複雑な保険の世界① ~対人賠償保険と人身傷害保険編~
自動車の運転をしていて、第三者に怪我を負わせてしまった時に自分の賠償責任を肩代わりしてくれるのが対人賠償保険と呼ばれるものです。
他方で、自動車の運転をしていて、自身が怪我を負った場合に、治療費や休業補償を自身の保険が支払ってくれるものを人身傷害保険といいます。
これらは基本的には、
相手への賠償=対人賠償保険
自分への補償=人身傷害保険
と整理されます。
しかし、車両同乗中に事故に遭い、怪我を負った場合には、少し事情が異なってくる場合があります。
(1)民事賠償責任の前提
まず、自動車事故によって怪我を負った場合、それに基づく損害を加害運転者に請求することができます。
これは、同乗中の事故であっても変わりません。
例えば、タクシーに乗車中に、後から追突されてお怪我を負った場合、これは基本的に追突車両が100%悪いため、追突車両の運転者に対して損害賠償請求ができます。
他方で、タクシーに乗車中に、交差点出合頭での衝突事故に遭いお怪我を負った場合、これはタクシー運転者と相手方車両運転者の双方に過失が認められ得ます。
この場合、タクシー運転者と相手方車両運転者の双方に損害賠償の請求ができることになります。(もっとも、二重取りはできません。)
さらに、タクシー乗車中に、そのタクシーが過って電柱に衝突してしまい、お怪我を負った場合には、タクシー運転手のみに損害賠償の請求ができることになります。
このように、単に同乗していた場合に、自身が乗車していた車両の運転手にも過失が認められる場合には、同運転手に対しても損害賠償請求が可能となるのです。
(2)適用保険の違い
上記の例で、追突の場合には請求できるのは追突車両運転者となるため、話は単純です。
追突車両運転者が任意保険に加入している場合には、同保険の対人賠償保険が適用され、治療費等の損害を支払ってもらうことができます。
他方で、交差点出合頭のような、送付に過失がある場合にはどうでしょうか。
この場合には、双方車両の運転手ともに請求をすることが可能です。
一般的には双方の運転者のうち、過失が大きい方が付帯している保険が対応に当たることが多いです。
自損事故の場合には、運転手のみに賠償請求することとなりますから、同運転手の契約保険が対応することとなります。
これらは、上記雪嶺のようにタクシーであれば、乗客との間の賠償共済に加入しているため、保険適用について大きな問題が生じることは多くありません。
問題は、家族などの運転する車に乗車中に、事故に遭いお怪我をした場合です。
この場合には、運転手の対人賠償保険ではなく、人身傷害保険が適用となることがあるのです。
例えば損害保険ジャパン日本興亜株式会社の人身傷害保険約款を見てみましょう。
第1条(保険金を支払う場合) (1)当会社は、次の規定に従い、保険金、入通院定額給付金または入院生活サポート費用保険金を支払います。 ①当会社は、被保険者が次のいずれかに該当する急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に傷害を被った場合は、その直接の結果として被保険者又はその父母、配偶者もしくは子が被る損害に対して、この人身傷害条項及び基本条項に従い、保険金請求権者に保険金を支払います。 ア.契約自動車の運行に起因する事故~以下略~ |
これは意訳すると
「人身傷害保険を契約している自動車運行中に事故に遭った場合には、被保険者に対して保険金を支払います」
ということになります。
ではここにいう「被保険者」とは誰なのか?
これは次の条文を読めば分かります。
第4条(被保険者) (1)この人身傷害条項における被保険者は、契約自動車の正規の乗車装置又はその装置のある室内に搭乗中の者とします。~以下略~ |
意訳をすると
「契約自動車に乗っている人が被保険者です」
ということです。
つまり、契約自動車に乗っていて事故に遭った場合には、人身傷害保険の被保険者となり、人身傷害保険から保険金を支払われることになるのです。
ただし、対人賠償保険が適用されれば、もちろん対人賠償保険も適用となり、支給調整がなされます。
しかし、問題なのは、対人賠償保険が適用されないことがある点です。
以下の対人賠償保険約款を見てください。
第3条(保険金を支払わない場合-その2) (1)当会社は、事故による次のいずれかに該当するものの生命又は身体が害された場合は、それによって被保険者が被る損害に対しては、保険金を支払いません。 ① 記名被保険者 ② 契約自動車を運転中の者またはその父母、配偶者もしくは子 ③ 被保険者の父母、配偶者または子~以下略~ |
意訳をすると、
「被保険者自身や被保険者の近しい家族が被害者となった場合には、対人賠償保険では保険金の支払をしません」
ということになります。
この場合には、対人賠償保険が利用できないため、人身傷害保険のみが適用となるのです。
(3)注意するべき点
以上からすると、同乗中に運転手の過失によって怪我をした場合には、
①対人賠償保険によって賠償を受けられる場合
②人身傷害保険によってのみ補償を受けられる場合 の2通りがあることになります。
ここで重要なのは、人身傷害保険で補償が受けられる損害の範囲は、基本的には約款で計算基準が決まっているという点です。
この場合、弁護士が代理人となって保険金の支払いを請求しても、増額を勝ち取るのは著しく困難になります。
対人賠償保険の適用が受けられない例としては、家族の運転の他に、友人同士でレンタカーを借り、全員で交代しながら運転をするということで全員記名被保険者となる保険を締結した場合があります。
この場合には、家族の運転でもないのに、対人賠償が使えないということになってしまうのです。
どの保険の適用が受けられるのかによって、賠償請求の手順も、受けられる補償の内容も異なってきます。
法律の専門家である弁護士でも、混乱する保険の契約内容。
ややこしい保険適用に迷ったら、一度約款とともに弁護士にご相談ください。
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