁平成14年9月9日判決)。

事故車両の事故当時の車両価格(時価額)は、原則として当該事故車両と同一の車種・年式・方・同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価格によって定めるべきとされています(最高裁昭和49年4月15日第二小法廷判決)。

買替諸費用とは、事故車両と同種同等の車両を購入して使用できる状態にするために要する諸費用をいいます。

自動車重量税、検査・登録法定費用、車庫証明法定費用等が挙げられます。

そして、上記①から③の場合には、事故車両の事故当時の車両価格(時価額)から事故車両の売却代金(スクラップ代金等)を差し引いた金額が損害とされています。

これを買替差額といいます。

以上を整理しますと、㋐上記①~③の場合以外の場合、すなわち、修理が可能な場合の車両損害は、必要かつ相当な修理費であり、㋑上記①~③の場合の車両損害は、買替差額となります。

2.改造車の修理費用(必要かつ相当な修理費用)

近時の裁判例の傾向としては、改造に関する修理費用について、一定程度は減額するものの、事故による損害として認定するという傾向にあるように考えられます。

例えば、改造を施してからの経過日時を考慮して改造に関する修理費用を減額しつつ損害として認定した裁判例があります。

また、デコレーションに過ぎないことを理由にデコレーション部分の5割を損害として認定した裁判例もあります。

減額の程度・理由は個別の事案によって異なります。

一方で、改造に関する修理費用については全額損害として認定しなかった裁判例もあります。

改造内容に照らし、事故にあった場合に殊更に損害を拡大させるような改造や道路運送車両法の保安基準に反する様な違法な改造については、改造に関する修理費用が損害として認定しない裁判例が多いです。

3.改造車の車両価格

改造車について、先ほど述べた①~③の場合に該当し、修理が不能の場合について、事故当時の車両価格が損害とされるため、改造車の車両価格をどのようにして算定するかが問題となります。

近時の裁判例の傾向としては、標準車(ベース車)の車両価格にその改造費用のうち一定程度減額した金額を加えた合計額を車両価格(損害)として認定するものが多いと言えます。

どの程度減額されるかについては、定額法若しくは定率法による減価償却を採用する裁判例が多く見受けられます。

まとめ

本記事では、交通事故によって改造車両が損傷を受けた場合において、損害の範囲がどこまで含まれるのかについて近時の裁判例を踏まえて解説しました。

改造車が事故にあった場合の当該改造車の損害額、すなわち、改造車の修理費用・車両価格について、近時の裁判例は改造部分に関する修理費・改造部分を考慮した車両価格を損害額として認定する傾向にあります。

他方で、道路運送車両法の保安基準に反する改造やことさらに損害額を拡大させるような改造箇所に関する修理費、車両の効用を高めるものではなくかえってその効用を低下させる場合には、そもそも改造箇所が損害として考慮されることはないと言えます。

また、上記のような改造でなくても、改造に要した費用の全額が損害として認定されるわけではなく、改造にかかった費用から一定程度減額した金額が損害として認定されるにすぎない(ことが多い)点も留意しておく必要があります。

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