交通事故による「むちうち症」の慰謝料相場と計算方法について詳しく解説!

交通事故によってむちうちになった相談者の方に後遺障害のことを説明すると、「そんな大げさな怪我ではありません。ただの捻挫です。」と控えめに話されることがあります。

交通事故に遭われた後、捻挫やむちうち等の神経症状に悩んでいる方や、ひどい痛みや痺れが生じているにも関わらず、保険会社や勤務先から「捻挫やむちうち程度で」と言われてつらい思いをしている方もいます。

しかし、むちうちは、自賠法施行令に定められている後遺障害認定基準において、「精神・神経症状」という系列にあたる障害として分類もされていて、決して軽く見てはいけない受傷です。

ここでは、交通事故被害でむちうちに遭った方に向けて、治療や後遺障害、賠償等についてご紹介します。

1.むちうちとは

「むちうち」は正式な病名ではありません。

むちうちは、筋肉や神経の異常で、部位や傷害の態様に応じて、様々な診断名があります。

たとえば首の場合には、「頚椎捻挫」「頚部挫傷」「外傷性頚部症候群」「バレーリュー症候群」「頚椎椎間板ヘルニア」「頚椎症」などの診断名があげられます。

これらの傷病の中には、事故直後から自覚症状があるものありますが、2~3日しなければ自覚症状がないもの、中には2~3か月経過した後に自覚症状が発現するものもあります。

受傷部位の神経や筋肉に異常が生じたことによって症状が生じるため、絶対にこういう症状があらわれるというような基準がありません。

痛みやシビレが主な症状ですが、このほか人によっては吐き気や耳鳴り、頭痛等が現れることもあり、症状の程度も様々です。

そのため、とてもつらい思いをしているにも関わらず、周りが理解してくれない等の深刻な悩みを抱える方も少なくありません。

2,慰謝料の相場

交通事故によって怪我を負った場合、相手方に請求できる項目に「慰謝料」というものがあります。

慰謝料とは、精神的な苦痛に対する損害賠償のことで、交通事故の場合は事故による受傷で被害者が辛い思いをしたことに対しての賠償と考えられています。

交通事故における慰謝料は、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料、親族固有の慰謝料等がありますが、むちうちの方に関わる慰謝料は、「入通院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」の2つです。

両者は、怪我による精神的苦痛に対する賠償という意味では同じですが、何に対する慰謝料なのかが異なります。

まず、入通院慰謝料は、交通事故により怪我をされたことに対する慰謝料です。

その名称のとおり入院と通院をしている期間に基づいて算定をします。

そして、後遺障害慰謝料とは、後遺障害が生じたことに対する慰謝料です。

後遺障害とは、交通事故による受傷で治療の末に残ってしまった症状のうち、将来においても回復が難しく、労働能力の喪失・低下を伴うもので、自賠法施行令(自動車損害賠償保障法施行令)に定められている障害のことをいいます。

したがって、後遺障害慰謝料は、入院や通院による治療の末に将来においても回復が難しい状態(症状固定)となった以降に生じる精神的苦痛に対する賠償ということになります。

ここでは、入通院慰謝料とその算定方法について説明します。後遺障害慰謝料については、「後遺障害になった場合の慰謝料」で後述します。

(1)入通院慰謝料

入通院慰謝料は、受傷により被害者が被った精神的苦痛に対する損害賠償です。

しかし、怪我を負ったことによる痛みや辛さは被害者ご本人にしかわかりません。

交通事故賠償の実務においては、ご本人しかわからない事象を賠償に反映するために、目に見える客観的証拠を元に算定するという手法をとっています。

ここで客観的証拠とされているのは、どれだけの間病院にかかることになったのか、医師がどれだけの通院が必要だと判断していたのかということを指します。

したがって、交通事故により怪我を負ったことについて適切な賠償を受けるためには、医師の指導に基づき入院や通院を行うということが大切になってきます。

時折、とても痛い思いをしていたけれども多忙のため病院には一度しかいかなかったという方がいらっしゃいます。

こういったケースでは、本当に残念なことではありますが、同じようなお怪我をされて通院を欠かさなかった方と比べると、賠償額が少なくなってしまうことがあります。

(2)むちうちの慰謝料

交通事故によりむちうちになった方の慰謝料(入通院慰謝料)の金額は、上述したように入院や通院した期間に応じて算定します。

もっとも、むちうちの場合、受傷部位の神経や筋肉に異常が生じたことによって症状が発現するため、その症状がおさまるまでの期間の目安に画一的なものはありません。

おおよそではありますが、早い方だと1か月、通常が3か月から6か月、症状が重く後遺障害の心配が生じるような方だとそれ以上であることが多いです。

症状はそれぞれの方に個別性があるため、慰謝料に「相場」という言葉が適切かどうかはあるのですが、幅をもたせた相場感としては、裁判基準で19万円から90万円の範囲であることが多いです。

詳細については「慰謝料の計算方法」にて後述します。

3.慰謝料の計算方法

入通院慰謝料の計算方法は、自賠責保険が用いる自賠責基準と、裁判所が用いる裁判基準との2つがあります。

この他、任意保険会社が用いる任意保険会社の基準もありはしますが、公表されていないのと、多くは自賠責保険基準とほとんど同等であるため、ここでは言及しません。

(1)自賠責基準

自賠責保険の慰謝料の計算方法は、以下の計算式によって求めます。

もっとも、自賠責保険には治療費や休業損害等の他の支払いの金額を含めて総額120万円という上限があります。

したがって、治療費等が120万円に近づくほど、慰謝料の配分が少なくなるため、慰謝料の金額は少なくなります。

自賠責基準の計算式

1日あたり4300円(※1)×通院日数×2(※2)
※1 2020年3月31日以前発生事故の場合は4200円
※2 通院日数×2が総期間に対応する日数を超える場合は総期間にて計算

例)実通院日数10日、総期間30日の場合:10×2=20 →20日で計算

実通院日数18日、総期間30日の場合:18×2=36 →30日で計算

(2)裁判基準(弁護士基準)

裁判基準は、交通事故の裁判例の蓄積の中で生まれた基準です。

弁護士が依頼者の損害を算定し、賠償を求める際に用いるため、弁護士基準と呼ばれることもあります。

むちうちの裁判基準の入通院慰謝料は、以下の別表Ⅱという表を使って計算します。

入院の場合は横軸、通院の場合は縦軸で、それぞれ対応する枠内に書かれた数字が金額(万円単位)に基づいて計算をします。

たとえば、別表Ⅰのケースで1か月通院した場合の慰謝料は、19万円です。

もっとも、計算方法は、入院と通院の両方がある場合や実日数が少ない場合等、計算に各種の決まりごとがあるうえに、事故態様によっては過失割合も影響するためやや複雑です。

ご自身の裁判基準の入通院慰謝料を把握したいという方は弁護士にご相談ください。

入院 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 13月 14月 15月
通院 B’ \ A’ 35 66 92 116 135 152 165 176 186 195 204 211 218 223 228
1月 19 52 83 106 128 145 160 171 182 190 199 206 212 219 224 229
2月 36 69 97 118 138 153 166 177 186 194 201 207 213 220 225 230
3月 53 83 109 128 146 159 172 181 190 196 202 208 214 221 226 231
4月 67 95 119 136 152 165 176 185 192 197 203 209 215 222 227 232
5月 79 105 127 142 158 169 180 187 193 198 204 210 216 223 228 233
6月 89 113 133 148 162 173 182 188 194 199 205 211 217 224 229
7月 97 119 139 152 166 175 183 189 195 200 206 212 218 225
8月 103 125 143 156 168 176 184 190 196 201 207 213 219
9月 109 129 147 158 169 177 185 191 197 202 208 214
10月 113 133 149 159 170 178 186 192 198 203 209
11月 117 135 150 160 171 179 187 193 199 204
12月 119 136 151 161 172 180 188 194 200
13月 120 137 152 162 173 181 189 195
14月 121 138 153 163 174 182 190
15月 122 139 154 164 175 183
(別表Ⅱ)

(3)両者の比較

むちうちの方がよく通院されることが多い目安の期間に基づいて算定すると、それぞれ自賠責保険と裁判基準の慰謝料の概算は以下のとおりになります。

自賠責保険に120万円という上限があることから、両者の差は期間が長くなるにつれてさらに広がっていくことになります。

自賠責基準 裁判基準
1か月(通院日数約15日) 12万円 19万円
3か月(通院日数約45日) 38万円 53万円
6か月(通院日数約90日) 60万円(※) 89万円

※ 治療費も自賠責保険から支払われることを考慮し算出しています。

利用可能な自賠責保険が2つあるというような特殊なケースの場合は約77万円です。

4.むちうちで後遺障害等級に該当するケース

後遺障害とは、交通事故による受傷で治療の末に残ってしまった症状のうち、将来においても回復が難しく、労働能力の喪失・低下を伴うもので、自賠法施行令(自動車損害賠償保障法施行令)に定められている障害のことをいいます。

むちうちの場合に後遺障害として認定される可能性がある等級は次の2つです。

第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
第14級9号 局部に神経症状を残すもの

 

(1)後遺障害等級認定の判断基準とは

  • 12級の局部に頑固な神経症状を残すもの

自覚症状が他覚的所見(検査結果や画像所見によって外部から認識できること)により、事故による症状として証明可能な場合をいいます。

  • 14級の局部に神経症状を残すもの

事故の状況、診療経過からわかる症状に連続性・一貫性があり、事故による症状として説明可能であり、医学的に推定できる場合をいいます。

#1:12級と14級の違い

12級と14級の違いは、説明可能か、証明可能かの違いになります。

被害者の自覚症状が事故を原因とするものであることが「医学的に証明できる」場合は12級に該当し、自覚症状が事故の態様などから医学的に証明できないが「説明できる」という範囲に留まる場合は14級が該当します。

それ以外の場合、つまりは医学的に説明することも証明することもできない場合が非該当となります。

なお、医学的に証明できる場合というのは、レントゲンやMRI等の画像所見や、神経学的所見等の他覚的所見をもとに障害が判断できる場合をいいます。

むちうちでは、レントゲンやMRI検査などの画像所見に原因が現れないことが多くあります。

症状が残ってしまっている方は、たとえ画像所見が無くとも適切に14級の後遺障害の認定が受けられるように、後遺障害申請の際には、要点を押さえた後遺症診断書の作成を依頼して、不当な判断をされないようにすることが大切です。

5.後遺障害になった場合の慰謝料

(1)後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、後遺障害を負ってしまったことに対する慰謝料です。

そのため、後遺障害慰謝料を請求するためには、自賠責保険へ後遺障害申請を行い、後遺障害等級の認定を受ける必要があります。

後遺障害慰謝料は、等級毎に支払い金額が異なり、後遺障害慰謝料にも自賠責基準と裁判基準があります。両者の金額の違いは以下のとおりです。

自賠責基準 裁判基準
後遺障害等級14級 32万円 110万円
後遺障害等級12級 94万円(※) 290万円

※2020年3月31日以前に発生した事故の場合93万円

(2)逸失利益

逸失利益とは、後遺障害を負ったことによって将来に亘って発生する損害に対する賠償です。

後遺障害等級14級の認定を受けた場合は、自賠責保険から最大43万円が支払われ、後遺障害等級12級の認定を受けた場合は自賠責保険から最大130万円が支払われます。

裁判基準の場合は、賠償額の計算は以下の計算式によって算定されることとなるため、被害者の収入や年齢によって請求できる金額が変わります。

裁判基準の計算式

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

#1:労働能力喪失率

労働能力喪失率とは、後遺障害が労働能力へ及ぼす影響を割合で表したものです。

自賠法施行令によって、後遺障害等級ごとに定められた割合があります。

後遺障害等級14級の場合、労働能力喪失率は5%です。

#2:労働能力喪失期間

労働能力喪失期間を何年とするかは認定された障害の内容によって異なります。

むちうちの場合、後遺障害等級14級は5年、後遺障害等級12級は10年で算定することになります。

#3:ライプニッツ係数

交通事故で加害者側から賠償を受ける場合、被害者は生涯かけて稼いだはずの金額を一括で受け取ることになります。

ライプニッツ係数とは、一括で受け取ったことによって生じる利益を控除し、実態に即した賠償額に近づけるための指数です。

「中間利息控除」ともいいます。

6.慰謝料以外の損害

交通事故被害に遭った場合、加害者へ請求できるのは慰謝料だけではありません。

慰謝料以外の損害で加害者へ請求できるものは、大きくわけると物に関する損害(物的損害)と、人に関するもの(人的損害)とがあります。

物的損害の代表的なものは車両ですが、それだけではなく衣服など事故に遭ったときに身につけていたもの(着衣・携行品)なども損害に含まれます。

人的損害は、怪我を負ったことによって生じた損害で、治療費だけでなく、通院にかかった交通費、休業損害、付添い費、入院雑費、診断書の文書料等があります。

請求できるものは、被害者の方のご状況によって異なります。

ご自身の場合は何を請求できるのかを知りたいという方は、弁護士へご相談いただくことをお勧めします。

また、加害者側の保険会社は、被害者が実際にその費用を負担していることの証明として領収書の原本を要求します。

そのため、基本的に交通事故に関する出費の領収書は保管しておくことをお勧めします。

7.納得のいく慰謝料を請求する3つのポイント

むちうちで適切な賠償を受けるためには、ただ示談交渉を頑張ればいいというものではありません。

慰謝料は受傷によって被った精神的苦痛に対する賠償であり、それが客観的にわかる必要があるため、事前の備えが肝心です。

特に、通院を始めたばかりの方は、ご自身が後遺障害に該当するような症状なのかそうではないのかを自身で把握することは容易ではありません。

いざ後遺障害が残った場合に困ることがないよう、治療初期段階から万が一の場合を意識して備えておくことが大切です。

以下で各段階のポイントについて解説します。

(1)通院

慰謝料の算定においては、医師が作成する診断書や診療報酬明細書等が間接的な証拠となることから、通院が大切です。

また、むちうちの場合は通院の頻度も大切となります。

なぜならば、通院の頻度は被害者がどれだけ傷みを感じていたのかを間接的に疎明する事実となるからです。

さらに、裁判基準の慰謝料の算定方法において、特定の要件に満たす方の場合に月10回以上の通院をしているか否かで計算式が異なるケースがあります。

したがって、月10回、1週間あたりにすると週2~3回程度の通院を医師が必要だと考えている範囲で継続することがひとつの目安となります。

もっとも、交通事故賠償においては必要性・相当性という概念があるため、やみくもにたくさん通えばいいというものではありません。

加えて、治療費が嵩むと自賠責保険の上限である120万円に達してすることが早まり、120万円に達しそうな場合、加害者側の保険会社は治療費の内払いを打切ってくることがあるため注意が必要です。

さらに、後に後遺障害となる可能性を考えると、通院を途中で止めたりしないこと、医師に自覚症状を正確に伝えること、医師の指示にしたがった服薬を継続することが大切になります。

なぜならば、神経症状での後遺障害等級の認定にあたっては、交通事故発生から症状固定までの症状の「連続性・一貫性」が判断のポイントとなるためです。

被害者が医師に何を訴えていたか、どの程度の頻度で病院に通っていたか、どのような薬を処方されていたか等の事実が反映された資料、具体的には、診断書や診療報酬明細書等が被害者に自覚症状が連続して存在していたことを客観的に把握するための有力な証拠となります。

また、後遺障害等級の調査にあたっては当然ですが医師の見解が重要視されます。

そのため、整形外科への通院が重要となります。

むちうちの場合、「電気治療やマッサージの方が楽になる」「夜遅くまでやっているから働きながらでも通いやすい」等の理由から、整形外科よりも整骨院や接骨院をメインで通っている被害者の方は多いです。

もちろん、整骨院や接骨院に通うこと自体は問題ないことです。

しかし、後遺障害等級認定のためには、整形外科へ通院することを疎かにしないように気をつけていただく必要があります。

(2)後遺障害等級認定申請

むちうちは、通院を6か月程度継続しても症状が残っている場合は、後遺障害に該当する可能性があります。

その場合は、自賠責保険へ後遺障害等級認定申請を行う必要があります。

後遺障害診断書は、後遺障害等級認定にあたって最も重要な書類であり、医師に作成してもらうことになります。

症状固定日に医師の診察を受け、その時点での症状等について後遺障害診断書に記してもらうことになります。

むちうちの場合、①自覚症状、②画像所見、③神経学的検査の3点の整合性が後遺障害等級の認定にあたってのポイントとなっているとされています。

#1:自覚症状

自覚症状を医師に伝える際は、正確に伝えるようにしましょう。

むちうちで被害者の方に生じる症状は様々なものがあります。

医師に全部伝えないといけないと過敏になる必要はないのですが、事故後に悩むようになった症状についてはなるべく医師に伝えるようにすることをお勧めします。

そして、多くの方が悩む痛み(疼痛)については、伝え方にもひと工夫が必要です。

なぜならば、むちうちにおいては後遺障害に認定され得るのは「常時疼痛」といって断続的に続いている痛みであるとされているからです。

私たちが交通事故被害者の方に自覚症状をおたずねする際、「天気が悪いとき」「疲れたとき」「重いものをもったとき」など、痛み感じる時は限定的だとお答えくださる方は、珍しくありません。

もちろん、それが事実であれば問題はありません。

しかし、常に痛みを抱えている方は痛い状態を当たり前のことと捉えてしまっているため、特に痛いときだけを伝えているというケースは少なくありません。

医師に「最近どうですか。」とたずねられて、「そうですね。やっぱり天気が悪くなると(特に)痛いです。」とお答えしているような方は注意していただく必要があります。

#2:画像所見

後遺障害等級認定申請にあたっては、医師による画像所見を後遺障害診断書に記載することになります。

また、申請時は医師がみたその画像も提出することになります。

むちうちによる神経症状は、受傷部位の神経や筋肉に異常が生じることによって発現します。

したがって、レントゲン画像だけではなく、骨以外の神経根等の組織も確認できるMRI画像を撮影しておくことをお勧めします。

しかし、MRI画像があったとしても、神経症状が生じている全てのケースで画像所見が得られるというわけではありません。

むしろ、かなり重篤な神経症状を抱えている方でもない限り明確な画像所見は得られないことのほうが多いように見受けられます。

画像所見が得られなかったからといってただちに後遺障害等級を得られないと諦める必要はありません。

#3:神経学的検査

後遺障害等級認定を受けるためには、症状を裏付ける他覚所見の存在が重要となりますが、むちうちの場合は、画像等によっては原因や症状の程度を判断できないことが少なくありません。

そこで重要となるのが神経学的検査です。

神経学的検査も被害者本人の主観に依存するテストではあるため、陽性所見が得られれば必ずしも後遺障害に該当するというものではありませんが、認定を判断する有力な材料として扱われています。

<頸椎捻挫の場合>

・ジャクソンテスト
頚椎捻挫や頸部挫傷といった、いわゆる「首のむちうち」の場合に行われるテストです。
頚部の神経根が圧迫されているかどうかを確認するためのもので、座った状態で頭を後ろに逸らし、これを検査実施者に上から下に押してもらいます。
この際に肩や腕、指先などに痛みやシビレが誘発されるかどうかを確認します。

・スパーリングテスト
ジャクソンテストと同様に、「首のむちうち」の場合に行われるテストです。
頭を後ろに逸らしたうえ、左右に傾け、検査実施者が上から下に押し下げます。この際に方や腕、指先などに痛みやしびれが誘発されるかどうかを確認します。

<腰椎捻挫の場合>

・SLRテスト(ラセーグテスト)
腰椎捻挫後の痛み、特に坐骨神経痛を調べるために行われるテストです。
平らな場所に仰向けになり、ひざを伸ばしたまま片足を上にあげていきます。
30度以上痛みなくあがった場合には、陰性となりますが、30度までの間で痛みや痺れが生じたり、30度まであげることができなかった場合には、陽性となります。
このテストは腰椎のL4・L5部位の神経及び仙骨のS1・S2・S3の部位の神経に負荷をかけることによって、当該部位の神経圧迫があるかどうかを確認します。

・FNSテスト
腰椎捻挫後の痛み、特に坐骨神経痛を調べるために行われるテストです。
ラセーグテストとは逆に、平らな場所にうつぶせになり、臀部を手で固定された後、膝を90度曲げます。
そして、そのまま検査実施者に、膝を持ってふとももを持ち上げながら股関節を伸ばしてもらいます。
このとき、ふとももに痛みや痺れが生じる場合には陽性となります。

このテストは、L2・L3・L4の間で神経圧迫があるかどうかを確認します。

(3)示談金の提示額に注意する

加害者側の任意保険会社は、治療が終了し後遺障害等級が確定すると、その任意保険会社の基準にしたがって計算した金額をもとに示談を提案してきます。

この時、任意保険会社が提案してくる金額のポイントは、次のとおりです。

・入通院慰謝料
1日4300円(または4200円)という数字が書いてある場合は、自賠責基準です。裁判基準に計算しなおすことによって増額をはかることができる可能性が高いです。

・後遺障害慰謝料、逸失利益
多くの保険会社は、後遺障害慰謝料と逸失利益を「後遺障害に関する慰謝料」というような記載で合算で記載しています。

金額は自賠責から支払われる上限であることがほとんどです。

たとえば、後遺障害等級14級の場合は、自賠責基準の32万円と43万円を足した合計75万円が書いてあることが多いです。

後遺障害等級14級の場合、裁判基準の後遺障害慰謝料だけで110万円であることから、逸失利益も含めると大幅な増額を見込めることが多いです。

8.むちうちの治療打ち切りの連絡がきたとき

むちうちで通院をしていると、治療開始からか月程度のタイミングで加害者側の保険会社から治療費の内払いの打ち切るという連絡を受けることがあります。

その時点で治療が必要ない程度の症状となっているのであれば、治療を終了して示談交渉へ進むことになりますが、症状が残っているのであれば、治療を終了してしまうことは望ましくありません。

なぜならば、症状が残っているうちは後遺障害となる可能性があり、むちうちで後遺障害等級の認定を受けるためには、だいたい6か月程度の通院しているケースが該当するためです。

治療が必要な状態にもかかわらず、3か月程度のタイミングで相手方保険会社から治療費の内払いを打ち切るという連絡を受けてしまった場合の対応は、以下の通りです。

(1)打ち切りの延長交渉をする

保険会社から治療費の打ち切りの連絡を受けた際、交通事故に遭わなければ怪我をすることもなかったにもかかわらず、なぜ治療費の支払いをしなければならないのかと憤りを感じられる方は非常に多いです。

しかし、残念なことに内払いは法的根拠に基づくものではありません。

加害者側の保険会社は、本来交通事故によって生じた損害を解決時に賠償しなければならない立場であるため、被害者の窮状を考慮し、解決時に支払う必要がある賠償金の一部をサービスとして前倒しで支払っているにすぎないのです。

したがって、保険会社が延長しないと判断した場合、延長することを法的に強制するということはできないのです。

では、加害者側の保険会社から打ち切りを判断されてしまった場合になす術はないのかというと必ずしもそうとは限りません。

前述のとおり、保険会社の内払いは、解決時に支払う必要がある賠償金の一部に対する支払いです。

そして、保険会社が打ち切りを判断するのは、これ以上の支払いは支払義務があるのかを社内で検討して支払いの必要が無いと判断するときです。

ということは、今支払わずとも解決時に支払わなければならない確度が非常に高いものだと保険会社が判断した場合は、引き続き内払いを継続する可能性があるということです。

もっとも、ただ必要性を訴えかければいいというものではありません。

たとえば医師が作成した医療照会回答書等、被害者の状況を客観的に疎明する資料が必要となり、被害者の方ご本人が手配するのは煩雑です。

そのため、もし治療継続の必要性があるにもかかわらず加害者側の保険会社から打ち切りの打診を受けてしまった方は、一度弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

(2)ご自身で治療費を立て替えて通院を継続する

延長交渉の末に治療費の前払いを打切られてしまった場合は、ご自身で治療費を立て替えながら通院を継続することになります。

立て替えた治療費は、示談交渉の時に加害者側へ請求することになります。

その際、保険会社は被害者の方が支払ったことの証明として領収書を求めてくるため、領収書は示談交渉時まで保管しておく必要があります。

また、交通事故による入院や通院にかかる治療費は原則自由診療扱いですが、自由診療の場合の治療費全額を交通事故被害者が支払うことはとても大きな負担となります。

健康保険へ切り替える、労災を利用する等、負担額を軽減する方法があります。

もっとも、通院先の医療機関によっては、健康保険適用の方には後遺障害診断書を作成しない等の制約を設けていることがあります。

そういった医療機関で治療を受けている方の場合は、健康保険へ切り替える前に、どのような診断書であれば記載してもらえるのかを医師に確認しておく、場合によっては転院を検討するといったことも視野にはいってきます。

いずれにしても、治療費打ち切りの際は慎重に対応する必要があるため、切り替えの際は一度弁護士へご相談いただくことをお勧めします。

9.むちうちの相談事例

(1)【頚椎捻挫】後遺障害等級14級で、163万円の増額した事例

<事故態様>車vs車
被害者は、車で走行中に加害車両に後ろから追突されました。

<認定された後遺障害等級>
14級9号 局部に神経症状を残すもの

<解決に至るまで>
被害者は、病院で頚椎捻挫と腰椎捻挫の治療を受けていましたが、約7ヶ月経過したところで、相手方保険会社から治療費の前払い対応の打ち切りにあいました。

痛み等の神経症状がまだ残っていたため、後遺障害認定申請を行い、14級9号の認定を受けました。

その後、相手方保険会社から示談金の提示を受けましたが、示談金の金額に納得がいかず、当事務所に相談にみえました。

当事務所が依頼を受けて交渉した結果、相手方保険会社が提示していた示談額から、163万円増額しました。

(2)後遺障害等級認定申請・異議申立を経て12級13号の認定を受けた事例

<事故態様>車vs車
被害者は、車で停止中に後ろから追突されました。

<解決に至るまで>
被害者はこの交通事故で頚椎捻挫、腰椎捻挫、肩の挫傷等の怪我を負いました。

約5ヶ月にわたり治療を継続しましたが、痛みや痺れなどの症状が根強く残っていました。

被害者はこれらの症状がこのまま残るのであれば、後遺障害等級の認定を受けて適切な賠償を受けたいと当事務所にご相談にみえました。

当事務所が被害者から依頼を受けて自賠責保険に後遺障害認定申請を行った結果、当初は頚椎捻挫の痛みや痺れにより、後遺障害等級14級9号が認められました。

しかし、当事務所の弁護士は、被害者の受傷状況が認定結果に適切に反映されていないと判断し、依頼者と協議の上、異議申立を行いました。

補強資料を準備して異議申立を行った結果、前回より等級が上がり、後遺障害等級12級13号が認定されました。

認定された等級を元に粘り強く交渉を継続した結果、680万円の支払いで解決に至りました。

10.むちうちを弁護士に相談するメリット

交通事故によりむちうちになった方が弁護士に相談することのメリットは、安心して治療に専念していただくことができるという点です。

これまで解説してきたように、むちうちは発現する症状やその程度は画一的なものではないことから予後が読めない傾向にあります。

同時に、骨折や脱臼などの器質的損傷を伴わないため、客観的証拠に乏しく、被害者の方の精神的苦痛を賠償へ反映させることが難しいという側面を持っているため、あらかじめ賠償へ反映させるための事前準備の必要があります。

しかし、具体的に何をしておけばいいのかを交通事故被害者の方が調べながら対応していくことは困難です。

インターネット上には色々な記事がありますが、そこに記載されているのはあくまで一般的な事例にすぎず、その被害者の方が必ずしも当てはまるとは限りません。

そのため、弁護士へ相談し、ご自身固有のケースにおける注意点や今後の見通しを把握しておくことが大切です。

また、後遺障害等級認定申請や示談交渉を専門家に任せることは、目に見えてわかりやすいメリットとなることが少なくありません。

後遺障害等級認定申請と示談交渉は、弁護士をつけなくとも解決することはできますが、弁護士が介入した場合と比較するとその結果は大きく異なることがあります。

特に、後遺障害等級12級が認定されるようなケースだと、弁護士が介入するかしないかでその差が数百万円となることもあります。

まとめ

むちうちと慰謝料についてご理解いただけたでしょうか。

交通事故で最も多い受傷がむちうちです。

むちうちは、交通事故に限らず日常生活でも耳馴染みのある怪我であることに加え、初診時の診断書に数週間の加療と記載されることもあるため、「すぐによくなるだろう」と考えてしまいがちです。

しかし、そのようなことはありません。

実際、初診時の診断書に3週間の加療と記載されていても、実際は6か月の通院が必要であり、後遺障害等級の認定を受けたという方は珍しくありません。

ここを読んでご自身の場合はどうなのだろうと思われた方は是非一度ご相談ください。

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