外傷性くも膜下出血と交通事故で診断されたらどうすべき?後遺障害や賠償請求について弁護士が解説

執筆者 大塚 慎也 弁護士

所属 埼玉弁護士会

弁護士相談は敷居が高い、そういう風に思われている方も多いかと思います。
しかし、相談を躊躇されて皆様の不安を解消できないことは私にとっては残念でなりません。
私は、柔和に皆様との会話を重ね、解決への道筋を示させていただきます。
是非とも皆様の不安を解消するお手伝いをさせてください。

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「外傷性くも膜下出血と診断されたが概要を知りたい」
「症状によってはどのような後遺障害等級に認定される可能性があるだろうか」
「外傷性くも膜下出血の賠償額がどうなるか知りたい」

交通事故で強く頭を打ち付けるなど、外部から脳に損傷を受けると「外傷性くも膜下出血」と診断されることがあります。

外傷性くも膜下出血は、脳損傷を伴うため、重度の後遺障害が残ることも多く、被害者本人だけでなく、ご家族の方にも大きな負担のかかる傷病です。

ここでは、外傷性くも膜下出血とはなにか、外傷性くも膜下出血に伴い認定される可能性のある後遺障害等級、それぞれの賠償額などついてご説明します。

この記事を読んで、外傷性くも膜下出血による後遺障害やその後の法的対応についてのポイントを押さえ、適切な対応を進めるための参考となれば幸いです。

1.交通事故を原因とする外傷性くも膜下出血の概要

(1)外傷性くも膜下出血とは

脳は3層の膜によって守られており、外側から、「硬膜」・「くも膜」・「軟膜」という3層構造になっています。

このうち、くも膜と軟膜の間にある「くも膜下腔」という隙間において、動脈が破れ、血液が急激に「くも膜下腔」に流入した状態のことを「くも膜下出血」といいます。

くも膜下出血には、器質性(脳動脈瘤の破裂などが原因)と外傷性(頭を強く打ち付けたことなどが原因)があり、外部からの衝撃により発生したくも膜下出血は、「外傷性くも膜下出血」といい、交通事故が原因の場合はこちらに分類されます。

(2)主な症状

外傷性くも膜下出血の主な症状は、損傷部位や血種の大きさによって異なりますが、事故直後から、「バットやハンマーで殴られたような」「今までで最悪の頭痛」等の表現をするほど激しい頭痛が現れることが多いです。

頭痛以外にも、嘔吐、意識障害、けいれん、頚部痛などの症状を伴うことがあります。

(3)治療

まず、交通事故に遭って頭を強く打ち付ける等、なんらかの衝撃を頭に受けた場合には、上記症状がみられなかったとしても、必ず早急に、「脳外科」「脳神経外科」「救急科」といった病院を受診しましょう。

その際、医者には交通事故で頭部を打ったことは必ず伝えなければなりません。

また、診察が終わったら頭部のCT検査、脳内のMRI検査など、発症した原因を探るために脳の検査をしてもらうようにしましょう。

2.外傷性くも膜下出血の後遺障害と認定可能性のある後遺障害等級

外傷性くも膜下出血を発症すると、脳が損傷している可能性があります。

脳は体の様々な機能を司っていますので、その脳が損傷すると、後遺症が残る可能性が非常に高く、また、現在の医学では損傷した脳を再生させることは困難です。

外傷性くも膜下出血により、引き起こされる後遺障害は以下のようになります。

① 遷延性意識障害

② 麻痺

③ 高次脳機能障害

④ 視力障害

⑤ 外傷性てんかん

(1)遷延性(せんえんせい)意識障害

遷延性意識障害とは、いわゆる植物状態と呼ばれる状態を指します。

遷延性意識障害は、普通の生活を送っていた人が脳損傷を受けた後、以下の6項目を満たす状態に陥り、種々の治療を施してもほとんど改善がみられないまま、3か月以上継続した場合をいいます。

遷延性意識障害

  1. 自力移動が不可能
  2. 自力で摂取が不可能
  3. 屎尿(しにょう)失禁状態にある
  4. 眼球はかろうじて物を負うこともあるが、認識できない
  5. 声を出しても、意味のある発言は全く不可能
  6. 目を開け、手を握れなどの簡単な命令にはかろうじて応じることもあるが、それ以上の意思疎通は不可能

遷延性意識障害では、被害者本人だけでなく、ご家族も介護に従事する必要があるため、後遺障害等級表の中でも別表第1の要介護等級が認定されます。

(要介護後遺障害1級の場合)

自賠責基準 弁護士基準
1650万円

※被扶養者がいるときは1850万円

2800万円

(2)麻痺

一般的には、出血がくも膜下腔という場所で起きるため、麻痺は生じにくいです。

しかし、外傷で脳内出血も合併するような場合にはくも膜下出血の場合でも麻痺が生じることがあります。

麻痺の生じる部位は損傷や出血の部位によって様々です。

麻痺の後遺障害等級は、基本的に神経症状に関するものが認定対象となります。

別表第1 自賠責基準 弁護士基準
 

要介護後遺障害1級

1650万円  

2800万円

1850万円(被扶養者)
 

要介護後遺障害2級

 

1203万円  

2370万円

1373万円(被扶養者)

 

別表第2 自賠責基準 弁護士基準
第3級 861万円(829万円) 1990万円
1005万円(被扶養者)
第5級 618万円(599万円) 1400万円
第7級 419万円(409万円) 1000万円
第9級 249万円(245万円) 690万円
第12級 94万円(93万円) 290万円
第14級 32万円 110万円

()の数字は2020年3月31日までに発生した事故に適用

(3)高次脳機能障害

高次脳機能障害は、脳に損傷が生じたために記憶や感情の抑制などの機能に障害が生じた状態をいいます。

具体的には以下のような症状です。

高次脳機能障害の主な症状

  • 注意障害:ミスが多い、気が散って落ち着かない、作業を長く続けられない
  • 遂行機能障害:計画を立てて物事を実行できない、臨機応変に対応できない、指示がないと行動できない
  • 記憶障害:食べたものや置き場所を忘れる、何度も同じことをいう、新しいことを覚えられない
  • 社会的行動障害:すぐに怒る、暴力をふるう、こだわりが強くなる、意欲が低下する

高次脳機能障害の症状は重度のものから軽度のものまで様々なので、後遺障害等級も障害の重さにより幅広く認められています。

別表第2 自賠責基準 弁護士基準
第1級 1150万円(1100万) 2800万円
1350万円(被扶養者)
第2級 998万円(958万円) 2370万円
1168万円(被扶養者)
第3級 861万円(829万円) 1990万円
1005万円(被扶養者)
第5級 618万円(599万円) 1400万円
第7級 419万円(409万円) 1000万円
第9級 249万円(245万円) 690万円

()の数字は2020年3月31日までに発生した事故に適用

(4)視力障害

外傷性くも膜下出血は、脳損傷や頭部外傷を伴うため、眼球や視神経を損傷し、目に後遺障害が残ることがあります。

例えば、くも膜下出血でみられる目の後遺症として、テルソン症候群があります。

テルソン症候群はくも膜下出血に伴う眼内出血のことで、特に硝子体と呼ばれる部位に出血することが知られています。

硝子体出血とは、眼球の中心部を満たしているゲル状の液体の中に出血した状態です。

通常、このゲルは透明なので、光がゲルを通過して網膜に届きます。

しかし、硝子体の中に血液があると、網膜に光が届かなくなり、視力低下を引き起こす可能性があります。

後遺障害等級は、眼球そのものの外傷か視神経の障害か、さらには脳の損傷によるものかにより症状は異なりますが、失明の有無や視力低下のレベルによって後遺障害等級が分かれます。

別表第2 自賠責基準 弁護士基準
第1級 1150万円(1100万) 2800万円
1350万円(被扶養者)
第2級 998万円(958万円) 2370万円
1168万円(被扶養者)
第3級 861万円(829万円) 1990万円
1005万円(被扶養者)
第4級 737万円(712万円) 1670万円
第5級 618万円(599万円) 1400万円
第6級 512万円(498万円) 1180万円
第7級 419万円(409万円) 1000万円
第8級 331万円(324万円) 830万円
第9級 249万円(245万円) 690万円
第10級 190万円(187万円) 550万円
第13級 57万円 180万円

()の数字は2020年3月31日までに発生した事故に適用

(5)外傷性てんかん

てんかんとは、大脳の神経細胞(ニューロン)が異常な興奮状態(突発的発射)になることで、慢性的に意識の消失やけいれんなどの症状が繰り返し起こることをいいます。

てんかんのうち、交通事故などの外部的な衝撃を原因として生じたてんかんが外傷性てんかんです。

外傷性てんかんの診断基準(walkerの診断基準)は以下のとおりです。

・てんかんの発作である

・受傷以前には発作を起こしたことがない

・他に発作を起こす可能性のある疾患をもたない

・外傷の程度が脳損傷を起こすほどに強かった

・最初のてんかん発作は受傷以来あまり時間が経過していない時期に起こった(外傷後まもなく発症した)

・発作の型、EEG(脳波所見)が脳損傷部位と一致している

外傷性てんかんは、以下の表のいずれかに認定される可能性があります。

別表第2 自賠責基準 弁護士基準
第5級2号 618万円(599万円) 1400万円
第7級4号 419万円(409万円) 1000万円
第9級10号 249万円(245万円) 690万円
第12級13号 94万円(93万円) 290万円

3.外傷性くも膜下出血で適切な賠償を受けるためのポイント

外傷性くも膜下出血と診断された場合に、適切な賠償を受けるためのポイントについてご説明します。

(1)適切な治療・検査を受ける

先に述べたように、交通事故で頭部を地面に打ち付けるなど、頭になんらかの衝撃を受けた場合は、必ず、早急に、脳外科、脳神経外科、救急科といった病院を受診し、検査を受けるようにしましょう。

その際、必ず「交通事故で頭部を打った」という点は伝えなければなりません。

検査は、CT検査やMRI検査があります。

頭部のCT検査では、くも膜下出血の発症の有無、発症していればその程度、また併発している症状の確認を行います。

脳内のMRI検査にて、脳挫傷や脳動脈瘤・脳血管奇形の有無の確認をします。

また、時間をおいて、造影剤という特定の組織を強調して撮影するための医薬品を投与して、脳動脈瘤の有無を確認します。

そもそも、くも膜下出血は器質性か外傷性科、また他の症状の有無によって、治療方法が異なります。

このように、診断・検査を経て、交通事故による外傷の有無・程度を特定し、適切な治療を受けるようにしましょう。

(2)適切な後遺障害等級の認定を受ける

先に述べたように、外傷性くも膜下出血は脳損傷を伴うため、重度の後遺障害が残ることも多く、幅広い等級の認定可能性があります。

もっとも、後遺障害等級の認定は、資料に基づく書面審査のため、提出書類によっては思うような認定結果が得られないケースが多々あります。

後遺障害申請の手続には、加害者の任意保険会社が主導する事前認定と、被害者自身が手続を行う被害者請求の2種類の方法があります。

事前認定では、被害者は後遺障害診断書を医師に作成してもらって加害者の任意保険会社に提出するだけでよく、後の書類は加害者の任意保険会社が収集し、提出してくれます。しかし、その他の書類の内容を確認することはできませんし、十分に資料が集められているかを確認することもできません。

一方、被害者請求では、すべての書類を被害者が集めることになりますので、内容の確認漏れなどはなくなります。

しかし、そのための負担は大きいものとなってしまいますし、内容の確認のための知識がなければ結局十分に書類を集められないのと変わりありません。

このような場合、交通事故の案件を多く取り扱う弁護士に依頼すれば、手続を代行してもらうことができますし、適切な記載がされた後遺障害診断書を書いてもらえるよう医師に促してもらうことなどもできます。

弁護士に手続を依頼することにより、本来認定されるはずの後遺障害等級が認定されないリスクを抑えることができるでしょう。

(3)交通事故対応に習熟した弁護士に相談する

弁護士に依頼した場合、相手方とのやり取りは全て弁護士が行うことになります。

くも膜下出血は、脳の損傷を伴うため、幅広い後遺障害等級の認定可能性があるのにとどまらず、重度の脳損傷の場合、後遺障害等級の中で最も重い要介護1級等に該当する可能性もあります。

このような場合、ご家族による介助等が必須となり、それだけで負担が大きいにもかかわらず、慣れない保険会社との交渉手続に対応していくのは、精神的にも肉体的にもかなり負担が大きいです。

しかし、弁護士に依頼すれば、それらの負担を抱える必要はありません。

依頼した後は治療に専念できるので、事故対応のストレスが軽減され時間の節約にもつながるでしょう。

まとめ

本記事では、交通事故の外傷性くも膜下出血の症状と後遺障害等級認定の知識についてご紹介しました。

大切なご家族が外傷性くも膜下出血と診断されてしまうと、ご家族が被害者に代わって示談交渉をする必要が生じるなど、重要な役割を果たすことになります。

くも膜下出血と診断された場合、回復後も後遺障害が残ることが多く、自賠責保険の基準や任意保険の基準による賠償では被害者救済は不十分と言わざるを得ません。

また、交通事故の対応が初めての方は、今後の手続に不安も生じてしまうでしょう。

専門家である弁護士に相談することで、くも膜下出血と診断されて生じたご不安の解決や慰謝料額の相談ができます。

くも膜下出血と診断され、今後の進め方に懸念点などがある方は、一度弁護士に相談することをおすすめします。

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執筆者 大塚 慎也 弁護士

所属 埼玉弁護士会

弁護士相談は敷居が高い、そういう風に思われている方も多いかと思います。
しかし、相談を躊躇されて皆様の不安を解消できないことは私にとっては残念でなりません。
私は、柔和に皆様との会話を重ね、解決への道筋を示させていただきます。
是非とも皆様の不安を解消するお手伝いをさせてください。