交通事故の治療で健康保険は使える?健康保険を使うメリットとは

執筆者 野沢 大樹 弁護士

所属 栃木県弁護士会

私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。

「交通事故の治療で健康保険を使えるの?」
「健康保険を使えないケースはあるの?」

交通事故で怪我をしてしまい、病院での治療時に健康保険が使えるのか気になる方も多いのではないでしょうか。

交通事故の怪我の治療でも、健康保険を使うことができます。

この記事では、交通事故の怪我の治療で健康保険を使う方法、健康保険を使うメリット・デメリットについてご説明します。

1.交通事故の治療でも健康保険は使える

1.交通事故の治療でも健康保険は使える

交通事故の治療では健康保険が使えないと勘違いされるケースがありますが、交通事故の治療でも健康保険は使えます。

実際に、厚生労働省が2011年に通達した「犯罪被害や自動車事故等による傷病の保険給付の取扱いについて」でも、交通事故の治療は健康保険の対象であると明記されています。

自由診療で治療を受けている場合でも、健康保険を利用した治療に切り替えることもできます。

ただし、以下のとおり、手続に様々な書類が必要であることや、健康保険が使えないケースもあるので事前に確認しておきましょう。

(1)第三者行為による傷害届などの提出が必要

交通事故の治療で健康保険を使う場合には、医療機関へ健康保険証を提示するだけでなく、健康保険機関へ「第三者行為による傷病届」を提出しなければなりません。

「第三者行為による傷病届」は、健康保険機関が支払った治療費を加害者側に請求するために必要な書類です。

他にも、以下の書類を健康保険機関へ提出する必要があります。

健康保険期間に提出するべきもの

  • 負傷原因報告書
  • 事故発生状況報告書
  • 損害賠償金納付確約書・念書
  • 同意書
  • 交通事故証明書

書類の不備や記入漏れがないよう注意しましょう。

(2)健康保険が使えないケースもある

交通事故の治療でも健康保険を使えますが、中には健康保険が使えないケースもあります。

ここからは、健康保険が使えない3つのケースをご紹介します。

#1:労災保険が適用される場合

通勤中や業務中の交通事故の場合、労災保険が適用されるため健康保険は使えません。

労災の認定を受けるまでの間は一時的に健康保険が使えます。

しかし、その場合にあとから労災と認定されると、健康保険から労災保険へ切り替える必要が生じるだけでなく、健康保険の負担部分について、いったん健康保険機関へ被害者自身が返金し、労災へ請求することも必要になってしまいます。

健康保険の負担部分は高額になることがあり、労災から回収できるとはいえ大きな負担となることもあります。

労災が適用される場合には、健康保険の利用は控えるべきでしょう。

#2:保険診療対象外の治療を受ける場合

保険診療対象外の治療を受ける場合、健康保険は使えません。

たとえば、先進医療での治療や、保険適用外の医薬品などが挙げられます。

また、病院ではなく整骨院や接骨院での施術を希望する場合も、施術の内容によっては健康保険が使えない可能性もあります。

健康保険機関の方針で、整形外科等の医療機関と、整骨院等の併用が認められない場合もあります。

#3:被害者に故意または重大な過失がある場合

被害者側に故意または重大な過失がある場合も、健康保険を使えないので注意しましょう。

具体的には、飲酒運転や無免許運転などといった法令違反があったり、故意に事故を起こしたりした場合です。

なお、このような過失がある場合、車両保険や搭乗者傷害保険など自身に関わる保険金も支払われないことにも気を付けた方がよいでしょう。

2.交通事故の治療で健康保険を使う2つのメリット

2.交通事故の治療で健康保険を使う2つのメリット

交通事故の治療で、健康保険を使うメリットは主に以下の2つがあります。

健康保険を使うメリット

  1. 治療費の自己負担額が軽減できる
  2. 高額療養費制度が利用できる

それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。

(1)治療費の自己負担額が軽減できる

交通事故の治療では多くの場合、加害者側の保険会社が病院に直接治療費を支払ってくれます(任意一括対応)。

しかし、加害者が任意保険に加入していなかったり、治療途中で支払を打ち切られたりする場合、被害者自身で治療費の支払を行い、あとからかかった治療費を相手方に請求する必要があります。
立て替えた分は後から請求できるとはいえ、戻ってくる可能性は100%ではありませんし、一時的にでも治療費を10割負担するのは金銭的にも精神的にも痛手となります。

そこで、健康保険を使うことにより、自己負担額を抑えることができます。

年齢に応じ、1割〜3割負担に抑えられるメリットは大きいでしょう。

また、被害者側にも過失割合が認められる場合、損害賠償額の計算において、被害者側の過失の分、賠償額が減額された後、既払い額が差し引かれることになります。

このような場合、相手方が一括対応をしているときでも、健康保険を使うことで既払い額を減らし、最終的に受け取る金額を増額することができます。

(2)高額療養費制度が利用できる

交通事故の治療で健康保険を使うと、健康保険の制度の1つである高額療養費制度が利用できるようになります。

高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1か月の上限額を超えた場合、その超えた額を還付してくれるという制度です。

なお、一時的にでも高額な医療費を支払うのは負担が大きいという場合、「限度額適用認定証」を申請し窓口に提出すれば、負担するのは高額療養費制度の自己負担限度額だけで済みます。

健康保険の高額療養費制度を利用できれば、多額の医療費についての不安を感じることなく治療に専念できるでしょう。

3.交通事故の治療で健康保険を使う2つのデメリット

3.交通事故の治療で健康保険を使う2つのデメリット

交通事故の治療で健康保険を使うメリットは大きいですが、一方でデメリットもあります。

交通事故の治療で健康保険を使うデメリットは以下の2つが挙げられます。

健康保険を使うデメリット

  1. 病院によっては対応してくれない場合がある
  2. 診療の範囲が制限される場合がある

それぞれのデメリットについて見ていきましょう。

(1)病院によっては対応してくれない場合がある

本来、交通事故であっても健康保険は使えますが、病院によっては健康保険の利用を拒否してくる場合があります。

交通事故で健康保険が使えることを知らない、病院の方針として交通事故で健康保険は使えないとしているなど、原因は様々です。

病院が健康保険に対応してくれないのならば病院を変える必要もありますが、どうしてもその病院で治療を受けたいという場合は、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。

(2)診療の範囲が制限される場合がある

健康保険を使うことで、自由診療ではなく保険診療での治療となるため、診療の範囲が制限される場合があります。

たとえば、健康保険が適用されると、自由診療では認められる先進治療や新薬の使用はできない可能性があります。

しかし、交通事故で発生する通常の怪我の治療であれば、ほとんどの場合、最先端の治療を受ける必要はないため、診療範囲の制限は大きなデメリットとなることはありません。

もし珍しい態様の怪我を負ってしまい、自由診療と保険診療どちらを受けるべきか悩むのであれば、担当医や弁護士などへ相談して決めるとよいでしょう。

まとめ

交通事故の治療でも健康保険を使うことができます。

健康保険を使うと、治療費の一時的な自己負担額が軽減できるだけでなく、最終的な賠償額が増える、高額療養費制度が利用できるなどのメリットもあります。

一方で、病院によっては対応してくれない、診療範囲が制限されるなどのデメリットもあります。

病院に拒否されたり、健康保険を使うかどうかで悩んでいたりする場合は、弁護士への相談をおすすめします。

弁護士は病院と交渉をしてくれるだけでなく、必要な書類の作成なども行ってくれるので、安心して治療に専念できるようになります。

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執筆者 野沢 大樹 弁護士

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