交通事故被害者に持病があると賠償金が減らされる?素因減額の内容や主張された時に取るべき対応について解説
「素因減額とはどのようなものか」
「保険会社から既往症があるから賠償金が減るといわれた」
「素因減額を主張されたときにはどのように対処すればよいのか」
交通事故に遭われた方の中には、加害者側から素因減額を主張され、どう対応すればよいのか分からないという方もいらっしゃるのではないのでしょうか。
素因減額が認められると賠償額を減らされてしまうため、被害者側としてはこれを積極的に争っていく必要があります。
本記事では、交通事故の賠償における素因減額の概念や弁護士に相談するメリットについて解説します。
この記事を読んで、素因減額の意義を押さえ、適切な賠償金を獲得するための参考となれば幸いです。
1.素因減額とは
素因減額とは、被害者の持つ素質が損害の発生、拡大に影響した場合に、かかる素質を考慮して賠償金を減額することです。
例えば、本来は軽度の怪我で済むような交通事故であったのに、被害者に持病があったせいで重い後遺障害が残ってしまった場合、その後遺障害についてまで加害者に責任を負わせるのは、加害者にとってあまりに酷な結果となってしまいます。
持病などの素質は、被害者に落ち度があるというわけではないので、過失には当たりません。
しかし、当事者間で損害を公平に分担する必要があるため、過失相殺と同様のルールを当てはめることにより、後遺障害の部分については賠償金が減額されることとなります。
素因減額の対象となる要因としては、身体的要因と心因的要因の二つが挙げられます。
(1)心因的要因
心因的要因の具体的な例としては、うつ病などの精神的疾患や、被害者の性格、回復への意欲の欠如などがあります。
ただし、人によって性格が異なるのは当然のことであり、多少神経質であったり落ち込みやすい性格であることから直ちに賠償金が減額されるという訳ではありません。
例えば、交通事故の被害者が自殺したケースにおいて、事故と死亡との相当因果関係を認めた上で、被害者の「心因的要因の寄与」を理由に80%の素因減額が認められています。
このように、被害者に重大な精神的ダメージを与えるほどの事故でないにもかかわらず、被害者の心因的要因により治療が長引き、損害が拡大したような場合には、賠償金の減額が認められることになります。
(2)体質的・身体的要因
身体的要因については、事故前から患っていた病気や既往症などがこれにあたります。
例えば、事故前から一酸化炭素中毒にかかっていた人が交通事故で頭部打撲傷を負ったところ、一酸化炭素中毒もあいまって症状が悪化し死亡したケースについて、実際に素因減額が認められています。
これに対し、病気とまでは言えず単なる身体的特徴に過ぎない場合には、素因減額が否定されるのが一般的です。
例えば、首が長いためにむち打ち症が悪化したというケースにおいて、首が長いという身体的特徴は個々人の個体差の範囲内であり、当然にその存在が予定されているとして、素因減額を認めないとの判断がされています。
2.素因減額が主張されやすいケース
加害者側から素因減額が主張されやすいケースとして、主に以下のような場合が挙げられます。
(1)被害者に既往症がある場合
既往症とは、現在も影響を及ぼしている過去の病気や障害のことで、定期的または継続的に治療を受けていた病気や入院・手術をしたものを指します。
被害者に既往症があると、これが損害の発生や拡大に影響しているとして素因減額を主張されることがあります。
しかし、事故後の症状と関係のない既往症である場合には損害の発生や拡大に影響したとは言えないため、素因減額を認めるべきではありません。
そのような場合には、現在通院していない事実を立証したり、通院先の診療録を示して事故後の症状と異なることを立証することにより、素因減額すべきでないと主張していく必要があります。
(2)被害者が高齢者である場合
高齢者の場合、運動能力の低下により、軽く転んだだけでも骨折するなど大きな怪我を負ってしまうことが考えられます。
また、若年者に比べ回復力が低下することから、治療期間が長引いてしまうこともあるでしょう。
このように、高齢者の場合は同じ事故であっても損害が発生、拡大しやすいことから、高齢者であることを理由に素因減額を主張されることがあります。
老化により何らかの病気を患っている場合は素因減額が認められやすい傾向にありますが、老化自体は誰もが避けられないものですから、これをもって直ちに減額すべきではありません。
したがって、高齢であっても何らかの病気を患っていないのであれば、単なる身体的特徴にすぎず素因減額の対象にはならないと積極的に主張していく必要があります。
(3)事故態様が軽微であるにも関わらず治療が長引いている場合
軽い事故であったにもかかわらず治療が長引き、治療費がかさんだような場合、被害者に怪我を治そうとする意欲がないことが原因であるとして、素因減額を主張されることがあります。
しかし、交通事故が原因で精神的疾患が悪化したり、気分が落ち込みやすくなったりすることで治療がなかなか進まず、通常より治療が長くなってしまうことも十分に考えられます。
このような場合、治療が長くなったのはあくまで交通事故が原因であって、被害者の精神的疾患や性格などとは関係がないと反論することで争っていく必要があるでしょう。
3.素因減額と過失相殺の計算
被害者側にも過失が認められる場合には過失相殺が行われることになりますが、素因減額と過失相殺の両方が行われる場合、まず素因減額を行ってから、過失相殺をするというのが一般的な計算方法になります。
例えば、損害額が300万円、過失割合が1割の事故において、2割の素因減額が認められたケースの場合、以下のように計算されます。
300万円×0.8(10割-2割)=240万円
240万円×0.9(10割-1割)=216万円
したがって、上記のケースで被害者が受け取れる賠償金は216万円になります。
4.素因減額が主張された場合に弁護士に相談するメリット
素因減額が認められるかどうかによって、被害者の受け取れる賠償金の額が変わってくるため、素因減額を主張された場合にはまず弁護士に相談することをおすすめします。
素因減額について弁護士に相談するメリットは以下の通りです。
(1)素因減額の主張が妥当か否か確認を受けられる
素因減額が認められるかどうかは、事故の状況や怪我の内容、治療経過や回復状況、被害者の持病、生活状況などを総合的に検討し、個別具体的に判断されます。
そのため、似たようなケースで素因減額が認められていても、今回の事故においては素因減額をするのは妥当ではない、という場合も十分考えらえます。
しかし、素因減額が認められるかどうか、どの程度認められるかについて明確な基準がない以上、加害者側の主張が妥当かどうかわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
弁護士に相談することにより、素因減額についての加害者側の主張が妥当かを確認し、被害者側が反論していくべきかどうかを判断することができます。
(2)適切な反論・立証ができる
素因減額は、被害者の素質が損害に影響したことを加害者側が立証するものですので、素因がないことや損害に影響していないことを被害者が立証できなければすぐに減額されてしまう、というわけではありません。
しかし、素因減額の主張が妥当でない場合には、被害者側が適切な反論・立証することにより素因減額の主張を封じることができるため、積極的にこれを行っていく必要があります。
被害者側の反論としては、そもそも素因がない、素因があるとしても損害には影響がない、損害への影響があるとしてもその程度は小さい、というように、様々な主張方法が考えられます。
また、これらの反論を裏付けるためには、過去の通院歴を洗い出したり、診療録や事故資料などを収集する必要があります。
弁護士に相談することにより、適切な主張方法を選択したうえで、必要な資料を収集し立証していくことが可能となります。
(3)受け取れる賠償金の増額が期待できる
素因減額の主張に対し適切な反論・立証をすることにより、賠償金の減額を防ぎ、加害者側から提示された金額よりも多くの賠償金を受け取ることが期待できます。
被害者の素因の内容や損害の影響の程度によっては、提示された金額の2倍以上、あるいは3倍以上の賠償金を貰える可能性もあるため、加害者側の主張を鵜呑みにせず、積極的に争っていくことが重要です。
まとめ
本記事では、素因減額がどのようなものか、素因減額を主張された場合に弁護士に相談するメリットについて解説しました。
素因減額が主張されるケースでは、持病の有無や程度、現在の症状への影響の度合いなどをめぐって争われることが多いです。
加害者側から主張がなされた場合には、的確に反論・立証することが重要となります。
不必要な素因減額をされることなく、適切な額の賠償金を獲得するためにも、専門家である弁護士に一度相談することをおすすめします。
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