損益相殺とはどんなもの?交通事故の賠償金から控除される項目について解説

執筆者 大塚 慎也 弁護士

所属 埼玉弁護士会

弁護士相談は敷居が高い、そういう風に思われている方も多いかと思います。
しかし、相談を躊躇されて皆様の不安を解消できないことは私にとっては残念でなりません。
私は、柔和に皆様との会話を重ね、解決への道筋を示させていただきます。
是非とも皆様の不安を解消するお手伝いをさせてください。

「交通事故の賠償金は損益相殺されると聞いたけどこれは何?」
「賠償金から控除されてしまう項目にはどんなものがあるか知りたい」

交通事故の被害者がその事故を原因として何らかの利益を受けた場合、その利益を損害賠償額から控除することを損益相殺といいます。

これは、損害の公平な分担という損害賠償の基本理念から導かれる制度であり、被害者側が一方的に得をすることがないようにするために一般的に認められているものです。

本記事では、損益相殺とはなにか、損益相殺によって賠償金から差し引かれるものにはどういうものがあるか、損益相殺に関連して弁護士に相談するメリットはどのようなものかなどをご説明します。

この記事を読んで、交通事故の賠償金が変動する要素を押さえ、適正な賠償金を獲得するための参考となれば幸いです。

1.損益相殺とは

交通事故に遭ったときには、損害額の一部を示談前に加害者の任意保険会社から受け取ったり、加害者側以外からその事故に関する給付を受けたりすることがあります。

この場合に、受け取ったものと事故による損害との間に同質性が認められるとき、二重取りとなって被害者が得をすることにならないよう示談時に調整を行うのが損益相殺です。

例えば、事故の損害の総額が500万円の場合に、先に自賠責保険会社から100万円を受け取っていたとき、この100万円について調整を行わず、追加で500万円が加害者側から支払われるとします。

これをそのままにすると、被害者は損害の一部を二重取りして、100万円得することになってしまいます。

そのため、損益相殺を行い、すでに自賠責保険会社から支払われた100万円を控除して、残りの400万円を最終的な示談時に受け取る保険金とするように調整し、この二重取りを発生しないようにするのです。

損害賠償制度は、損害の公平な分担を行うものですから、加害者に過剰な支払をさせて被害者が得することがないようにする必要があります。

損益相殺は、このような損害賠償制度の趣旨から導かれる仕組なのです。

2.損益相殺の対象となるもの

交通事故を原因として支払われたものが損益相殺の対象となるかどうかは、その利益が損害の填補の性質を有するかどうか(損害と利益の間に同質性があるかどうか)によって判断されます。

この判断においては、第三者からの支払がされた際に、その第三者が被害者に代わって権利を取得する規定(代位規定)があるかどうかも考慮されています。

損益相殺の対象として認められているのは以下のような項目です。

それぞれについて説明します。

損益相殺の対象となる項目

  1. 自賠責保険金・政府保障事業てん補金
  2. 支給が確定した各種社会保険の給付金
  3. 所得補償保険金
  4. 健康保険法等に基づく給付金
  5. 人身傷害保険金
  6. 加害者側からの既払金

なお、以下の説明はあくまでも一般論であり、個別の事案における判断が異なることもありますのでご注意ください。

(1)自賠責保険金・政府保障事業てん補金

被害者が加害者側の自賠責保険会社に直接請求を行い(被害者請求)、保険金を受領している場合、その保険金の金額は、加害者が支払うべき損害賠償額から控除されます。

政府保障事業とは、無保険車による事故、ひき逃げ事故の被害者に国が自賠責保険・共済と同等のてん補金を支払う救済制度のことをいいます。

この制度は、強制加入であるはずの自賠責保険・共済に加入していない加害者が事故を起こしたり、ひき逃げにより加害者を特定できなかったりしたために、自賠責保険による救済を受けられなくなった被害者を救済するものです。

つまり、政府保障事業は自賠責保険と同じ趣旨の制度ですから、これによって支払われる保険金は、自賠責保険金と同じく損益相殺の対象となります。

なお、自賠責保険に対する被害者請求の手続きの流れや注意点については、以下の記事もご覧ください。

2022.05.31

自賠責保険への被害者請求の流れとは?請求期限や三つの注意点を紹介!

(2)支給が確定した各種社会保険の給付金

以下のような給付金は、それぞれの根拠規程に代位規定があることもあり、損益相殺の対象となるものとされています。

#1:労災保険法による給付

療養補償給付、休業補償給付、傷害補償給付、遺族補償給付、葬祭給付、傷病保障年金、介護補償給付は、代位規定があり、控除の対象になります。

休業補償給付に関しては、以下の記事もご参照ください。

2022.04.28

交通事故における休業補償の請求方法と注意点は?

#2:国民年金、厚生年金等

国民年金法、厚生年金法等の公的年金制度に基づく給付(障害基礎年金、障害厚生年金、遺族基礎年金、遺族厚生年金等)は、代位規定があり、控除の対象になります。

(3)所得補償保険金

所得補償保険金は、病気や怪我で働けなくなり、収入(所得)が減ってしまったときに、所得を補償してもらうための任意保険です。

所得補償金は休業損害に対する賠償と同じ性質を持ちます。

そのため、交通事故の被害者が、契約に基づいた所得補償保険金を受け取った場合、さらに休業損害も受領すると二重取りの内容となってしまうことから、控除の対象となります。

(4)健康保険法等に基づく給付

怪我や病気などの治療を受けるとき、国民健康保険や健康保険を利用することにより、治療費の一部は健康保険組合等が負担し、自己負担は一部で済むことになります。

また、要支援・要介護状態となった人については、介護保険の利用により、介護サービスや用具の費用について、自己負担額を減らすことができるようになっています。

交通事故の被害者の治療費・介護サービス費用等についてこれらの保険が負担したものについては、各保険の規程に代位規定が置かれているため、原則として損益相殺の対象となると考えられます。

ただし、実際の示談交渉や訴訟の場面では、被害者が自己負担した部分のみを損害として請求し、各保険が負担した分については触れないままとする扱いがされることも多いです。

(5)人身傷害保険金

人身傷害保険とは、被害者自身の自動車保険に付帯する特約で、被害者自身の過失が大きかったり加害者が見つからなかったりという場合に、交通事故による損害を補償してくれる、というものです。

加害者への請求ができる場合でも、この人身傷害保険を利用して加害者との示談の前に補償を受けるということがあります。

この場合、自身の保険会社が負担した人身傷害保険金は、まさに本来は加害者側が負担すべき損害部分をてん補する性質を持ちますし、保険の約款において代位の規定も置かれているため、損益相殺の対象となります。

ただし、被害者の過失が大きい場合に人身傷害保険を利用したときには、損益相殺について特殊な扱いをすることがあります。

人身傷害保険から多額の支払を受けた場合でも、加害者に対して請求できる部分が残る可能性がありますので、人身傷害保険を利用された場合にどのような請求ができるかどうか、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

人身傷害保険の補償内容などについては、以下の記事で解説しています。

2024.12.16

交通事故の人身傷害保険とは?補償内容について弁護士が解説

(6)加害者側からの既払金

示談前に加害者側からの支払を受けている場合には、あとで触れる見舞金のようなものを除き、損益相殺の対象となります。

加害者が任意保険に加入している場合、加害者側の任意保険会社が治療費を病院へ直接支払ったり、休業損害を内払したりすることがあります。

これらについては、損益相殺により、示談時に損害から控除されることになります。

3.損益相殺により差し引かれない項目

交通事故を原因として支払を受けたものであっても、以下のとおり、損益相殺の対象とならない給付があります。

損益相殺により差し引かれない給付

  1. 労災保険法による特別支給金
  2. 失業保険金
  3. 搭乗者傷害保険金
  4. 生命保険金
  5. 加害者が支払った香典・見舞金
  6. 税金

それぞれについて説明いたします。

(1)労災保険法による特別支給金

労災保険からの給付金には、特別支給金(休業特別支給金、障害特別支給金等)と呼ばれるものがあります。

これらの給付金は、労災被災者の社会復帰を促進する目的で給付されるものであり、被害者の損害の填補を目的するものではないと考えられているため、損益相殺の対象とならないとされています。

(2)失業等給付金

交通事故による怪我等が原因で仕事を辞めざるを得なくなり、雇用保険法に基づく失業等給付金の支払を受けることが考えられます。

この失業等給付金は、あくまで失業した方の収入のてん補を目的とするものであり、交通事故によって被害者が被った損害をてん補する性質のものではなく、代位規定もありません。

したがって、損益相殺の対象とはなりません。

(3)搭乗者傷害保険金

搭乗者傷害保険とは、被害者自身の保険に付帯するもの(自動で付帯される場合もあります。)であり、交通事故の際、契約自動車に搭乗している人それぞれに対し、通院日数はどれくらいか、後遺障害の有無、死亡したかどうかなどの損害の程度による分類に応じて、あらかじめ決められた定額の保険金が支払われるというものです。

搭乗者傷害保険によって支払われる保険金は、損害の填補というより契約者が支払った保険料の対価としての性質が強く、代位規定もないため、損益相殺の対象とはなりません。

(4)生命保険金

生命保険契約に基づいて支払われる保険金は、搭乗者傷害保険と同じく、契約者が支払った保険料の対価としての性質があり、もともと交通事故と関係なく支払われるべきものであることから、損益相殺の対象とならないものとされています。

(5)加害者側が支払った香典・見舞金

加害者側が支払う香典や見舞金は、事故による実損害を補填する目的ではなく、社会的な儀礼としてのものであると考えられるため、損益相殺の対象となりません。

ただし、金額が一般的な香典・見舞金の範疇を超えて高額である場合、香典や見舞金名目であっても、損害賠償の前払いされる可能性がありますので、注意が必要です。

なお、見舞金を受け取る際の注意点などについては、以下の記事も合わせてご覧ください。

2022.11.30

交通事故の見舞金とは?損害賠償との関係性と受け取る際の注意点

2023.10.13

交通事故の見舞金の相場は10万円?注意点などについて

4.損益相殺以外の損害賠償額が変動する要素

交通事故の場合、損益相殺のほかにも、損害賠償額が変動する要素があります。

損益相殺以外に損害賠償額が変動する要素

  1. 過失割合
  2. 損害額の算定基準
  3. 後遺障害等級

以下で説明いたします。

(1)過失割合

交通事故における過失割合とは、事故の発生に対する当事者の責任の割合のことです。

例えば、相手方の赤信号無視による事故や、停止中の追突被害事故のように被害者に全く落ち度がない場合は、過失が0になります。

もっとも、過失が0になるケースは意外と少なく、走行中の車両同士であれば両当事者に過失が認められるケースが多いです。

この過失割合に応じて、賠償額を減額することを過失相殺といいます。

過失割合が大きくなれば、当然過失相殺による減額も大きくなってしまいます。

交通事故に遭った際、加害者側から過失相殺の話がされたときには、過失割合が妥当なものであるかどうか、弁護士等専門家に相談するべきでしょう。

交通事故における過失割合の意義や影響などについては、以下の記事もご参照ください。

2025.01.28

交通事故における過失割合とは?決め方や示談交渉への影響について解説

(2)損害額の算定基準

交通事故による損害額の算定基準には、自賠責基準、任意保険基準、裁判所基準の3つがあります。

これらのうち、自賠責基準は、交通事故の被害者に対する迅速な補償を行う目的で定められた自賠法に基づいて設けられているものであり、最低限の賠償を行うようになっているため、3つの基準の中でもっとも金額が低額になる傾向にあります。

任意保険基準は、各保険会社が独自に設けているもので、非該当であるため、これによって算定した賠償額を予想することは困難ですが、おおむね自賠責基準と同等か、少し増額された金額となることが多いです。

そして、裁判所基準は、訴訟の際に裁判所が用いるものであり、ほかの2つに比べて高額な賠償額が算出されやすいものとなっています。

加害者側の保険会社は、被害者との直接交渉の場合、自賠責基準やそれに近い任意保険の基準での金額を提示してくることが多いです。

このような場合、さらに高額となる裁判所基準での支払を求めて交渉することにより、金額を増額できる可能性があります。

ただし、被害者自身が裁判所基準での賠償を求めても、なかなか認めてもらうことが難しいという実情がありますので、裁判所基準での支払交渉の場合には、弁護士に依頼する必要があります。

(3)後遺障害等級

交通事故により怪我をしてしまい、治療を続けたものの、それ以上の治療を続けても症状が良くも悪くもならない状態(症状固定)となってしまった場合、その時に残っている症状はいわゆる後遺症となります。

この後遺症が、自賠法に定められている後遺障害等級(部位、症状、程度に応じて、重い方から1級~14級の14等級に分かれます。)に該当するとされた場合、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を加害者側に請求できるようになります。

後遺障害慰謝料は、後遺障害が残ってしまったことによる精神的苦痛をてん補するものであり、等級ごとに金額が決められていてその金額は等級が高いほど高額となっています。

また、後遺障害逸失利益は、後遺障害によって労働能力が制限されることによって将来生じるはずの減収分であり、等級が高ければ、労働能力の制限の程度も大きくなるためやはり金額が高額となります。

後遺障害等級の認定を受けられるかどうか、高い等級が認められるかどうかによって賠償額は変動することになります。

2024.11.29

交通事故の後遺障害とは?認定の要件や等級、手続の流れを弁護士が解説

5.交通事故の賠償金について弁護士に相談・依頼するメリット

交通事故の賠償金について、弁護士に相談・依頼するメリットについて説明いたします。

交通事故の賠償金について弁護士に相談・依頼するメリット

  1. 適切な算定基準を用いて交渉を行うことができる
  2. 過失割合について効果的な反論・立証ができる
  3. 後遺障害等級の認定申請等の手続を一任できる
  4. 損益相殺の主張が妥当であるかどうかの確認を依頼できる

(1)適切な算定基準を用いて交渉を行うことができる

繰り返しになりますが、損害額の算定基準は自賠責基準、任意保険基準、裁判所基準の3つがあります。

裁判所基準が最も高額な損害額を算出できるものとなっていますが、これによる支払については、弁護士からの請求でなければ応じない、という保険会社がほとんどです。

したがって、裁判所基準での交渉を目指す場合、弁護士への依頼を検討した方がよいでしょう。

(2)過失割合について効果的な反論・立証ができる

事故の状況によっては、被害者にもある程度の過失が認められ、その過失割合の分、過失相殺がされることがあります。

賠償額の増額が認められたとしても、被害者側の過失割合が高くなれば、最終的にもらえる金額は減ってしまいます。

加害者側の任意保険会社は支払う賠償金を減らすため、なるべく被害者にとって不利な過失割合を主張してくることもあります。

そのため、適切な過失割合が認定されるように、弁護士に依頼の上、効果的な反論をし、交渉していくことが必要となります。

(3)後遺障害等級認定申請等の手続を一任できる

先ほど説明したように、後遺障害等級は、賠償額に大きな影響を与えます。

後遺障害等級認定申請の手続には、加害者の任意保険会社が主導する事前認定と、被害者自身が手続を行う被害者請求の2種類の方法があります。

事前認定では、被害者は後遺障害診断書を医師に作成してもらって加害者の任意保険会社に提出するだけでよく、そのほかの書類は加害者の任意保険会社が収集してくれます。

しかし、この方法では後遺障害診断書以外の書類の内容を確認することはできませんし、十分に資料が集められているかを確認することもできません。

一方、被害者請求では、すべての書類を被害者が集めることになりますので、不利な資料がないかどうかをしっかり確認することができるため、事前認定に比べて、有利な等級認定を受ける確率を上げられるといえます。

被害者請求の場合、資料収集の負担は大きいものとなってしまいますが、弁護士に依頼することによりその負担は大きく軽減できますし、収集した資料に不備がないかどうかについても専門家の目でしっかりチェックすることができます。

後遺障害等級認定の申請を考えている場合には、弁護士に依頼して、代行してもらうメリットが大きいといえます。

(4)損益相殺の主張が妥当であるかどうかの確認を依頼できる

示談までに支払を受けたものについて、損益相殺がなされるかどうか、どの範囲で損益相殺がされるかの判断は、実は交通事故の損害賠償請求においても難しいもののうちのひとつです。

加害者側から提示された内容をそのまま鵜呑みにしてしまうと、本来控除しなくていいものを賠償金から控除され、必要以上に賠償金が減ってしまうことにもなりかねません。

そもそも、加害者側も損益相殺の方法をよくわかっていないこともあります。

しかし、弁護士であれば、そもそも損益相殺の対象となるかどうかやどの項目から控除されるのかなどを適正に判断することができ、加えて加害者との示談交渉も任せることが可能です。

まとめ

本記事では、損益相殺の意義や控除される対象項目のほか、弁護士に相談するメリットなどをご紹介しました。

損益相殺は単純に支払われたものを差し引けばよいというものではなく、専門的な知識が必要とされる、交通事故の損害賠償請求においても重要場面の一つです。

これについて、専門家である弁護士に相談することで、損益相殺の対象になりうるのか、どの項目から控除されるのかなどの不安を払拭できるでしょう。

保険会社から過度に金額を引かれているかもしれないとの懸念がある方は、一度弁護士に相談することをおすすめします。

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執筆者 大塚 慎也 弁護士

所属 埼玉弁護士会

弁護士相談は敷居が高い、そういう風に思われている方も多いかと思います。
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