交通事故の示談金は計算できるのか?示談金のよくある疑問を説明

執筆者 実成 圭司 弁護士

所属 第二東京弁護士会

皆さまのご相談内容を丁寧にお聞きすることが、より的確な法的サポートにつながります。会話を重ねながら、問題解決に向けて前進しましょう。

「相手方の保険会社から低額の示談金を提示された」
「示談金としてどんな費用を請求できるのかわからない」

いざ示談金を請求しようとした際、このようなお悩みを抱えていらっしゃいませんか。

示談金を請求する際、相手方から言われるがままに対応してしまうと相場よりも低い金額の示談金となってしまう恐れがあります。

今回は交通事故の示談金の計算方法と、増額するためにどうすればよいかをご説明します。

1.示談金は計算できるのか

交通事故の示談金は計算することができます。

示談金は、治療費や通院交通費といった実際にかかった費用、休業損害、慰謝料などの損害項目を合算し、そこから過失割合が生じる場合はその割合を控除することによって計算することができます。

示談金は事故態様によって損害項目が異なることから、態様別に計算方法がかわります。

2.事故態様別の示談金の計算方法

示談金を計算する際、物損事故や人身事故といった事故の態様によって請求できる費用の項目が異なります。

本項では、四つの事例に分けて、それぞれどのような費用について請求できるのかご説明します。

(1)物損事故の場合

損害の内容が物の損害であった場合は、主に以下のような損害項目を相手方に請求することができます。

  • 車両修理費
  • 買替差額
  • レッカー代
  • 代車代
  • 評価損

原則として、物損に関する慰謝料は認められません。

車両修理費は、交通事故により当該車両の修理が必要になった場合、相当な範囲で認められるものです。

買替差額とは、当該車両が事故で壊れる直前の価値から、当該車両の事故で壊れた後の価値(処分価値)を控除した差額をいいます。

レッカー代とは、事故車両が損傷のために自走できない状態になった場合に、事故現場から修理工場その他保管場所まで移動させるためにかかった費用です。

代車代は、事故により使用できなくなった車両に代替して、その修理期間または買替期間にレンタカー等の代車利用の必要性に応じて代車を使用した場合に、その必要性に応じて相当な範囲で認められるものをいいます。

評価損とは、事故当時の車両価格と修理後の車両価格との差額のことです。

(2)人身事故の場合

損害の内容が怪我であった場合の主な損害の種類および計算方法をご紹介します。

#1:損害の種類

人身事故では、主に以下のような損害項目について請求することができます。

  • 治療関係費
  • 通院交通費
  • 休業損害
  • 傷害慰謝料(入通院慰謝料)

治療関係費とは、症状が固定するまでの、病院の治療費、整骨院の施術費、薬局の調剤費等のことをいいます。

通院交通費とは、通院や入退院のための交通費をいいます。

休業損害とは、事故の被害者が、事故により受けた怪我が原因で仕事を休んだり早退したことによって生じた減収のことをいいます。

実際に減収した分に限らず、有給休暇を利用して通院した場合などはその有休分も休業損害に含まれます。

傷害慰謝料とは、事故で怪我をしたことによって精神的苦痛を受けたことに対する賠償です。被害者がどの程度精神的苦痛を受けたかは客観的に把握することができません。

そのためどの程度通院や入院をしたかが判断の指標となっています。

#2:計算方法

項目ごとに損害額をどのように計算するかについての計算基準は3つあります。

①自賠責基準

自賠責基準とは、自賠責保険から支払われる損害賠償金の計算基準のことをいいます。

自賠責基準は、交通事故の被害者に対して迅速な補償を行うという自賠責保険の目的を果たすためのものです。

したがって、計算方法は1日いくらなどシンプルな内容で、金額も過支給とならない範囲に留められています。

そのため、他の2つの基準と比べると低い金額が算出されることが多いです。

また、支払限度額として1事故につき120万円という上限があるのも特色です。

  • 自賠責基準による休業損害

原則として1日6,100円

  • 自賠責基準による傷害慰謝料

原則として、1日4,300円

傷害慰謝料の算定期間としては、通院期間と通院日数の2倍とのうち少ない方を基準と  して保険金を算出します。

②任意保険基準

任意保険基準とは、加害者側の任意保険会社が慰謝料を算出する際に利用する計算基準のことをいいます。

この基準は非公開で、各任意保険会社によって異なります。

しかし、計算結果は自賠責基準とほぼ同等の金額になると言われています。

③弁護士基準

3つの基準の中で、最も高額な金額を算定する計算基準が、弁護士基準です。

弁護士基準とは、過去の判例をもとに定められており、弁護士が裁判上相手方に対して損害賠償請求をする際に用いる基準のことをいいます。

弁護士に依頼することによって適用することができます。

  • 弁護士基準による休業損害
    弁護士基準による休業損害は、「基礎収入(日額)×休業日数」で計算します。

給与所得者の場合、基礎収入は、事故前3か月間の支給金額合計を90日又は実稼働日数で割って、一日当たりの金額を算出したものになります。

家事従事者の場合、基礎収入額を1日約1万円(賃金センサスの女性・学歴計・全年齢平均賃金)として計算します。

いわゆる兼業主婦(主夫)であっても、実際の給与額が平均賃金よりも低い場合は、平均賃金を基礎として、休業損害の請求が可能です。

自営業の方の場合は、事故前年の所得と事故当年の所得との差額を計算し、それを休業損害と捉える方法や、事故前年の収入を基礎として、間接的に収入の減少額を把握する方法があります。

なお、休業中の固定費(家賃、従業員給料など)の支出は、事業の維持・存続のために必要でやむを得ないものについては、損害と認められます。

会社役員の方の場合、原則役員報酬は会社の経営者として受領する会社の利益の配当となり、休業が続いても減収は生じないため休業損害にはあたりません。

しかし、例外的に労働がないと支払われない部分があるなどの事情がある場合は休業損害を請求できることがあります。

休業損害は就業形態や日額をいくらとするのか、休業日数は何日なのかの2つの側面で相手方保険会社と見解が割れることがあります。

疎明や計算が複雑になる方は、弁護士にご相談されることをお勧めします。

  • 弁護士基準による傷害慰謝料

弁護士基準の傷害慰謝料は、原則として入通院期間を計算の基礎として上記の表を使用して算出します。

表は、原則別表Ⅰを使用しますが、むちうち等で他覚的な所見がない場合は別表Ⅱを用います。

たとえば、骨折などの重症を負い1か月間通院した場合の慰謝料額は、28万円となります。

原則は通院期間に応じて計算しますが、通院頻度が低く期間が長期にわたる場合は、例外的に実通院日数を3倍や3.5倍した日数で計算する場合もあります。

(3)後遺障害等級が認められた場合

後遺障害等級が認められた場合の主な損害の種類および計算方法をご紹介します。

#1:損害の種類

後遺障害等級が認められた場合には、人身傷害の場合の損害項目に加え、主に以下のような損害項目について請求することができます。

  • 後遺障害慰謝料
  • 逸失利益

後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残存したことによる被害者の精神的損害を賠償するものです。

ここにいう逸失利益(以下、単に「逸失利益」といいます。)とは、被害者に後遺障害が残り、労働能力が減少するために、将来発生するであろう収入の減少のことをいいます。

#2:計算方法

項目ごとに損害額をどのように計算するかについての計算基準は自賠責基準と弁護士基準の2つがあります。

後遺障害等級 自賠責基準 弁護士基準
1級 1150万円
(1100万円)
2800万円
2級 998万円
(958万円)
2370万円
3級 861万円
(829万円)
1990万円
4級 737万円
(712万円)
1670万円
5級 618万円
(599万円)
1400万円
6級 512万円
(498万円)
1180万円
7級 419万円
(409万円)
1000万円
8級 331万円
(324万円)
830万円
9級 249万円
(245万円)
690万円
10級 190万円
(187万円)
550万円
11級 136万円
(135万円)
420万円
12級 94万(93万) 290万円
13級 57万円
(57万円)
180万円
14級 32万円
(32万円)
110万円

※2020年3月31日までに発生した事故は()内

①自賠責基準

自賠責基準は後遺障害慰謝料と逸失利益とを併せて支払限度額が決まっています(自動車損害賠償保障法施行令別表第1及び第2)。

  • 自賠責基準による後遺障害慰謝料

上記の表のとおり、後遺障害慰謝料については、該当する等級ごとに金額が決められています。

  • 自賠責基準による逸失利益

逸失利益については、以下の手順で計算することになります。

基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

基礎収入額は、事故に遇った被害者の事故直前の年収によって異なります。

また、その方の経済状況によっては賃金センサスに基づいて計算することもあります。

労働能力喪失率は、自賠責保険で以下の表のような数値が定められています。

後遺障害等級 労働能力喪失表
1級 100%
2級 100%
3級 100%
4級 92%
5級 79%
6級 67%
7級 56%
8級 45%
9級 35%
10級 27%
11級 20%
12級 14%
13級 9%
14級 5%

労働能力喪失期間は、症状固定日から原則として67歳までの年数です。

たとえば、症状固定時の年齢が50歳で、年収500万円の男性サラリーマンが傷害を負い、後遺症により労働能力が35%低下した場合の計算式は次のとおりです。

500万×0.35×13.1661(50歳から67歳までの17年間のライプニッツ係数)=2304万0675円

②弁護士基準

後遺障害等級が認められた場合の損害額についても、自賠責基準よりも弁護士基準で計算する方が、高額な金額になります。

  • 弁護士基準による後遺障害慰謝料

弁護士基準においても、上記の表のとおり、該当する等級ごとに金額が決められています。

  • 弁護士基準による逸失利益

逸失利益については、自賠責基準と同様の計算方法で算定されます。

(4)死亡事故の場合

死亡事故の場合の主な損害の種類および計算方法をご紹介します。

#1:損害の種類

被害者が死亡した場合には、人身傷害等の場合の損害項目に加え、主に以下のような損害項目について請求することができます。

  • 葬儀関係費用
  • 死亡慰謝料
  • 死亡逸失利益

葬儀関係費用とは、葬祭費、供養料、墓碑建立費、仏壇費、仏具購入費をいいます。

香典返しは、被害者の損害として認められません。

死亡慰謝料とは、被害者本人の慰謝料に近親者固有の慰謝料を加えたものをいいます。

死亡逸失利益とは、被害者が死亡したことにより、将来発生する収入の減少のことをいいます。

年金受給者の場合は、将来の年金の賠償が認められる場合があります。

#2:計算方法

項目ごとに損害額をどのように計算するかについての計算基準は2つあります。

①自賠責基準

自賠責基準によると、葬儀費は100万円です。

  • 自賠責基準による死亡慰謝料
    死亡慰謝料は、以下のように法定されています。
慰謝料請求権者が1名 550万円
慰謝料請求権者が2名 650万円
慰謝料請求権者が3名以上 750万円
被害者に被扶養者がいる場合 さらに200万円

この場合の慰謝料請求権者とは、被害者の父母(養父母を含む)、配偶者及び子(養子、認知した子及び胎児を含む)のことをいいます。

  • 自賠責基準による死亡逸失利益

死亡逸失利益の計算方法は、被害者本人の生活費控除を行う以外は、労働能力喪失率100%の場合の後遺障害による逸失利益と変わるところはありません。

すなわち、以下のような計算式になります。

基礎収入額×(1-生活費控除率)×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

生活費控除率は、一家の支柱の場合で被扶養者が一人の場合は40%、二人以上の場合は30%、女性の場合は30%、男性の場合は50%です。

たとえば、年収500万円の30歳の女性が交通事故により亡くなった場合の計算式は次のとおりです。

500万×(1-0.3)×22.1672(30歳から67歳までの37年間のライプニッツ係数)=7758万5200円

②弁護士基準

弁護士基準によると、葬儀関係費用は、原則として150万円です。

ただし、これを下回る場合は、実際に支出した額になります。

  • 弁護士基準による死亡慰謝料

弁護士基準による死亡慰謝料は、以下のとおりです。

一家の支柱である場合 2800万円
母親、配偶者の場合 2500万円
その他 2000-2500万円

ここにいう一家の支柱とは、被害者の世帯が主として被害者の収入によって生計を維持している場合をいいます。

  • 弁護士基準による死亡逸失利益

死亡逸失利益については、自賠責基準と同様の計算方法で算定されます。

3.示談金についてよくある疑問

実際に示談金を請求するにあたって、何か注意するべき点はあるのでしょうか。

示談金についてよくある疑問を例に、請求する際の注意点や対処方法についてご説明します。

(1)被害者自身で交渉できるのか

弁護士に依頼すると高額な費用がかかると考え、自分自身で示談金の交渉をしようとする方もいらっしゃいます。

交渉すること自体は可能ですが、相手方の保険会社から相場よりも低額の示談金を提示されるケースが多くあります。

前述したように、示談金を計算する際の基準には三つあり、任意保険基準では保険会社が少しでも支払う金額を抑えるために低額に設定されることが多いのです。

弁護士に依頼すると、受取れる示談金の金額が増える可能性が高まります。

被害者の方の中には、弁護士費用が高額になってしまうのではないかと心配される方もいらっしゃるかもしれません。

交通事故に関する相談の場合、加入する保険によっては弁護士特約を設けています。

ご本人やご家族が加入している任意保険に弁護士費用特約があれば、多くの場合、自己負担なく弁護士に依頼することができます。、

弁護士費用特約の有無を確認することをおすすめします。

(2)弁護士に依頼するメリットは何か

弁護士に依頼することで、弁護士基準で示談金を請求することができます。

弁護士基準は、慰謝料等を計算する際の算定基準の中では最も高額になりますが、弁護士に依頼しなければこの基準で算出して請求することができません。

また、弁護士に依頼することで示談金の交渉を一任することができます。

(3)過失割合に納得がいかない場合はどうするべきか

過失割合に納得がいかない場合は、相手方の保険会社が提示する過失割合のまま示談を進めないようにしましょう。

相手方の保険会社は、支払う示談金の額を少しでも抑えるために、加害者に有利になるような過失割合を提示してくることがあります。

そのため、提示されたままの金額に応じてしまうと、本来受け取れるはずの金額よりも低額の示談金しか受け取れなくなってしまうのです。

もし過失割合に納得がいかない場合は保険会社と交渉しましょう。

過失割合の交渉をする時も、弁護士に依頼することで交渉をスムーズに進めることができます。

また、依頼する際には、ドライブレコーダーなど客観的に事故の状況を把握できるような証拠も用意しておきましょう。

まとめ

今回は、交通事故に遭った際の示談金の計算方法や、請求時の注意点についてご説明しました。

示談交渉を弁護士に依頼すると、弁護士基準を用いることができる等のメリットがあります。

もし相手方の保険会社から低額の示談金を提示された場合や、過失割合に納得が行かない場合は一人で悩まずに弁護士に相談しましょう。

弁護士法人みずきでは、交通事故に関する相談を無料で承っております。お気軽にご相談ください。

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執筆者 実成 圭司 弁護士

所属 第二東京弁護士会

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